SGLT2阻害薬の有益性は対象疾患や腎機能により異なるのか?
グルコース共輸送担体-2(SGLT2)阻害薬は、心不全や慢性腎臓病、あるいは2型糖尿病で動脈硬化性心血管病のリスクが高い患者において、腎臓や心血管系の有害事象のリスクを低減することが大規模試験により明らかにされています。
糖尿病患者を対象とした臨床試験では、糖尿病患者以外の患者を対象とした転帰を個別に評価するようにデザインされたものはありません。
そこで今回は、腎臓アウトカムに対するSGLT2阻害薬の有効性について、疾患や腎機能の程度により得られる効果が異なるのか検証したメタ解析の結果をご紹介します。本試験では、SGLT2阻害薬の臨床試験を系統的にレビューし、メタ解析が行われました。MEDLINEおよびEmbaseデータベースで、データベース開設から2022年9月5日までに発表された臨床試験が検索されました。
対象となった臨床試験は、二重盲検、プラセボ対照、成人(年齢18歳以上)、大規模(1群500人以上)、期間6ヵ月以上のSGLT2阻害薬試験でした。解析に使用した要約レベルのデータは、発表された報告書から抽出するか、試験責任医師から提供されたもので、治療効果を推定するために逆分散加重メタ解析が実施されました。
主な有効性アウトカムは、腎疾患の進行(ランダム化時点からの推定糸球体濾過量[eGFR]の持続的50%以上の減少、持続的なeGFR低下、末期腎疾患、または腎不全による死亡の定義に標準化)、急性腎障害、心血管死または心不全による入院の複合でした。その他のアウトカムは、心血管系疾患と非心血管系疾患による死亡が別々に検討され、主な安全性アウトカムはケトアシドーシスと下肢切断でした。
試験結果から明らかになったことは?
90,413例の参加者を含む13件の試験が確認されました。糖尿病の状態が不明な4例を除外し、90,409例(糖尿病患者 74,804例[82.7%]、非糖尿病患者 15,605例[17.3%]、試験レベルの平均ベースラインeGFRは37.85mL/min/1.73m2)が分析されました。
試験13件 | 相対リスク[RR] vs. プラセボ (95%CI) |
腎臓病の進行リスク | RR 0.63 (0.58〜0.69) |
プラセボと比較して、SGLT2阻害剤への割り付けは、腎臓病の進行リスクを37%減少させ(相対リスク[RR]0.63、95%CI 0.58〜0.69)、糖尿病患者と非糖尿病患者で同様のRRを示しました。
試験4件 | 相対リスク[RR] (95%CI) |
急性腎障害のリスク | RR 0.77 (0.70〜0.84) |
心血管死または心不全による入院のリスク | RR 0.77 (0.74〜0.81) |
心血管系死亡のリスク | RR 0.86 (0.81〜0.92) |
非心血管系死亡のリスク | RR 0.94 (0.88〜1.02) |
4件の慢性腎臓病試験において、腎臓の主診断に関係なく、相対リスクは同程度でした。SGLT2阻害剤は急性腎障害のリスクを23%(0.77、0.70〜0.84)、心血管死または心不全による入院のリスクを23%(0.77、0.74〜0.81)減少させ、これも糖尿病の有無にかかわらず同様の効果がみられました
SGLT2阻害薬は心血管系死亡のリスクも減少させましたが(0.86、0.81〜0.92)、非心血管系死亡のリスクは有意ではありませんでした(0.94、0.88〜1.02)。これらの死亡アウトカムに関しては、糖尿病患者と非糖尿病患者でRRは同程度でした。
すべてのアウトカムにおいて、試験の平均ベースラインeGFRに関係なく、結果はほぼ同様でした。絶対効果の推定値によると、SGLT2阻害の絶対的な有益性は、ケトアシドーシスや切断の重篤な危険性を上回りました。
コメント
SGLT2阻害薬は糖尿病治療薬として承認され、その後、心不全や慢性腎障害についても適応追加が承認されました。SGLT2阻害薬は腎進行リスクを低下させますが、この効果が対象疾患により異なるのかについては充分に検討されていません。
さて、本試験結果によれば、心血管系リスクの高い2型糖尿病患者のみならず、糖尿病の状態、原発性腎疾患、腎機能にかかわらず、慢性腎疾患や心不全を有する患者においても、腎疾患進行や急性腎障害のリスクを軽減することが示されました。
とはいえ、どのような患者でSGLT2阻害薬の有益性が最大化するのか、治療開始タイミングはいつなのか、など情報の集積が待たれます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 心血管系リスクの高い2型糖尿病患者のみならず、糖尿病の状態、原発性腎疾患、腎機能にかかわらず、慢性腎疾患や心不全を有する患者においても、腎疾患進行や急性腎障害のリスクを軽減するためにSGLT2阻害薬の使用することを支持する結果がメタ解析で示された。
根拠となった試験の抄録
背景:グルコース共輸送担体-2(SGLT2)阻害薬は、心不全や慢性腎臓病、あるいは2型糖尿病で動脈硬化性心血管病のリスクが高い患者において、腎臓や心血管系の有害事象のリスクを低減することが大規模試験により明らかにされている。糖尿病患者を対象とした臨床試験では、糖尿病患者以外の患者を対象とした転帰を個別に評価するようにデザインされたものはない。
方法:SGLT2阻害薬の臨床試験を系統的にレビューし、メタ解析を行った。MEDLINEおよびEmbaseデータベースで、データベース開設から2022年9月5日までに発表された臨床試験を検索した。二重盲検、プラセボ対照、成人(年齢18歳以上)、大規模(1群500人以上)、期間6カ月以上のSGLT2阻害薬試験を対象とした。解析に使用した要約レベルのデータは、発表された報告書から抽出するか、試験責任医師から提供されたもので、治療効果を推定するために逆分散加重メタ解析を実施した。
主な有効性アウトカムは、腎疾患の進行(ランダム化時点からの推定糸球体濾過量[eGFR]の持続的50%以上の減少、持続的なeGFR低下、末期腎疾患、または腎不全による死亡の定義に標準化)、急性腎障害、心血管死または心不全による入院の複合であった。その他のアウトカムは、心血管系疾患と非心血管系疾患による死亡を別々に検討し、主な安全性アウトカムはケトアシドーシスと下肢切断とした。本試験はPROSPERO, CRD42022351618に登録されている。
所見:90,413例の参加者を含む13件の試験を確認した。糖尿病の状態が不明な4例を除外し、90,409例(糖尿病患者 74,804例[82.7%]、非糖尿病患者 15,605例[17.3%]、試験レベルの平均ベースラインeGFRは37.85mL/min/1.73m2)を分析した。プラセボと比較して、SGLT2阻害剤への割り付けは、腎臓病の進行リスクを37%減少させ(相対リスク[RR]0.63、95%CI 0.58〜0.69)、糖尿病患者と非糖尿病患者で同様のRRを示した。4件の慢性腎臓病試験において、腎臓の主診断に関係なく、相対リスクは同程度であった。SGLT2阻害剤は急性腎障害のリスクを23%(0.77、0.70〜0.84)、心血管死または心不全による入院のリスクを23%(0.77、0.74〜0.81)減少させ、これも糖尿病の有無にかかわらず同様の効果がみられた。SGLT2阻害薬も心血管系死亡のリスクを減少させたが(0.86、0.81〜0.92)、非心血管系死亡のリスクは有意に減少させなかった(0.94、0.88〜1.02)。これらの死亡アウトカムに関しては、糖尿病のある患者とない患者でRRは同程度であった。すべてのアウトカムにおいて、試験の平均ベースラインeGFRに関係なく、結果はほぼ同様であった。絶対効果の推定値によると、SGLT2阻害の絶対的な有益性は、ケトアシドーシスや切断の重篤な危険性を上回った。
解釈:SGLT2阻害薬の心血管系への有効性が確立されていることに加え、今回のランダム化データは、心血管系リスクの高い2型糖尿病患者のみならず、糖尿病の状態、原発性腎疾患、腎機能にかかわらず、慢性腎疾患や心不全を有する患者においても、腎疾患進行や急性腎障害のリスクを軽減するために使用することを支持するものである。
資金提供:英国医学研究評議会、Kidney Research UK
引用文献
Impact of diabetes on the effects of sodium glucose co-transporter-2 inhibitors on kidney outcomes: collaborative meta-analysis of large placebo-controlled trials
The Nuffield Department of Population Health Renal Studies Group
Lancet 2022. Published:November 06, 2022 DOI:https://doi.org/10.1016/S0140-6736(22)02074-8
ー 続きを読む https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(22)02074-8/fulltext
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