DOACにフルコナゾールを併用すると出血リスクは増加するのか?
アゾール系抗真菌剤の全身投与は、非ビタミンK拮抗型経口抗凝固薬(NOAC、DOAC)投与中の患者において出血のリスクを高めるとされており(PMID: 29562325)、併用投与は禁忌である(エリキュース、プラザキサ、イグザレルト、リクシアナ)。この相互作用は、アゾール系薬がアピキサバン、リバーロキサバン、エドキサバン(CYP3A4およびP-gp)およびダビガトラン(P-gp)の代謝に関与するチトクロームP450 3A4(CYP3A4)およびP糖蛋白(P-gp)を阻害することにより生じます(PMID: 30040996、PMID: 30951640)。逆説的ではありますが、最も一般的に使用されている全身性抗真菌剤であるフルコナゾール(PMID: 23993932)は、データ不足のためNOAC投与中の患者には公式に禁忌とされていません(PMID: 29562325、エリキュース、プラザキサ、イグザレルト、リクシアナ、PMID: 30951640)。日本においても、フルコナゾール(商品名:ジフルカン)の禁忌としてNOACの記載はなく、併用注意としてリバーロキサバン(商品名:イグザレルト)が記載されているのみです(2022年8月現在)。
しかし、最近の観察研究では、アピキサバンまたはリバーロキサバン投与中の患者において、全身性フルコナゾールが出血リスクの上昇と関連していることが報告されています(PMID: 28973247、PMID: 23305158、PMID: 32881416)。さらに、局所用ミコナゾールとリバーロキサバンの症例報告(Proc Singapore Healthc. 2015)、および非全身性アゾール系薬剤がワルファリン治療に干渉することを示した研究(PMID: 33176127、PMID: 21143257)は、局所アゾール系薬剤がNOACs投与患者の出血リスクの上昇と関連するかどうか疑問を投げかけています。このテーマに関する臨床データは乏しく、外用アゾール系薬剤は市販されているため、潜在的な関連性を調査することが正当化されます。
そこで今回は、デンマークの全国規模の登録データを利用して、アピキサバン、リバーロキサバン、ダビガトランのいずれかを服用している心房細動患者において、フルコナゾールによる全身性抗真菌薬治療または任意のアゾール系薬による局所抗真菌薬治療後の出血リスクを検討したコホート研究の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
アピキサバン、リバーロキサバン、ダビガトランの投与を開始した患者32,340例(36%)、32,409例(36%)、24,940例(28%)が対象となりました。アピキサバン使用患者は、リバーロキサバン使用患者(中央値 75歳、四分位範囲[IQR]70〜84)およびダビガトラン使用患者(中央値 73歳、IQR 66〜80)に比べて高齢でした。
アピキサバン | リバーロキサバン | ダビガトラン | |
出血による入院患者数 | 1,990例 | 2,403例 | 2,277例 |
消化管出血 | 38.7% | 39.8% | 49.7% |
下部消化管出血 | 13.4% | 13.7% | 21.9% |
気道出血 | 20.2% | 14.8% | 25.6% |
調査期間中、アピキサバン、リバーロキサバン、ダビガトランを投与された患者のうち、出血により入院した患者はそれぞれ1,990例、2,403例、2,277例でした。全体として、出血部位は消化管が最も多く、その割合は、アピキサバン、リバロキサバン、ダビガトラン投与患者でそれぞれ38.7%、39.8%、49.7%でした。下部消化管出血は、アピキサバン(13.4%)、リバロキサバン(13.7%)に比べ、ダビガトラン(21.9%)に多くみられました。気道出血は、アピキサバン(20.2%)、ダビガトラン(14.8%)に比べ、リバロキサバン(25.6%)投与群で最も多くみられました。
全身性フルコナゾール曝露後の出血 | アゾール系外用薬曝露後の出血 | |
アピキサバン | OR 3.5 (95%CI 1.4〜10.6) | OR 0.8 (95%CI 0.5〜1.3) |
リバーロキサバン | OR 0.9 (95%CI 0.2~3.0) | OR 1.3 (95%CI 0.9〜2.1) |
ダビガトラン | OR 1.7 (95%CI 0.5~5.6) | OR 1.2 (95%CI 0.8〜1.8) |
アピキサバン使用者は、全身性フルコナゾール曝露後の出血リスクが有意に上昇しました(オッズ比(OR)3.5、95%信頼区間(CI) 1.4〜10.6)。リバーロキサバンおよびダビガトラン使用者におけるORはそれぞれ0.9(95%CI 0.2~3.0)、1.7(95%CI 0.5~5.6)であり、リスクの増加は認められなかった。アゾール系外用薬への曝露に関連する出血リスクについては、アピキサバン、リバーロキサバン、ダビガトラン使用者で、それぞれ0.8(95%CI 0.5〜1.3)、1.3(95%CI 0.9〜2.1)、1.2(95%CI 0.8〜1.8)であり、関連を認めないことが示された。
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フルコナゾールは、薬物代謝酵素であるCYP2C9、2C19及び3A4を阻害することから、薬物-薬物相互作用を引き起こします。心房細動患者によく使用されるDOACは、P-糖タンパクとCYP3A4の代謝を受けることから、それらを阻害する薬剤の併用によりDOACの作用が増強され、出血リスクが増加することが知られています。しかし、フルコナゾールとDOACとの併用による影響については充分に検討されていません。
さて、本試験結果によれば、アピキサバン、リバーロキサバン、ダビガトランのいずれかを投与されている心房細動患者において、出血リスクの上昇との関連性が示されました。アピキサバン投与患者において、全身性フルコナゾールの使用と出血リスクの上昇との間に関連性が認められました。アピキサバンとリバーロキサバンは、CYP3A4の強力な阻害剤に分類されますが、実臨床における相互作用の影響は異なるようです。あくまでも傾向が示されたに過ぎませんが、フルコナゾールを併用する場合、アピキサバン以外のDOACを使用した方が良いのかもしれません。
続報に期待。
✅まとめ✅ アピキサバン、リバーロキサバン、ダビガトランのいずれかを投与されている心房細動患者において、出血リスクの上昇との関連性が示された。アピキサバン投与患者において、全身性フルコナゾールの使用と出血リスクの上昇との間に関連性が認められた。
根拠となった試験の抄録
背景:アピキサバン、リバーロキサバン、ダビガトランで治療中の心房細動患者におけるフルコナゾール全身投与およびアゾール系外用薬の使用に関する出血の安全性は、臨床との関連性が示唆される報告がいくつかあるものの、十分な検討はなされていない。
方法:デンマークの全国規模の登録を用い、2012~2018年にアピキサバン、リバーロキサバン、ダビガトランの投与を開始された心房細動患者を同定した。30日間の曝露期間を設けたケースクロスオーバーデザインを用いて、出血事故とフルコナゾール全身投与またはアゾール外用剤投与との関連を検討し、95%信頼区間(CI)付きのオッズ比(OR)を報告した。
結果:アピキサバン、リバーロキサバン、ダビガトランの投与を開始した患者32,340例(36%)、32,409例(36%)、24,940例(28%)が対象となった。アピキサバン使用患者は、リバーロキサバン使用患者(中央値 75歳、四分位範囲[IQR]70〜84)およびダビガトラン使用患者(中央値 73歳、IQR 66〜80)に比べて高齢であった。アピキサバン使用者は、全身性フルコナゾール曝露後の出血リスクが有意に上昇した(オッズ比(OR)3.5、95%信頼区間(CI) 1.4〜10.6)。リバーロキサバンおよびダビガトラン使用者におけるORはそれぞれ0.9(95%CI 0.2~3.0)、1.7(95%CI 0.5~5.6)であり、リスクの増加は認められなかった。アゾール系外用薬への曝露に関連する出血リスクについては、アピキサバン、リバーロキサバン、ダビガトラン使用者で、それぞれ0.8(95%CI 0.5〜1.3)、1.3(95%CI 0.9〜2.1)、1.2(95%CI 0.8〜1.8)であり、関連を認めないことが示された。
結論:アピキサバン、リバーロキサバン、ダビガトランのいずれかを投与されている心房細動患者において、出血リスクの上昇との関連性が示された。アピキサバン投与患者において、全身性フルコナゾールの使用と出血リスクの上昇との間に関連性が認められた。また、アゾール系外用薬との併用による出血リスクの上昇は認められなかった。
キーワード:心房細動、アゾール系薬剤、薬物安全性、薬物間相互作用、フルコナゾール、NOAC
引用文献
Bleeding Risk Following Systemic Fluconazole or Topical Azoles in Patients with Atrial Fibrillation on Apixaban, Rivaroxaban, or Dabigatran
Anders Holt et al. PMID: 34861201 DOI: 10.1016/j.amjmed.2021.11.008
Am J Med. 2022 May;135(5):595-602.e5. doi: 10.1016/j.amjmed.2021.11.008. Epub 2021 Nov 30.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34861201/
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