モノクローナル中和抗体であるAZD7442(チキサゲビマブ/シルガビマブ)によるCOVID-19予防効果は?
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対するワクチン接種は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の負担を軽減しています(PMID: 33964222、PMID: 33985964、PMID: 35132198、PMID: 34108716)。しかし、免疫不全者やワクチン接種ができない一部の集団では、依然として重症COVID-19の危険にさらされています(PMID: 34337100、PMID: 34331051、PMID: 34035003、PMID: 34161700、PMID: 33903149、PMID: 34208884、PMID: 34320281、PMID: 32379731、PMID: 33870245)。
モノクローナル抗体は、免疫系の状態に関係なく病気を防ぎ、迅速な防御を提供するため、COVID-19の免疫予防の選択肢となりえます(PMID: 33875867、PMID: 29715552)。モノクローナル抗体の組み合わせの中には、COVID-19に対する曝露前(MHRA)または曝露後(FDA)の予防や軽度から中等度の疾患の治療のために、緊急または一時的な認可を受けて既に使用されているものもあります(FDA、FDA)。
AZD7442は、SARS-CoV-2感染者から得られたB細胞から分離された抗体に由来する2つの完全ヒト型SARS-CoV-2中和モノクローナル抗体(tixagevimabおよびcilgavimab)の合剤です。これらの抗体は、半減期を延長するM252Y/S254T/T256E(YTE)修飾(PMID: 24080653)およびFc受容体および補体成分C1qとの結合を減少させるL234F/L235E/P331S(TM)修飾(PMID: 18560159、PMID: 35076282)が施されています。チキサゲビマブ/シルガビマブは、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質受容体結合ドメインの異なる重複しないエピトープに同時に結合し、ウイルスを強力に中和します(PMID: 35076282、PMID: 32668443、PMID: 32651581、PMID: 34548634)。 AZD7442は、SARS-CoV-2とその懸念すべき変種に対する中和作用を試験管内で示し、非ヒト霊長類で予防・治療効果が示されています(PMID: 35076282)。
第1相試験において、AZD7442の300mgの筋肉内投与は、回復期血清と比較して、高いSARS-CoV-2血清中和力価を提供しました。しかし、より大規模な臨床試験での検証は充分ではありません。そこで今回は、18歳以上の成人における症候性かつ重症のCOVID-19の予防を目的にAZD7442を評価した第3相PROVENT試験の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
合計5,197例の参加者がランダム化を受け、AZD7442またはプラセボを1回投与されました(AZD7442群 3,460例、プラセボ群 1,737例)。主要解析は、参加者の30%がランダム化割付を認識した後に実施されました。
AZD7442群 3,461例中1,221例(35.3%)およびプラセボ群 1,736例中593例(34.2%)が、少なくとも1つの有害事象を報告しましたが、そのほとんどは重症度が軽度または中等度でした。
AZD7442群 | プラセボ群 | 相対リスク減少 (95%信頼区間[CI]) | |
症候性COVID-19発生率 | 0.2% (8/3,441例) | 1.0% (7/1,731例) | 76.7% (95%CI 46.0~90.0) P<0.001 |
(中央値6ヵ月間の延長追跡調査) | |||
症候性COVID-19発生率 | 0.3% (11/3,441例) | 1.8% (31/1,731例) | 82.8% (95%CI 65.8~91.4) |
症候性COVID-19は、AZD7442群では3,441例中8例(0.2%)に、プラセボ群では1,731例中17例(1.0%)に発生しました(相対リスク減少 76.7%、95%信頼区間[CI] 46.0~90.0; P<0.001)。
中央値6ヵ月間の延長追跡調査では相対リスクの減少は82.8%(95%CI 65.8~91.4)にとどまりました。
重度または重症COVID-19が5例、COVID-19に関連する死亡が2例発生したが、すべてプラセボ群でした。
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一本鎖RNAウイルスであるSARS-CoV-2は、変異のスピードが速く、その変異は多岐にわたります。なかでもBA.2株は、これまで他の変異株で耐性の報告がなかったソトロビマブに対しても抵抗を示し、ソトロビマブの抗ウイルス作用が低下することが報告されています。今後も変異ウイルスの出現が予想されることから、引き続き治療薬の開発が望まれています。
さて、本試験結果によれば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチン接種の反応が不充分あるいはSARS-CoV-2への曝露リスクが高い、またはその両方を有する成人(18歳以上)に対してAZD7442(チキサゲビマブ/シルガビマブ)の単回筋肉内投与は、明らかな安全性の懸念がなく、COVID-19の予防に有効であることが示されました。その有効性(症候性COVID-19発生の予防)は76.7%〜82.8%と高い値でした。実臨床でも有効性が期待できそうですが、引き続きデータの集積が待たれるところです。
続報に期待。
✅まとめ✅ AZD7442(チキサゲビマブ/シルガビマブ)の単回筋肉内投与は、明らかな安全性の懸念がなく、COVID-19の予防に有効であった。
根拠となった試験の抄録
背景:モノクローナル抗体製剤AZD7442は、半減期が長く、動物モデルで予防・治療効果が確認されている重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)に対する中和抗体であり、チキサゲビマブとシルガビマブから構成されている。AZD7442の単回筋肉内投与は、明らかな安全性の懸念がなく、COVID-19の予防に有効であった。ヒトでの薬物動態データから、AZD7442の半減期は約90日に延長されることが示されている。
方法:現在進行中の第3相試験において、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチン接種の反応が不充分、あるいはSARS-CoV-2への曝露リスクが高い、またはその両方を有する成人(18歳以上)を登録した。参加者は、AZD7442 300mg(チキサゲビマブとチルガビマブを含む連続2回の筋肉内注射)または生理食塩水プラセボのいずれかの単回投与を受けるよう2:1の割合でランダムに割りつけられ、主要解析では最大183日間追跡調査が行われた。安全性の主要評価項目は、AZD7442の単回投与後の有害事象の発生率とした。有効性の主要評価項目は、AZD7442またはプラセボ投与後、183日目までに発生した症候性COVID19(逆転写酵素-ポリメラーゼ鎖反応測定法で確認したSARS-CoV-2感染)であった。
結果:合計 5,197例の参加者がランダム化を受け、AZD7442またはプラセボを1回投与された(AZD7442群 3,460例、プラセボ群 1,737例)。主要解析は、参加者の30%がランダム化割付を認識した後に実施された。AZD7442群 3,461例中1,221例(35.3%)およびプラセボ群 1,736例中593例(34.2%)が、少なくとも1つの有害事象を報告したが、そのほとんどは重症度が軽度または中等度だった。症候性COVID-19は、AZD7442群では3,441例中8例(0.2%)に、プラセボ群では1,731例中17例(1.0%)に発生した(相対リスク減少 76.7%、95%信頼区間[CI] 46.0~90.0; P<0.001)。中央値6ヵ月間の延長追跡調査では相対リスクの減少は82.8%(95%CI 65.8~91.4)にとどまった。重度または重症COVID-19が5例、COVID-19に関連する死亡が2例発生したが、すべてプラセボ群であった。
結論:AZD7442(チキサゲビマブ/シルガビマブ)の単回筋肉内投与は、明らかな安全性の懸念がなく、COVID-19の予防に有効であった。
資金提供:アストラゼネカ社と米国政府
ClinicalTrials.gov番号:NCT04625725
引用文献
Intramuscular AZD7442 (Tixagevimab-Cilgavimab) for Prevention of Covid-19
Myron J Levin et al. PMID: 35443106 DOI: 10.1056/NEJMoa2116620
N Engl J Med. 2022 Apr 20. doi: 10.1056/NEJMoa2116620. Online ahead of print.
— 読み進める www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2116620
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