ARNIとACE阻害薬/ARBの血糖値と糖尿病発症に対する影響はどのくらいか?(RCTのメタ解析; BMC Med. 2022)

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アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)は血糖や糖尿病発症に影響するのか?

サクビトリル/バルサルタンとアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEi)/アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)療法は、血糖コントロールと糖尿病(DM)発症に影響することが報告されていますが、低血糖を引き起こすことも報告されており、結果は一貫していません。

そこで今回は、サクビトリル/バルサルタンとACEi/ARBのDMにおける効果に関するエビデンスを検討したメタ解析の結果をご紹介します。

本試験では、Cochrane Central Register of Controlled Trials(The Cochrane Library)、Embase、PubMed、ClinicalTrials.govについて、2022年5月25日の時点で、患者を対象としたサクビトリル/バルサルタンおよびACEi/ARBの効果を評価したランダム化臨床試験(RCT)のデータが検索されました。患者は、ベースライン時の疾患背景によってグループ分けされました。

本試験の主要アウトカムは、ベースラインから試験終了までの新規DM発症数および低血糖、血糖値上昇、DMコントロール不良、糖尿病治療、糖尿病合併症の発症数でした。

試験結果から明らかになったことは?

本研究では、31件のRCTと86,809例の被験者が対象となりました。

(サクビトリル/バルサルタン vs. プラセボ)新規DM発症リスク低血糖リスク
全患者RR 0.78(95%CI 0.64~0.95RR 1.91(95%CI 1.05~3.47
全HF患者RR 0.24(95%CI 0.12~0.48
HFrEFRR 0.24(95%CI 0.12~0.50
HFpEFRR 0.54(95%CI 0.34~0.85RR 7.06(95%CI 2.10~23.76
非DM患者
(試験開始時にDMを有する一部の患者と定義)
RR 5.71(95%CI 2.02~16.21

プラセボと比較して、サクビトリル/バルサルタン投与は、全患者(RR 0.78、95%CI 0.64~0.95)、全心不全(HF)患者(RR 0.24、95%CI 0.12~0.48)、駆出率低下型HF(HFrEF)(RR 0.24、95%CI 0.12~0.50)、駆出率保持型HF(HFpEF)(RR 0.54、95%CI 0.34~0.85)で新規DM発症リスクを著しく減少させました。一方、サクビトリル/バルサルタン投与は、全患者(RR 1.91、95%CI 1.05~3.47)、非DM患者(試験開始時にDMを有する一部の患者と定義)(RR 5.71、95%CI 2.02~16.21)、HFpEF患者(RR 7.06、95%CI 2.10~23.76)で低血糖リスクを顕著に増加させました。

(サクビトリル/バルサルタン vs. ACEi/ARB)低血糖リスク
全HF患者RR 1.85(95%CI 1.12~3.06)、p=0.02
HFpEFRR 3.59(95%CI 1.51~8.55)、p=0.004

ACEi/ARBと比較して、サクビトリル/バルサルタン投与は、全HF患者(RR 1.85、95%CI 1.12~3.06、p=0.02)およびHFpEF患者(RR 3.59、95%CI 1.51~8.55、p=0.004)で低血糖リスクを著しく増加させました。

(ACEi/ARB vs. プラセボ)新規DM発症リスク低血糖リスク
全患者RR 0.85(95%CI 0.77~0.93)、p=0.0007
HFpEFRR 0.60(95%CI 0.44~0.83)、p=0.002
非DM患者
(試験開始時にDMを有する一部の患者と定義)
RR 2.06(95%CI 1.172~3.61)、p=0.01
非HF患者
(試験開始時にDMを有する一部の患者と定義)
RR 0.87(95%CI 0.82~0.93)、p<0.0001

プラセボと比較して、ACEi/ARBは全患者(RR 0.85、95%CI 0.77~0.93、p=0.0007)および非HF患者(試験開始時にHFを有する一部の患者として定義)(RR 0.87、95%CI 0.82~0.93、p<0.0001) 、HFpEF(RR 0.60、95%CI 0.44~0.83、p=0.002)における新規DM発症リスク、非HF(/すべて非DM)患者の糖尿病合併症リスク(RR 0.87、95%CI 0.76~0.99、p=0.04)、新規DM発症患者のその後の糖尿病治療のリスク(RR 0.70、95%CI 0.58~0.84、p=0.0002) を著しく低減させました。また、非DM患者における低血糖のリスクを有意に増加させました(RR 2.06、95%CI 1.172~3.61、p=0.01)。

コメント

ARNIおよびACEi/ARBは、血糖コントロールや糖尿病発症に影響する可能性が報告されていますが、充分に検討されていません。

さて、本試験結果によれば、プラセボと比較して、ARNIであるサクビトリル/バルサルタンあるいはACEi/ARBの投与は、低血糖リスクを増加させました。また、一部の患者集団においては、糖尿病の新規発症リスクを低減することが示されました。あくまでも糖尿病を発症していない(糖尿病予備軍を含む)集団においては、高血糖や糖尿病発症リスクを高める可能性は低そうです。

今回の対象となった全患者においては、糖尿病の新規発症リスクを低減しそうです。ただし、個々の集団のサブグループ解析の結果については、あくまでも傾向が示された部過ぎません。どのような患者集団で、より糖尿病の新規発症リスクを低減できるのかどうか、検証が求められます。

続報に期待。

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☑まとめ☑ 特に高血糖およびDMの新規発症の抑制において、サクビトリル/バルサルタンはプラセボあるいはACEi/ARBよりも良好な効果を示すことが明らかとなった。

根拠となった試験の抄録

背景:サクビトリル/バルサルタンとアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEi)/アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)療法は、血糖コントロールと糖尿病(DM)発症に影響すると報告されたが、その知見は一貫していない。我々は、サクビトリル/バルサルタンとACEi/ARBのDMにおける効果に関するエビデンスをメタ解析により検討した。

方法:Cochrane Central Register of Controlled Trials(The Cochrane Library)、Embase、PubMed、ClinicalTrials.govについて、2022年5月25日の時点で、患者を対象としたサクビトリル/バルサルタンおよびACEi/ARBの効果を評価したランダム化臨床試験(RCT)のデータを検索した。患者は、ベースライン時の疾患背景によってグループ分けした。
主要アウトカムは、ベースラインから試験終了までの新規DM発症数および低血糖、血糖値上昇、DMコントロール不良、糖尿病治療、糖尿病合併症の発症数である。バイアスのリスクは、ランダム化試験用の改訂版Cochrane risk-of-bias tool(ROB2)を用いて評価した。エビデンスの質は、Recommendations for Assessment, Development, and Evaluation(評価、開発、評価のための勧告)ガイドラインに従って評価した。様々なアウトカムの発生率のメタ解析は、固定効果モデルまたはランダム効果モデルを用いて行った。結果はバイナリリスク、95%信頼区間(CI)、相対リスク(RR)で表される。Mantel-Haenszel法およびZ検定により、全体の結果を決定し、RRの有意性を判定した。

結果:本研究では、31件のRCTと86,809例の被験者を対象とした。プラセボと比較して、サクビトリル/バルサルタン投与は、全患者(RR 0.78、95%CI 0.64~0.95)、全心不全(HF)患者(RR 0.24、95%CI 0.12~0.48)、駆出率低下型HF(HFrEF)(RR 0.24、95%CI 0.12~0.50)、駆出率保持型HF(HFpEF)(RR 0.54、95%CI 0.34~0.85)で新規DM発症リスクを著しく減少させた。一方、サクビトリル/バルサルタン投与は、全患者(RR 1.91、95%CI 1.05~3.47)、非DM患者(試験開始時にDMを有する患者の一部と定義)(RR 5.71、95%CI 2.02~16.21)、HFpEF患者(RR 7.06、95%CI 2.10~23.76)で低血糖リスクを顕著に増加させた。ACEi/ARBと比較して、サクビトリル/バルサルタン投与は、HF患者(RR 1.85、95%CI 1.12~3.06、p=0.02)およびHFpEF患者(RR 3.59、95%CI 1.51~8.55、p=0.004)で低血糖リスクを著しく増加させた。
プラセボと比較して、ACEi/ARBは全患者(RR 0.85、95%CI 0.77~0.93、p=0.0007)および非HF患者(試験開始時にHFを有する患者として定義)(RR 0.87、95%CI 0.82~0.93、p<0.0001) 、HFpEF(RR 0.60、95%CI 0.44~0.83、p=0.002)における新規DM発症リスク、非HF(/すべて非DM)患者の糖尿病合併症リスク(RR 0.87、95%CI 0.76~0.99、p=0.04)、新規発症DM患者のその後の糖尿病治療のリスク(RR 0.70、95%CI 0.58~0.84、p=0.0002) を著しく低減させた。また、非DM患者における低血糖のリスクを有意に増加させた(RR 2.06、95%CI 1.172~3.61、p=0.01)。

結論:本研究の結果、特に高血糖およびDMの新規発症の抑制において、サクビトリル/バルサルタンは良好な効果を示すことが明らかとなった。ACEi/ARBも有益な効果を示したが、その効果はサクビトリル/バルサルタンよりも弱かった。上記の効果は疾患によって異なるが、HFの患者において最も強いエビデンスが得られた。

試験登録:CRCD42022336311

キーワード:アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEi);アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB);糖尿病;心不全;Sacubitril/Valsartan

引用文献

Effect of sacubitril/valsartan and ACEI/ARB on glycaemia and the development of diabetes: a systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials
Ruxin Wang et al. PMID: 36527023 PMCID: PMC9758945 DOI: 10.1186/s12916-022-02682-w
BMC Med. 2022 Dec 17;20(1):487. doi: 10.1186/s12916-022-02682-w.
— 読み進める pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36527023/

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