小児、青年、若年成人2型糖尿病患者に対するダパグリフロジンの有効性は?
糖尿病は大きく1型と2型に分類され、1型糖尿病は感染症などに続発して発症する可能性が報告されています。一方、2型糖尿病は遺伝的素因が大きく関与していることが報告されています。
成人の2型糖尿病患者においては、インスリンの他、治療薬が8クラスあり、患者背景に応じて治療薬が選択されています。しかし、若年の2型糖尿病患者に対する治療選択肢は少ないです。
そこで今回は、メトホルミン、インスリン、あるいはその両方を投与されている小児、青年、若年の2型糖尿病患者を対象に、ダパグリフロジンの上乗せ療法としての有効性と安全性を評価したランダム化比較試験の結果をご紹介します。
この多施設共同、プラセボ対照、二重盲検、ランダム化第3相試験は、5ヵ国(ハンガリー、イスラエル、メキシコ、ロシア、米国)の30施設で実施されました。10~24歳の2型糖尿病でHbA1c濃度が6.5〜11%(48~97mmol/mol)の参加者を、24週間の二重盲検期間中にダパグリフロジン10mgまたはプラセボに1対1でランダムに割り付け、その後、28週間の非盲検延長試験で、すべての参加者がダパグリフロジンを投与されました。本試験の主要評価項目は、ベースラインから24週後までのHbA1c濃度の変化量の群間差(intention-to-treat解析)でした。
試験結果から明らかになったことは?
2016年6月22日から2019年3月15日の間に、72例の参加者(うち19例[26%]は18~24歳)がランダムに割り付けられました(ダパグリフロジン群39例、プラセボ群33例)。平均年齢は16.1歳(SD 3.3)でした。
ダパグリフロジン群 (ITT:39例 PP:34例) | プラセボ群 (ITT:33例 PP:26例) | 群間差 | |
24週後のHbA1c濃度の平均変化率 Intention-to-treat解析(ITT) | -0.25% (95%CI -0.85~0.34) | 0.50% (-0.18〜1.17) | -0.75% (95%CI -1.65~0.15) p=0.10 |
24週後のHbA1c濃度の平均変化率 per-protocol集団(PP)における感度分析 | -0.51% (-1.07~0.05) | 0.62% (-0.04〜1.27) | -1.13% (-1.99~-0.26) p=0.012 |
Intention-to-treat解析では、24週後のHbA1c濃度の平均変化率は、ダパグリフロジンが-0.25%(95%CI -0.85~0.34;-2.7[-9.3〜3.7]mmol/mol)、プラセボが0.50%(-0.18〜1.17;5.5[-2.0~12.8]mmol/mol)であった。群間差は-0.75%(95%CI -1.65~0.15;-8.2[-18.0〜1.6]mmol/mol;p=0.10)であった。
24週後のper-protocol集団(ダパグリフロジン群34例、プラセボ群26例)における感度分析では、平均変化率はダパグリフロジンで-0.51%(-1.07~0.05、-5.6[-11.7〜0.5]mmol/mol)、プラセボで0.62%(-0.04〜1.27、6.8[0.4〜13.9]mmol/mol)だった。群間差は-1.13%(-1.99~-0.26、-12.4[-21。8〜2.8]mmol/mol、p=0.012)であった。
有害事象は24週間でダパグリフロジン投与群27例(69%)、プラセボ投与群19例(58%)、52週間でダパグリフロジン投与群29例(74%)に発現しました。低血糖は、24週間の投与でダパグリフロジン投与群11例(28%)、プラセボ投与群6例(18%)、52週間の投与でダパグリフロジン投与群13例(33%)に発現したが、いずれも重篤な有害事象とは判断されませんでした。また、糖尿病性ケトアシドーシスの有害事象は発現しませんでした。
コメント
小児・青年・若年の2型糖尿病患者における治療選択肢が限られていることから新たな治療薬の検討が求められます。
さて、本試験結果によれば、10~24歳の2型糖尿病患者を対象に、標準治療に加えてダパグリフロジンを投与したところ、ITT解析では、主要評価項目であるHbA1c濃度の変化はプラセボと比較して有意ではありませんでした。しかし、PP解析では、HbA1c濃度に有意な群間差が認められました。新たな安全性シグナルは確認されず、重篤な低血糖のリスクは低いことが示されました。
本試験の対象患者は、標準治療としてインスリンとメトホルミンを使用していたことから、HbA1cの更なる低下は困難であったと考えられます。インスリン治療は、心血管イベントのリスク増加が報告されていることから、1型糖尿病を除き、糖尿病治療においては、なるべく短期間の使用にとどめたいところです。メトホルミン単独治療へのダパグリフロジン追加投与での検証結果が気になるところです。
続報に期待。
✅まとめ✅ 10~24歳の2型糖尿病患者を対象に、標準治療に加えてダパグリフロジンを投与したITT解析では、主要評価項目であるHbA1c濃度の変化はプラセボと比較して有意ではなかったが、PP解析では、HbA1c濃度に有意な群間差が認められた。新たな安全性シグナルは確認されず、重篤な低血糖のリスクは低いことが示された。
根拠となった試験の抄録
背景:若年2型糖尿病患者に対する治療選択肢は少ないため、メトホルミン、インスリン、あるいはその両方を投与されている小児、青年、若年成人2型糖尿病患者を対象に、ダパグリフロジンの上乗せ療法としての有効性と安全性を評価することを目的とした。
方法:この多施設共同、プラセボ対照、二重盲検、ランダム化第3相試験は、5ヵ国(ハンガリー、イスラエル、メキシコ、ロシア、米国)の30施設で実施された。10~24歳の2型糖尿病でHbA1c濃度が6.5〜11%(48~97mmol/mol)の参加者を、24週間の二重盲検期間中にダパグリフロジン10mgまたはプラセボに1対1でランダムに割り付け、その後、28週間の非盲検延長試験で、すべての参加者がダパグリフロジンを投与された。参加者と試験担当者はマスクされ、参加者は対話型Webおよび音声応答システムを用いて治療(プラセボまたは試験薬)を無作為に割り当てられた。
主要評価項目は、ベースラインから24週後までのHbA1c濃度の変化量の群間差(intention-to-treat解析)。また、事前に規定した感度分析により、プロトコール遵守者のみを含む per-protocol 集団において主要転帰を評価した。本試験はClinicalTrials.gov: NCT02725593に登録されている。
知見:2016年6月22日から2019年3月15日の間に、72例の参加者(うち19例[26%]は18~24歳)がランダムに割り付けられた(ダパグリフロジン群39例、プラセボ群33例)。平均年齢は16.1歳(SD 3.3)であった。Intention-to-treat解析では、24週後のHbA1c濃度の平均変化率は、ダパグリフロジンが-0.25%(95%CI -0.85~0.34;-2.7[-9.3〜3.7]mmol/mol)、プラセボが0.50%(-0.18〜1.17;5.5[-2.0~12.8]mmol/mol)であった。群間差は-0.75%(95%CI -1.65~0.15;-8.2[-18.0〜1.6]mmol/mol;p=0.10)であった。
24週後のper-protocol集団(ダパグリフロジン群34例、プラセボ群26例)における感度解析では、平均変化率はダパグリフロジンで-0.51%(-1.07~0.05、-5.6[-11.7〜0.5]mmol/mol)、プラセボで0.62%(-0.04〜1.27、6.8[0.4〜13.9]mmol/mol)だった。群間差は-1.13%(-1.99~-0.26、-12.4[-21。8〜2.8]mmol/mol、p=0.012)であった。
有害事象は24週間でダパグリフロジン投与群27例(69%)、プラセボ投与群19例(58%)、52週間でダパグリフロジン投与群29例(74%)に発現した。低血糖は、24週間の投与でダパグリフロジン投与群11例(28%)、プラセボ投与群6例(18%)、52週間の投与でダパグリフロジン投与群13例(33%)に発現したが、いずれも重篤な有害事象とは判断されなかった。また、糖尿病性ケトアシドーシスの有害事象は発現しなかった。
解釈:小児・青年・若年成人の2型糖尿病患者を対象に、標準治療に加えてダパグリフロジンを投与したintention-to-treat解析では、主要評価項目であるHbA1c濃度の変化は有意ではなかった。プロトコール遵守者を対象とした事前に設定した感度分析では、HbA1c濃度に群間で有意差が認められた。また、新たな安全性シグナルは確認されず、重篤な低血糖のリスクは低いことが示された。
資金提供:AstraZeneca社
引用文献
Efficacy and safety of dapagliflozin in children and young adults with type 2 diabetes: a prospective, multicentre, randomised, parallel group, phase 3 study
William V Tamborlane et al. PMID: 35378069 DOI: 10.1016/S2213-8587(22)00052-3
Lancet Diabetes Endocrinol. 2022 Apr 1;S2213-8587(22)00052-3. doi: 10.1016/S2213-8587(22)00052-3. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35378069/
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