ワクチン接種後の肩症状リスクはどのくらいなのか?
三角筋へのワクチン接種後の有害事象として肩の症状が報告されていますが、ワクチン接種後の肩の症状に関する疫学的データは限られています。
そこで今回は、大規模な統合医療組織であるKaiser Permanente Southern Californiaの会員を対象に、肩の障害診断コードを有するワクチン接種者の中から、潜在的な肩の状態を特定したレトロスペクティブ・コホート研究の結果をご紹介します。
本試験の対象は2016年4月1日から2017年12月31日の間に三角筋に筋肉内接種を行った3歳以上のKaiser Permanente Southern Californiaの会員であり、自然言語処理(NLP)アルゴリズムを用いて、肩の障害診断コードを有するワクチン接種者の中から、潜在的な肩の状態が特定されました。NLPで特定されたすべての症例は、症例定義に基づいて手動でチャート確認され、肩の疾患を有する被接種者と有さない被接種者の特徴が比較されました。
試験結果から明らかになったことは?
肩関連の症状発生リスク | |
集団全体 | ワクチン接種1万回あたり 0.99(95%CI 0.89~1.09) |
成人(18 歳以上) | 1.22(95%CI 1.10~1.35) |
小児(3~17 歳) | 0.05(95%CI 0.02~0.14) |
3,758,764回のワクチン接種のうち、371件の肩の症状が確認され、推定発生率は1万回のワクチン接種あたり0.99(95%CI 0.89~1.09)でした。
発生率は、成人(18 歳以上)ワクチン接種集団で1.22(CI 1.10~1.35)、小児(3~17 歳)ワクチン接種集団で0.05(CI 0.02~0.14)でした。
成人ワクチン接種集団では、高齢、女性、ワクチン接種前6ヵ月間の外来受診回数の増加、シャルソン併存疾患指数が低いこと、肺炎球菌結合型ワクチン接種は、肩症状のリスク上昇と関連していました。インフルエンザワクチンのうち、4価ワクチンは肩症状のリスク上昇と関連していました。高齢者では、ワクチンの同時接種が肩症状リスクの上昇と関連していました。
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2016年4月1日から2017年12月31日の間に三角筋に筋肉内接種を行った3歳以上の集団を対象とした後向きコホート研究の結果、ワクチン接種後の肩症状に対する絶対的リスクは小さいことが示唆されました。一方、18歳以上の成人集団の場合、ややリスク増加が示され、リスク因子としては、高齢、女性、ワクチン接種前6ヵ月間の外来受診回数の増加、シャルソン併存疾患指数が低いこと、肺炎球菌結合型ワクチン接種、4価のインフルエンザワクチン接種があげられました。さらに高齢者では、ワクチンの同時接種が肩症状リスクの上昇と関連していました。シャルソン併存疾患指数が低いこと以外の因子については、予想がつきます。またワクチン接種後の肩症状の推定発生率は1.22(95%CI 1.10~1.35)と、そこまで大きくありません。ワクチン接種により得られるベネフィットの方が大きいと考えられます。
ただし、本試験の解析期間中に新型コロナウイルス感染症のワクチンは含まれていません。
✅まとめ✅ 米国の後向きコホート研究の結果、2016年4月1日から2017年12月31日の間に三角筋に筋肉内接種を行った3歳以上の集団において、ワクチン接種後の肩症状に対する絶対的リスクは小さいことが示唆された。
根拠となった試験の抄録
背景:三角筋へのワクチン接種後の有害事象として肩の症状が報告されているが、ワクチン接種後の肩の症状に関する疫学的データは限られている。
目的:ワクチン接種後の肩症状のリスクを推定し、考えられるリスク因子を評価すること。
試験デザイン:レトロスペクティブ・コホート研究
試験設定:大規模な統合医療組織であるKaiser Permanente Southern California。
試験参加者:2016年4月1日から2017年12月31日の間に三角筋に筋肉内接種を行った3歳以上のKaiser Permanente Southern California*の会員。
*カイザーパーマネンテは、米国で最大の非営利医療プランの1つであり、2019年の会員数は1,200万人を超えていルようです。39の病院と700以上の診療所を運営しており、80,000人以上の医師と看護師を含む30万人以上の職員がいるようです。
測定:自然言語処理(NLP)アルゴリズムを用いて、肩の障害診断コードを有するワクチン接種者の中から、潜在的な肩の状態を特定した。NLPで特定されたすべての症例は、我々の症例定義に基づいて手動でチャート確認された。肩の疾患を有する被接種者とない被接種者の特徴を比較した。
結果:3,758,764回のワクチン接種のうち、371件の肩の症状が確認され、推定発生率は1万回のワクチン接種あたり0.99(95%CI 0.89~1.09)であった。発生率は、成人(18 歳以上)ワクチン接種集団で1.22(CI 1.10~1.35)、小児(3~17 歳)ワクチン接種集団で0.05(CI 0.02~0.14)であった。成人ワクチン接種集団では、高齢、女性、ワクチン接種前6ヵ月間の外来受診回数の増加、シャルソン併存疾患指数*が低いこと、肺炎球菌結合型ワクチン接種は、肩症状のリスク上昇と関連していた。インフルエンザワクチンのうち、4価ワクチンは肩症状のリスク上昇と関連していた。高齢者では、ワクチンの同時接種が肩症状リスクの上昇と関連した。
*チャールソン併存疾患指数とは、Charlson et al.(1987)によって提唱された。死亡に寄与する併存疾患を評価し、そのスコアの合計を点数にした指標であり、短期的な死亡リスク等の診療結果と相関があると報告されているスコアリングである。
試験の限界:他の医療環境での一般化可能性、行政データの使用、および交絡の残存。
結論:これらの集団ベースのデータでは、ワクチン接種後の肩症状に対する絶対的リスクが小さいことを示唆している。肩の症状の負担が大きいことを考えると、臨床医はリスクをさらに増加させる可能性のあるあらゆる要因に注意を払う必要がある。
主要な資金源:米国疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention)
引用文献
Risk for Shoulder Conditions After Vaccination: A Population-Based Study Using Real-World Data
Chengyi Zheng et al. PMID: 35313110 DOI: 10.7326/M21-3023
Ann Intern Med. 2022 Mar 22. doi: 10.7326/M21-3023. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35313110/
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