妊娠第1期の抗凝固薬曝露と妊娠に関連する有害事象との関連性は?
静脈血栓塞栓症の女性患者は、抗凝固薬による治療開始後に妊娠する可能性があることから、妊娠した後に治療法を変更する必要があります。ビタミンK拮抗薬は胎児への影響があるため妊婦に対して禁忌であることから、基本的には低分子ヘパリンを使用することになります。低分子ヘパリンは注射回数が多いことから、患者負担となりやすく、より簡便で治療が継続しやすい治療方法の確立が求められます。
静脈血栓塞栓症患者に対して使用される抗凝固薬は、いくつか上市されていますが、直接経口抗凝固薬(NOAC、DOAC)の登場により、急速にDOACの使用量が増加しています。しかし、妊婦における抗凝固薬使用に関する安全性評価は充分ではありません。
そこで今回は、デンマークの全国登録を用い、2000~2017年の妊娠前の静脈血栓塞栓症の全妊婦を特定し、妊娠中の低分子ヘパリン(LMWH)、ビタミンK拮抗薬(VKA)、非VKA経口抗凝固薬(NOAC)への曝露に関するデータを関連づけたコホート研究の結果をご紹介します。
本試験では、妊娠第1期の抗凝固剤曝露に関連する妊娠関連および胎児の転帰を評価されました。
試験結果から明らかになったことは?
妊娠前に静脈血栓塞栓症を発症した女性(平均年齢31歳、40%が未婚)の第1期妊娠4,490例において、63.1%が非暴露、25.9%がLMWH、10.4%がVKA、0.6%がNOACに曝露されました。
(VKA vs. 非暴露群) | 調整オッズ比[OR] 95%信頼区間[CI] |
早産 | 調整OR 2.26 95%CI 1.70〜2.99 |
超早産 | 調整OR 3.78 95%CI 1.91〜7.49 |
有害事象は非曝露とLMWH曝露において最も低いことと関連していました。非曝露群に比べ、VKAは早産(調整オッズ比[OR]2.26、95%信頼区間[CI] 1.70〜2.99)および超早産(調整OR 3.78、95%CI 1.91〜7.49)の高いリスクと関連していました。
VKA | NOAC | |
平均妊娠期間の短縮 | -7.5日 (95%CI -9.1~-5.9日) | -2.3日 (95%CI -8.4~3.8) |
平均出生体重 | -55g (95%CI -103.1~-8.5) | -190g (95%CI –364.1~-16.4) |
妊娠小体重児 | 調整OR 1.07 (95%CI 0.77〜1.50) | 調整OR 3.29 (95%CI 1.26〜7.95) |
平均妊娠期間の短縮はVKA(-7.5日、95%CI -9.1~-5.9日)またはNOAC(-2.3日、95%CI -8.4~3.8)、平均出生体重はVKA(-55g、95%CI -103.1~-8.5)またはNOAC(-190g、95%CI –364.1~-16.4)であることと関連していました。
妊娠小体重児の調整ORは、VKAで1.07(95%CI 0.77〜1.50)、NOACで3.29(95%CI 1.26〜7.95)でした。
平均5分間アプガースコア*(9.8)および先天性欠損症有病率(8.4%~10%)は曝露群間でほとんど変わりませんでした。
コメント
妊婦における抗凝固薬の安全性情報は限られています。ランダム化比較試験の実施が困難であることから、レジストリー研究を含め、コホート研究の結果を参照する必要があります。
さて、本試験結果によれば、胎児リスクは非曝露妊娠と低分子ヘパリン曝露妊娠で最も低いことが示されました。また、ビタミンK拮抗薬は早産及び超早産リスクと関連していました。NOACの妊娠中の安全性について、平均出生体重や妊娠小体重児のリスク増加と関連していましたが、NOACへの曝露が0.6%と稀であることから結論づけられませんでした。
いずれにせよコホート研究の結果であることから、あくまでも相関関係が示されたに過ぎません。追試が求められます。続報に期待。
✅まとめ✅ 胎児リスクは、非曝露妊娠と低分子ヘパリン曝露妊娠で最も低かった。ビタミンK拮抗薬は早産及び超早産リスクと関連していた。NOACの妊娠中の安全性は、NOACへの曝露が稀であることから不明である。
根拠となった試験の抄録
目的:本研究の目的は、妊娠第1期の抗凝固薬曝露と、妊娠関連および胎児の有害転帰のリスクについて調査することであった。
方法:デンマークの全国登録を用い、2000~2017年の妊娠前の静脈血栓塞栓症の全妊婦を特定し、妊娠中の低分子ヘパリン(LMWH)、ビタミンK拮抗薬(VKA)、非VKA経口抗凝固薬(NOAC)への曝露に関するデータを関連づけた。我々は、妊娠第1期の抗凝固剤曝露に関連する妊娠関連および胎児の転帰を評価した。
結果:妊娠前に静脈血栓塞栓症を発症した女性(平均年齢31歳、40%が未婚)の第1期妊娠4,490例において、63.1%が非暴露、25.9%がLMWH、10.4%がVKA、0.6%がNOACに曝露された。
有害事象は非曝露とLMWH曝露で最も低かった。非曝露群に比べ、VKAは早産(調整オッズ比[OR]2.26、95%信頼区間[CI] 1.70〜2.99)および超早産(調整OR 3.78、95%CI 1.91〜7.49)の高いリスクと関連していた。平均妊娠期間の短縮はVKA(-7.5日、95%CI -9.1~-5.9日)またはNOAC(-2.3日、95%CI -8.4~3.8)、平均出生体重はVKA(-55g、95%CI -103.1~-8.5)またはNOAC(-190g、95%CI –364.1~-16.4)であると関連があった。妊娠小体重児の調整済みORは、VKAで1.07(95%CI 0.77〜1.50)、NOACで3.29(95%CI 1.26〜7.95)であった。平均5分間アプガースコア*(9.8)および先天性欠損症有病率(8.4%~10%)は曝露群間でほとんど変わらなかった。
*アプガースコア:出生直後の新生児の状態を評価するスコア。1皮膚色、2心拍数、3刺激による反射、4筋緊張、5呼吸状態の5項目に対し、0~2点のスコアをつける。10~8点は正常、7~4点は軽症仮死、3~0点は重症仮死と判定する。この判定は分娩後1分と5分後で行うが、5分後のスコアは新生児の神経学的長期予後を反映するといわれている。この割合が低いことは、より安全な周産期管理が行われていると判断できる。
結論:胎児リスクは、非曝露妊娠とLMWH曝露妊娠で最も低く、妊娠中のLMWHの推奨を支持するものであった。NOACの妊娠中の安全性は、NOACへの曝露が稀であることから不明である。
キーワード:抗凝固薬の安全性、低分子ヘパリン、非VKA系経口抗凝固薬、妊娠、血栓塞栓症、ビタミンK拮抗薬
引用文献
First Trimester Anticoagulant Exposure and Adverse Pregnancy Outcomes in Women with Preconception Venous Thromboembolism: A Nationwide Cohort Study
Mette Søgaard et al.
Am J Med. 2022 Apr;135(4):493-502.e5. doi: 10.1016/j.amjmed.2021.10.023. Epub 2021 Nov 17.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34798098/
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【妊婦における直接経口抗凝固薬の安全性は?(後向きコホート研究; Lancet Haematol. 2020)】
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