心不全におけるSGLT2阻害薬カナグリフロジンの効果は?(RCT; CHIEF-HF試験; Nat Med. 2022)

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心不全に対するカナグリフロジンの有効性はどのくらいか?

臨床試験の実施にかかる費用は時代とともに大幅に増加し、診療の指針として必要なエビデンスを得るために新しい試験デザインが求められています(PMID: 25881939PMID: 28447664PMID: 23117771)。これらのコストの大きな要素(最大50%)は、施設におけるデータ収集の負担であり、1990年から2010年にかけてほぼ4倍に増加しています(NBER)。現在進行中のコロナウイルス症2019(COVID-19)の世界的流行は、直接の訪問やリソースを要するデータ取得と検証に依存する従来の研究デザインの課題をさらに浮き彫りにしました。臨床試験をより実用的なものにするという要求の高まりに応え、データ収集に既存のレジストリを活用することから(PMID: 21146656)、電子カルテを利用することまで、新しい試験デザインが実施されるようになりました。また、電子カルテを利用して対象患者を特定し、登録、ランダム化、フォローアップを行うもの(PMID: 32186653PMID: 33999548)もあります。臨床試験において訪問をなくすという革新的な方法が提案されていますが、大規模臨床試験は行われていません。

心不全(HF)は、衰弱させる症状、身体的制限、QOL低下などの負担が大きい、一般的な慢性疾患です。承認されている多くの心不全治療薬は、症状に対して中立的または中程度の効果しかないため、この重要な管理目標に対処する治療法は、非常に重要なアンメットニーズとなっています。ナトリウム・グルコース共輸送担体2阻害薬(SGLT2i)は、HFrEF患者およびHFpEF患者における心血管死および入院を減少させるだけでなく、最近では健康状態(症状、機能、QOL)を改善することが示されています(PMID: 31535829PMID: 31524498PMID: 32865377PMID: 26378978PMID: 32219386PMID: 31736335PMID: 34449189PMID: 34711976PMID: 33200892)。患者にとって症状、機能、QOLが重要であることを考えると、HFの全領域、糖尿病の有無にかかわらず、これらの健康状態の改善効果を確認することは、日常診療での使用を拡大することの重要性を強調することができます。

そこで今回は、より効率的で費用対効果の高い臨床試験の必要性と、あらゆるタイプの心不全患者におけるSGLT2iの健康状態への有用性を確認するために、参加者と直接対話しない完全分散型試験として設計された「Canagliflozin: Impact on Health Status, Quality of Life and Functional Status in Heart Failure(CHIEF-HF)」試験の結果をご紹介します。

試験結果から明らかになったことは?

カナグリフロジン群プラセボ群ベースラインからの変化差
12週間のKCCQ TSS平均変化67.1
(SD 22.19)
63.2
(SD 22.32)
4.3ポイント
(95%信頼区間 0.8~7.8
P=0.016

12週間のKCCQ TSSの変化は、カナグリフロジンがプラセボよりも4.3ポイント(95%信頼区間 0.8~7.8、P=0.016)高く、主要評価項目を満たしました。

HFpEFの参加者とHFrEFの参加者、糖尿病の参加者と非参加者で同様の効果が認められ、カナグリフロジンは駆出率(EF)や糖尿病の状態にかかわらず、心不全における症状負担を有意に改善することが示されました。

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心不全に対するSGLT2阻害薬の検証が進められています。大規模臨床試験の結果から、ダパグリフロジン及びエンパグリフロジンは心不全に対する適応を有していますが、カナグリフロジンは心不全の適応を有していません。

さて、本試験結果によれば、12週間のKCCQ TSSの変化は、カナグリフロジンがプラセボよりも4.3ポイント高く、主要評価項目を満たしました。ただし、評価項目はソフトアウトカムであり、合併症や心血管死、死亡リスクについては不明です(試験期間が短いため)。より臨床上重要となるアウトカムに対する検証が求められます。

ちなみにエンパグリフロジンが用いられたEMPERIALプログラムでは、KCCQ-TSSの変化が、HFrEFでは9点以上、HFpEFでは7点以上の改善が臨床的に重要な最小差であり、5~10点の範囲が意味のある閾値であることが確認されています。

本試験結果にそのまま外挿できない可能性はありますが、傾向として捉えることはできます。プラセボとの比較としては、そこまで有効な差ではなさそうです。一方、ベースラインからの平均変化は、カナグリフロジン群で9.2であり、臨床上有効な効果が示されています。

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✅まとめ✅ 12週間のKCCQ TSSの変化は、カナグリフロジンがプラセボよりも4.3ポイント高く、主要評価項目を満たしたが、臨床上より有用なアウトカムの検証が求められる。

根拠となった試験の抄録

背景:従来の大規模な臨床試験では、ナトリウム・グルコース共輸送体2阻害剤が、心不全で駆出率が低下した患者(HFrEF)および心不全で駆出率が保たれている患者(HFpEF)の症状を改善することが示唆されている。COVID-19のパンデミックの中、本研究は患者中心で完全遠隔で行われる新しいタイプの試験で、これらの効果を確認しようとした。

方法:CHIEF-HF試験(NCT04252287)では、EFや糖尿病の状態にかかわらず、HFを有する476例の参加者を、カナグリフロジン100mgまたはプラセボにランダムに割り付けた。スポンサーの優先順位が変わったため、盲検化を解除せずに早期に登録を中止した。
主要評価項目は、カンザスシティ心筋症質問票(KCCQ TSS)の12週間での変化とした。

結果:12週間のKCCQ TSSの変化は、カナグリフロジンがプラセボよりも4.3ポイント(95%信頼区間 0.8~7.8、P=0.016)高く、主要評価項目を満たした。HFpEFの参加者とHFrEFの参加者、糖尿病の参加者と非参加者で同様の効果が認められ、カナグリフロジンはEFや糖尿病の状態にかかわらず、HFにおける症状負担を有意に改善することが示された。

結論:医師と患者の対面でのやりとりを行わずに実施されたこのランダム化二重盲検試験は、将来の全仮想臨床試験のモデルとなり得るものである。

引用文献

The SGLT2 inhibitor canagliflozin in heart failure: the CHIEF-HF remote, patient-centered randomized trial
John A Spertus et al. PMID: 35228753 PMCID: PMC9018422 DOI: 10.1038/s41591-022-01703-8
Nat Med. 2022 Apr;28(4):809-813. doi: 10.1038/s41591-022-01703-8. Epub 2022 Feb 28.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35228753/

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