降圧治療薬により、てんかん発症率に違いはあるのか?
動脈性高血圧は、てんかん発症率の上昇と関連しています。動物実験の結果、アンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)療法がてんかん発作を抑制する可能性が示唆されました。しかし、ヒトにおけるARB治療の臨床データは充分ではありません。
そこで今回は、高血圧患者において、ARB治療がてんかんの発生率低下と関連するかどうかについて、他の降圧治療薬クラスと評価したコホート研究の結果をご紹介します。
本コホート研究では、Disease Analyzerデータベース(IQVIA)から、高血圧症で少なくとも1回の降圧剤処方を受けた18歳以上の患者データが用いられました。患者は、2010年1月から2020年12月の間に、ドイツ国内の1,274施設の一般診療所で診療を受けました。少なくとも1種類の降圧剤を処方された1,553,875例の患者データが入手可能でしたが、指標日以前または指標日から3ヵ月後までにてんかんと診断された患者は除外されました。
合計168,612例の患者が傾向スコアマッチングに含まれました。4種類の降圧薬(β遮断薬、ARB、アンギオテンシン変換酵素阻害薬、カルシウム拮抗薬[CCB])のうち1種類で治療を受けた患者を、傾向スコアを用いて互いにマッチングさせました。
本試験の主要アウトカムは、他の降圧薬クラスと比較したARB治療に関連するてんかんの発生率でした。Cox回帰モデルを用いて、他のすべての降圧薬クラスをグループとした場合のてんかんの発生率とARBとの関連について検討されました。
試験結果から明らかになったことは?
本研究では、合計168,612例の患者を対象とし、各高血圧薬クラスは42,153例でした。患者の平均[SD]年齢は62.3[13.5]歳であり、21,667例(51.4%)が女性でした。
てんかん発症率 | ARB | β遮断薬 | Ca拮抗薬(CCB) |
1年時 | 0.27% | 0.38% | 0.38% |
2年時 | 0.63% | 0.91% | 0.91% |
5年時 | 0.99% | 1.47% | 1.48% |
ハザード比 0.77 (95%CI 0.65〜0.90) |
5年以内のてんかん発症率は、ARB投与群で最も低く(1年時 0.27%、3年時 0.63%、5年時 0.99%)、β遮断薬とCCB投与群で高いことが示されました(1年時:β遮断薬とCCBともに0.38%、3年時:β遮断薬とCCBともに0.91%、5年時:β遮断薬は1.47%、CCBは1.48%)。アンギオテンシン受容体拮抗薬投与は、他の薬物クラスと比較して、てんかんの発生率を有意に減少させました(ハザード比 0.77、95%CI 0.65〜0.90)。
コメント
動脈性高血圧は、てんかん発症率の上昇と関連していることから、降圧薬により、てんかん発生率が低下する可能性があります。
さて、本試験結果によれば、コホート研究において、ARB投与は、β遮断薬やCa拮抗薬と比較して、てんかんの発症率を有意に低下させました。したがって、ARBが動脈性高血圧患者におけるてんかん予防のための新しいアプローチとして使用される可能性があります。非常に興味深いアプローチではありますが、交絡因子が残存している可能性が高いことから追試が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ コホート研究において、ARB投与は、β遮断薬やCa拮抗薬と比較して、てんかんの発症率を有意に低下させた。したがって、ARBは動脈性高血圧患者におけるてんかん予防のための新しいアプローチとして使用される可能性があるが交絡因子が残存していることから追試が求められる。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性:動脈性高血圧は、てんかん発症率の上昇と関連している。動物実験の結果、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)療法がてんかん発作を抑制する可能性が示唆された。しかし、ヒトにおけるARB治療の臨床データは不足している。
目的:高血圧患者において、ARB治療がてんかんの発生率低下と関連するかどうかを評価する。
試験デザイン、設定、参加者:本コホート研究では、Disease Analyzerデータベース(IQVIA)から、高血圧症で少なくとも1回の降圧剤処方を受けた18歳以上の患者のデータを入手した。患者は、2010年1月から2020年12月の間に、ドイツ国内の1,274施設の一般診療所で診療を受けた。少なくとも1種類の降圧剤を処方された1,553,875例の患者データが入手可能でした。指標日以前または指標日から3ヵ月後までにてんかんと診断された患者は除外した。合計168,612例の患者が傾向スコアマッチングに含まれた。4種類の降圧薬(β遮断薬、ARB、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、カルシウム拮抗薬[CCB])のうち1種類で治療を受けた患者を、傾向スコアを用いて互いにマッチングさせた。
主要アウトカムと測定法:本試験の主要アウトカムは、他の降圧薬クラスと比較したARB治療に関連するてんかんの発生率であった。Cox回帰モデルを用いて、他のすべての降圧薬クラスをグループとした場合のてんかんの発生率とARBとの関連を検討した。
結果:本研究では、合計168,612例の患者を対象とし、各高血圧薬クラスは42,153例であった。患者の平均[SD]年齢は62.3[13.5]歳であり、21,667例(51.4%)が女性であった。5年以内のてんかん発症率は、ARB投与群で最も低く(1年時 0.27%、3年時 0.63%、5年時 0.99%)、β遮断薬とCCB投与群で高かった(1年時β遮断薬とCCBともに0.38%、3年時β遮断薬とCCBともに0.91%、5年時β遮断薬は1.47%、CCBは1.48%)。アンジオテンシン受容体拮抗薬投与は、他の薬物クラスと比較して、てんかんの発生率を有意に減少させた(ハザード比 0.77、95%CI 0.65〜0.90)。
結論と関連性:高血圧患者を対象とした本コホート研究において、ARB投与はてんかんの発症率を有意に低下させた。この結果は、降圧剤が動脈性高血圧患者におけるてんかん予防のための新しいアプローチとして使用される可能性を示唆している。
引用文献
Association Between Angiotensin Receptor Blocker Therapy and Incidence of Epilepsy in Patients With Hypertension
Corinna Doege et al. PMID: 36251288 PMCID: PMC9577879 (available on 2023-10-17) DOI: 10.1001/jamaneurol.2022.3413
JAMA Neurol. 2022 Oct 17;e223413. doi: 10.1001/jamaneurol.2022.3413. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36251288/
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