二重抗血小板療法(DAPT)とPPIの併用は安全なのか?
経口P2Y12受容体阻害剤とアスピリンによる二重抗血小板療法(DAPT)は、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)または急性冠症候群(ACS)後の基礎抗血小板戦略を構成します(PMID: 30165437)。DAPTの主な欠点は、治療の中止と最も重要な死亡率の上昇につながる可能性のある出血事象の発生率増加です(PMID: 25254357)。消化管は、DAPTに反応して出血する一般的な原因部位です(PMID: 25857906)。プロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用は、胃および十二指腸管腔内の酸性度を低下させることにより消化性潰瘍のリスクを低減させ、また、血栓の安定性を高めることにより消化管出血の重症度を低減させると考えられています(PMID: 24267413)。したがって、PPIとDAPTの併用は、GI出血を減らし、それによって虚血イベントのリスクを減らすための実行可能で生物学的にもっともらしい戦略を提示しています。しかし、PPIが心血管系(CV)アウトカムに悪影響を及ぼす可能性については、依然として議論の余地があります。
PPIとクロピドグレルの想定された代謝的相互作用が、不良CVアウトカムのリスク上昇と関連するかどうかについては、いくつかのランダム化比較試験(RCT)および観察研究で結果が分かれています(PMID: 19258584、PMID: 20925534、PMID: 20653354、PMID: 20102352、PMID: 22464478、PMID: 28678044)。さらに、これらのリスクは一般集団においても認められ、PPIとクロピドグレルの併用に伴うCVアウトカム不良のリスクは、PPIによって一部または直接付与される可能性があることを示しています(PMID: 26061035、PMID: 28397874)。
これまでの研究では、主にPPIとクロピドグレルの代謝的相互作用に焦点が当てられていましたが、冠動脈疾患におけるDAPTとPPIの影響については言及されていません。さらに、DAPT使用中の患者におけるGI出血を減らすためのPPIの効率は、まだ体系的に評価されていません。
そこで今回は、冠動脈疾患の治療におけるDAPTとPPI併用の有効性、安全性を評価した包括的システマティックレビューとメタアナリシスの試験結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
合計で6件のランダム化比較試験(RCT)(6,930例)と16件の観察研究(183,546例)が含まれました。
RCTの解析では、PPI群と非PPI群で主要有害心血管イベント(リスク比[RR] 0.89、95%信頼区間[CI] 0.75〜1.05)、心筋梗塞(RR 0.93、95%CI 0.76〜1.15)および全死亡(RR 0.79、95%CI 0.50〜1.23)の発生に有意差がないことが明らかにされました。
観察研究のプールデータでは、各PPIサブタイプの使用とクロピドグレル治療中のMACEリスクの増加との間に一貫した関連性がないことが明らかになりました。
PPI(クラス)および他のP2Y12阻害剤の使用によるMACEまたは全死亡のリスク増加は認められませんでした。
RCTと観察研究の両方の結果から、PPIの使用は消化管出血のリスクを有意に減少させることが明らかになりました。
コメント
クロピドグレルを用いたDAPTとPPI(オメプラゾール、エソメプラゾール)の併用により、クロピドグレルの作用が減弱し、主要有害心血管イベントや心筋梗塞、脳卒中のリスクに対する予防効果が低下する可能性が報告されています。
さて、本試験結果によれば、経皮的冠動脈インターベンションまたは急性冠症候群後のDAPT治療を受けた患者におけるPPIの使用は、GI出血のリスク低減と関連していました。PPIの使用と有害な心血管イベントとの関連を示す明確なエビデンスは認められませんでした。
ただし、メタ解析の対象となったRCTは6件であり、中でもJensenら(2017年)の研究が症例の大半を占めています。したがって、単一のRCTの結果がそのまま反映されているに過ぎません。メタ解析の質をより評価するためには、少なくとも10件以上の試験が求められます。他の研究結果の公表が待たれます。一方、観察研究については試験数、症例数ともに充分であると考えられます。ただし、観察研究の結果であることから、あくまでも相関関係が示されたに過ぎません。RCTの結果と見比べると、信頼性の高い結果としては、PPIの併用が消化管出血のリスクを有意に低下していることであると考えられます。
クロピドグレルを用いたDAPTとPPIの併用については、これまでにも多くの研究結果が報告されていますが、CYP2C19をはじめとする薬物相互作用のみに着目すれば、相互作用による各アウトカムへの影響はそこまで大きくないようです。他の試験結果も考慮すると、CYP2C19を介した薬物相互作用に合わせて、患者の遺伝子多型(poor metabolizer)の影響が重なると、各アウトカムへ深刻な影響があるようです。ただし、遺伝子多型についても研究数が限られているため、結論は得られていません。
続報に期待。
✅まとめ✅ PPIの使用は、経皮的冠動脈インターベンションまたは急性冠症候群後のDAPT治療を受けた患者におけるGI出血のリスク低減と関連していた。PPIの使用と有害な心血管イベントとの関連を示す明確なエビデンスはなかった。
根拠となった試験の抄録
背景:二重抗血小板療法(DAPT)を受けている冠動脈疾患患者におけるプロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用に関する安全性と有効性は、依然として不明である。
方法:評価項目は、主要有害心血管イベント(MACE)、心筋梗塞(MI)、全死亡、消化管出血の複合的なものであった。研究デザインで層別したランダム効果メタ解析を実施し、I2統計量を用いて異質性を評価した。
結果:合計で6件のランダム化比較試験(RCT)(6,930例)と16件の観察研究(183,546例)が含まれた。RCTの解析では、PPI群と非PPI群でMACE(リスク比[RR] 0.89、95%信頼区間[CI] 0.75〜1.05)、MI(RR 0.93、95%CI 0.76〜1.15)および全死亡(RR 0.79、95%CI 0.50〜1.23)の発生に有意差がないことが明らかにされた。観察研究のプールデータでは、各PPIサブタイプの使用とクロピドグレル治療中のMACEリスクの増加との間に一貫した関連性がないことが明らかになった。PPI(クラス)および他のP2Y12阻害剤の使用によるMACEまたは全死亡のリスク増加は認められなかった。RCTと観察研究の両方から、PPIの使用はGI出血のリスクを有意に減少させることが明らかになった。
結論:PPIの使用は、経皮的冠動脈インターベンションまたは急性冠症候群後のDAPT治療を受けた患者におけるGI出血のリスク低減と関連していた。PPIの使用と有害な心血管イベントとの関連を示す明確なエビデンスはなかった。
臨床試験登録:識別子 CRD42020190315
キーワード:有害心血管イベント、冠動脈疾患、二重抗血小板療法、薬物相互作用、メタアナリシス、プロトンポンプ阻害薬
引用文献
Clinical Outcomes of Concomitant Use of Proton Pump Inhibitors and Dual Antiplatelet Therapy: A Systematic Review and Meta-Analysis
Hongzhou Guo et al. PMID: 34408652 PMCID: PMC8366318 DOI: 10.3389/fphar.2021.694698
Front Pharmacol. 2021 Aug 2;12:694698. doi: 10.3389/fphar.2021.694698. eCollection 2021.
— 続きを読む pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34408652/
関連記事
【PCI後の冠動脈疾患患者におけるクロピドグレル治療にはPPIを併用した方が良いですか?(SR&MA; Int J Cardiol Heart Vasc. 2019)】
【日本人の経皮的冠動脈形成術を受けた患者におけるクロピドグレルとプラスグレルの効果はCYP2C19遺伝子型により異なりますか?(単施設後向きコホート研究; Circ J. 2020)】
コメント