心房細動患者におけるABC pathwayに基づくアドヒアランスの効果は?
Atrial Fibrillation Better Care(ABC)pathwayとは、2017年にLip医師が提唱した「心房細動の統合的マネジメント」です。具体的には、A:脳卒中予防、B:症状の治療、C:リスク因子、これら3つの管理方法です。Aはバーミンガム3ステップと名付けられ、ステップ1:低リスクの同定、ステップ2:CHA2DS2-VAScスコアの評価、ステップ3:SAMe-TTsRsスコアの評価です。
このABC pathwayに基づき患者のリスク分類を行い、疾患を管理していくことで、患者転帰が良好となることが報告されています。しかし、高リスクの心房細動(AF)患者におけるABC pathwayの効果はまだ不明です。
そこで今回は、高リスクAF患者におけるABC pathway遵守が臨床転帰に及ぼす影響を評価したレジストリー研究の結果をご紹介します。
EORP-AF General Long-Term Registryは、欧州27か国250施設からなる前向き観察型レジストリです。高リスク患者は、CKD(eGFR<60mL/min/1.73m2)、高齢者(≧75歳)、血栓塞栓症の既往のいずれかを有する患者と定義されました。
本試験の主要評価項目は、全死亡、血栓塞栓症、急性冠症候群の複合イベントでした。
試験結果から明らかになったことは?
6,646例の心房細動患者がスクリーニングされました(年齢中央値 70[IQR 61〜77]歳、女性40.2%)。CKD(n=1,750)、高齢(n=2,236)、血栓塞栓症の既往(n=728)のいずれかを有する患者は3,304例(54.2%)でした。このうち、924例(28.0%)がABC pathwayを遵守して管理されました。
主要転帰*の発生リスク(IRRあるいは調整ハザード比 aHR) | |
ABC pathwayに基づき忠実に管理された高リスク患者 | IRR 0.53 (95%CI 0.43〜0.64) |
高リスクコホート | aHR 0.64 (95%CI 0.51〜0.80) |
CKD | aHR 0.51 (95%CI 0.37〜0.70) |
高齢者 | aHR 0.69 (95%CI 0.53〜0.90) |
高リスク患者全体 | aHR 0.3 (95%CI 0.25〜0.61) |
2年後のフォローアップでは、966例(14.5%)が主要転帰を報告しました。
主要転帰の発生率は、ABC pathwayに基づき忠実に管理された高リスク患者で有意に低いことが示されました(IRR 0.53[95%CI 0.43〜0.64])。個々のサブグループにおいても同様の結果でした。多変量Cox比例ハザード解析により、高リスクコホートにおけるABC pathway遵守は、主要転帰のリスク低下(aHR 0.64 [95%CI 0.51〜0.80])、CKD(aHR 0.51[95%CI 0.37〜0.70])と高齢者のサブグループ(aHR 0.69[95%CI 0.53〜0.90])と独立して関連することが示されました。全体として、高リスク患者全体(aHR 0.39[95%CI 0.25〜0.61])でも、個々のサブグループでも、ABC基準を満たすほど主要転帰のリスクはより低くなることが示されました。
※主要分析では、以下のA基準、B基準、C基準が良好ならばそれぞれ1ポイントとし、合計スコアを0から3で評価。
A基準:ベースラインの血栓塞栓症リスクに基づいて、男性はCHA2DS2-VASスコアが1以上、女性は2以上の患者に、経口抗凝固薬が適切に処方されており、血栓塞栓症リスクが低い場合(男性はスコア0で女性は1)には処方されていない状態をアドヒアランス良好とした。
B基準:ベースラインのEHRAスコアを用いて、症状管理の状態を評価。EHRAスコアがI(症状なし)またはII(軽症)であれば、アドヒアランス良好とした。
C基準:ベースラインの併存疾患とそれに対する治療に基づいて評価した。標準C基準は、高血圧、糖尿病、冠動脈疾患、うっ血性心不全、脳卒中/一過性脳虚血発作歴、末梢動脈疾患の存在と治療について評価した。拡大C基準ではそれらに脂質異常症、胃炎/十二指腸炎または消化性潰瘍、甲状腺機能亢進症を追加し、評価した。標準C基準については6つの併存疾患のうちの5つ以上、拡大C基準では9つの併存疾患のうちの7つ以上について、情報が得られた患者を評価の対象とした。併存疾患を有さない患者と、全ての併存疾患に対して適切な治療が行われていた患者をアドヒアランス良好と見なした。
コメント
心房細動患者は心不全の併発などを含めて脳梗塞リスクが高くなることから、包括的、統合的な疾患管理が求められます。2017年に提唱されたABC pathwayに基づくリスク管理により、心房細動患者の転帰が向上することが示されていますが、高リスク集団における検証は充分に行われていません。
さて、本試験結果によれば、大規模な心房細動患者コホートにおいて、CKD、高齢(75歳以上)、血栓塞栓症の既往のいずれかを有する高リスク患者において、ABC pathway遵守が高いと全死亡、血栓塞栓症、急性冠症候群の複合イベントの発生率が低くなることが示されました。
A:脳卒中予防、B:症状の治療、C:リスク因子、これら3つの管理に基づくABC pathwayは、心房細動患者のリスクの程度に関わらず有効なようです。
✅まとめ✅ 大規模な心房細動患者コホートにおいて、CKD、高齢(75歳以上)、血栓塞栓症の既往のいずれかを有する高リスク患者において、ABC pathway遵守が高いと全死亡、血栓塞栓症、急性冠症候群の複合イベントの発生率が低かった。
根拠となった試験の抄録
背景:高リスクの心房細動患者におけるAtrial Fibrillation Better Care(ABC)pathway アドヒアランスの効果はまだ不明である。我々は、これらの高リスク患者におけるABCアドヒアランスが臨床転帰に及ぼす影響を評価することを目的とした。
方法:EORP-AF General Long-Term Registryは、欧州27か国250施設からなる前向き観察型レジストリである。高リスク患者は、CKD(eGFR<60mL/min/1.73m2)、高齢者(≧75歳)、血栓塞栓症の既往のいずれかを有する患者と定義された。
主要評価項目は、全死亡、血栓塞栓症、急性冠症候群の複合イベントとした。
結果:6,646例の心房細動患者がスクリーニングされた(年齢中央値 70[IQR 61〜77]歳、女性40.2%)。CKD(n=1,750)、高齢(n=2,236)、血栓塞栓症の既往(n=728)のいずれかを有する患者は3,304例(54.2%)であった。このうち、924例(28.0%)がABC pathwayを遵守して管理された。2年後のフォローアップでは、966例(14.5%)が主要転帰を報告した。主要転帰の発生率は、ABC pathwayに忠実に管理された高リスク患者で有意に低かった(IRR 0.53[95%CI 0.43〜0.64])。個々のサブグループにおいても一貫した結果が得られた。多変量Cox比例ハザード解析により、高リスクコホートにおけるABC pathwayアドヒアランスは、主要転帰のリスク低下(aHR 0.64 [95%CI 0.51〜0.80])、CKD(aHR 0.51[95%CI 0.37〜0.70])と高齢者のサブグループ(aHR 0.69[95%CI 0.53〜0.90])と独立して関連することが示された。全体として、高リスク患者全体(aHR 0.39[95%CI 0.25〜0.61])でも、個々のサブグループでも、ABC基準を満たすほど主要転帰のリスクはより低くなった。
結論:現代の大規模な心房細動患者コホートにおいて、CKD、高齢(75歳以上)、血栓塞栓症の既往のいずれかを有する高リスク患者において、ABC pathwayの遵守が有意な利益と関連することを証明した。
キーワード:慢性腎臓病、高齢者、ホリスティック、統合、レジストリ、血栓塞栓症
引用文献
Impact of ABC (Atrial Fibrillation Better Care) pathway adherence in high-risk subgroups with atrial fibrillation: A report from the ESC-EHRA EORP-AF long-term general registry
Wern Yew Ding et al. PMID: 36372692 DOI: 10.1016/j.ejim.2022.11.004
Eur J Intern Med. 2022 Nov 10;S0953-6205(22)00387-9. doi: 10.1016/j.ejim.2022.11.004. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36372692/
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