経口抗凝固薬投与患者の消化管出血に対するプロトンポンプ阻害薬の保護効果は?(SR&MA; Br J Clin Pharmacol. 2022)

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経口抗凝固薬投与患者の消化管出血に対するPPIの保護効果はどのくらいか?

経口抗凝固薬(OAC)で治療中の患者において、治療に伴う消化管出血のリスクが伴います。この消化管出血リスクに対して、予防的にプロトンポンプ阻害薬(PPI)が併用投与されます。しかし、消化管出血に対するPPIの予防効果を示す証拠は充分ではありません。

そこで今回は、OAC投与患者の消化管出血に対するPPI併用療法の保護効果を検証したメタ解析の結果をご紹介します。

本試験では、PubMed、EMBASE、Cochrane、Scopusの各データベースから、OACとPPI併用療法における消化管出血リスクを報告した研究が系統的に検索されました。主要アウトカムは、総消化管出血と重大な消化管出血イベントでした。消化管出血リスクのプール推定値は、ランダム効果メタ解析により算出され、オッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)として報告されました。

試験結果から明らかになったことは?

オッズ比
(95%CI)
全消化管出血0.67(0.62〜0.74
重大な消化管出血0.68(0.63〜0.75

合計10試験、1,970,931例の患者が対象でした。経口抗凝固薬(OAC)とPPIの併用療法は、全消化管出血と重大な消化管出血の低いオッズと関連していました。OR(95%CI)は、全消化管出血で0.67(0.62〜0.74)、主要消化管出血で0.68(0.63〜0.75)でした。

PPI併用時の消化管出血リスクはアジア人と非アジア人で差はありませんでした(全消化管出血 p=0.70、重大な消化管出血 p=0.75)。

エドキサバンを除くすべてのOAC治療において、PPIの併用療法は消化管出血のオッズを24~44%低下させることと関連していました。

PPIによる消化管出血の予防効果は、抗血小板薬や非ステロイド性抗炎症薬の同時使用者出血リスクの高い患者(消化管出血既往、HAS-BLED≧3、消化器系基礎疾患)でより顕著でした。

コメント

経口抗凝固薬の使用に伴う消化管出血リスクにおいて、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の併用療法が有効か否かについては結論が出ていません。単剤での治療の場合、消化管出血リスクが低いことから、PPI併用の有無で差がない報告があるためです。事実、診療ガイドライン(2020年版)では、低用量アスピリンによる消化管出血リスクについては、PPI併用療法についても言及されていますが、抗凝固薬については、PPI併用療法について言及されていません。

さて、本試験結果によれば、経口抗凝固薬投与患者におけるPPI併用は、エドキサバンを除きOACの種類や民族に関係なく、消化管出血の低下と関連していることが明らかとなりました。この効果は、消化管出血リスクの高い患者でより顕著でした。

これまでの報告を踏まえると、低用量アスピリンの場合と同様の結果であると考えられます。ただし、3ヵ月を超えるような長期の抗凝固薬使用者に対して、PPIを併用した方が良さそうという点について念頭においた方が良いと考えられます。短期間の使用については、消化管出血リスクは低いため、PPI併用により得られる効果が小さいと考えられます。

いずれの場合も抗血小板薬や非ステロイド性抗炎症薬の同時使用者や出血リスクの高い患者(消化管出血の既往、HAS-BLED≧3、消化器系基礎疾患)など、個々の患者における評価が求められます。

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✅まとめ✅ 経口抗凝固薬投与患者におけるPPI併用は、エドキサバンを除きOACの種類や民族に関係なく、消化管出血の低下と関連しているようであった。この効果は、消化管出血リスクの高い患者でより顕著であった。

根拠となった試験の抄録

目的:経口抗凝固薬(OAC)で治療中の患者におけるプロトンポンプ阻害薬(PPI)の消化管出血(GIB)に対する予防効果を示す証拠はまだない。我々は、OACとPPIの併用療法を受けた患者におけるGIBのリスクを推定するためにメタアナリシスを実施した。

方法:PubMed、EMBASE、Cochrane、Scopusの各データベースから、OACとPPI併用療法におけるGIBリスクを報告する研究を系統的に検索した。主要アウトカムは、総GIBと主要GIBイベントとした。GIBリスクのプール推定値は、ランダム効果メタ解析により算出し、オッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)として報告した。

結果:合計10試験、1,970,931例の患者を対象とした。OACとPPIの併用療法は、全GIBと主要GIBの低いオッズと関連していた。OR(95%CI)は、全GIBで0.67(0.62〜0.74)、主要GIBで0.68(0.63〜0.75)だった。PPI併用のGIBはアジア人と非アジア人で差はなかった(p-for-difference、全GIB=0.70、主要GIB=0.75)。エドキサバンを除くすべてのOACにおいて、PPI併用療法はGIBのオッズを24~44%低下させることに関連した。PPIのGIB予防効果は、抗血小板薬や非ステロイド性抗炎症薬の同時使用者や出血リスクの高い患者(GIB既往、HAS-BLED≧3、消化器系基礎疾患)でより顕著であった。

結論:OAC投与患者において、PPI併用療法は、エドキサバンを除きOACの種類や民族に関係なく、総GIBおよび主要GIBの低下と関連している。PPI併用療法は、特にGIBリスクの高い患者において検討することが可能である。

キーワード:消化管出血、経口抗凝固薬、プロトンポンプ阻害薬

引用文献

Protective effect of proton pump inhibitor against gastrointestinal bleeding in patients receiving oral anticoagulants: A systematic review and meta-analysis
Hyo-Jeong Ahn et al. PMID: 35921204 DOI: 10.1111/bcp.15478
Br J Clin Pharmacol. 2022 Aug 3. doi: 10.1111/bcp.15478. Online ahead of print.
— 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35921204/

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