心房細動患者においてDOACとワルファリン、どちらが良いのか?
心房細動は、心房が小きざみに震え、十分に機能しなくなる不整脈のひとつです。 動悸がしたり、めまいや脱力感、胸の不快感を訴えます。心房細動では心房が小きざみにに震えることから血栓が生じやすく、血栓が血流に乗り脳に移行することで脳卒中を引き起こします。
心房細動患者における脳卒中予防には、ワルファリンよりも直接経口抗凝固薬(DOAC)が望ましいことが報告されています。しかし、試験設定や患者背景が異なることから、試験間の直接的な比較はできません。また、より大規模なデータでの検証は困難です。
そこで今回は、患者個人のデータを用いたネットワークメタ解析の結果をご紹介します。本試験では、COMBINE AFデータベースの個々の患者データが使用されました。この試験には、心房細動におけるDOACsとワルファリンの比較に関する4つの重要な試験(RE-LY、ROCKET AF、ARISTOTLE、ENGAGE AF-TIMI 48) でランダムに割り付けられた患者すべてが含まれており、このデータに基づき、ランダム効果を用いた層別Coxモデルによるネットワークメタ分析が実施されました。
試験結果から明らかになったことは?
合計71,683例の患者(標準用量DOAC 29,362例、低用量DOAC 13,049例、ワルファリン 29,272例)が組み入れられました。
標準用量DOAC vs. ワルファリン | ハザード比(HR) 95%信頼区間(CI) |
脳卒中または全身性塞栓症 | HR 0.81 (95%CI 0.74〜0.89) |
死亡 | HR 0.92 (95%CI 0.87〜0.97) |
頭蓋内出血 | HR 0.45 (95%CI 0.37〜0.56) |
大出血 | HR 0.86 (95%CI 0.74〜1.01) |
ワルファリンと比較して、標準用量DOACは脳卒中または全身性塞栓症(883/29,312例 [3.01%] vs. 1,080/29,229例 [3.69%]; HR 0.81 [95%CI 0.74〜0.89])、死亡(2,276/29,312例 [7.76%] vs. 2,460/29,229例 [8.42%]; HR 0.92 [95%CI 0.87〜0.97] )、頭蓋内出血(184/29,270例 [0.63%] vs. 409/29,187例 [1.40%]; HR 0.45 [95%CI 0.37〜0.56] )のハザードが有意に低いことが示されましたが、大出血のハザードに統計的な差は認められませんでした(1,479/29,270例 [5.05%] vs. 1,733/29,187例 [5.94%]; HR 0.86 [95%CI 0.74〜1.01])。
低用量DOAC vs. ワルファリン | ハザード比(HR) 95%信頼区間(CI) |
脳卒中または全身性塞栓症 | HR 1.06 (95%CI 0.95〜1.19) |
頭蓋内出血 | HR 0.28 (95%CI 0.21〜0.37) |
死亡 | HR 0.90 (95%CI 0.83〜0.97) |
大出血 | HR 0.63 (95%CI 0.45〜0.88) |
一方、低用量のDOACは、脳卒中または全身性塞栓症のハザードに統計的な違いは認められませんでした(531/13,049例 [3.96%] vs. 1,080/29,229例 [3.69%]; HR 1.06 [95%CI 0.95〜1.19] )が、頭蓋内出血(55/12,985例 [0.42%] vs. 409/29,187例 [1.40%]; HR 0.28 [95%CI 0.21〜0.37] )、死亡(1,082/13,049例 [8.29%] vs. 2,460/29,229例 [8.42%]; HR 0.90 [95%CI 0.83〜0.97] )、および大出血(564/12,985例 [4.34%] vs. 1,733/29,18例 [5.94%]; HR 0.63 [95%CI 0.45〜0.88] )のハザードが低いことが示されました。
脳卒中または全身性塞栓症および死亡に対する標準用量および低用量DOACのワルファリンに対する治療効果は年齢や性別にかかわらず一貫していましたが、ビタミンK拮抗薬の使用歴がなく(P=0.01)、クレアチニンクリアランスが低い患者では標準用量DOACが有利でした(P=0.09)。大出血については、体重の少ない患者では標準用量のDOACが有利でした(P=0.02)。連続共変量解析では、若年患者はワルファリンに対して標準用量(相互作用P=0.02)および低用量DOAC(相互作用P=0.01)により大きな利益を得ていました。
コメント
試験結果によれば、心房細動患者においてDOACはワルファリンと比較して、より良好な有効性と安全性プロファイルを有していました。低用量DOACについては出血や死亡が少ないものの、脳卒中または全身性塞栓症のイベントにおいてワルファリンと差がありませんでした。一方、標準用量のDOACでは、ワルファリンと比較して脳卒中または全身性塞栓症、死亡、頭蓋内出血が有意に低いことが示されましたが、大出血のハザードに統計的な差は認められませんでした。したがって、基本的には標準用量を使用した方が得られる利益が大きいと考えられます。出血リスクの高い患者など、どのような患者で低用量DOACが優れているのかについては、充分に検証されていません。
続報に期待。
✅まとめ✅ 標準用量DOACはワルファリンと比較して、心房細動患者においてより良好な有効性と安全性プロファイルを有している。
根拠となった試験の抄録
背景:心房細動における脳卒中予防には、ワルファリンよりも直接経口抗凝固薬(DOAC)が望ましい。患者個人のデータを用いたメタアナリシスには、試験レベルのデータよりも大きな利点がある。
方法:COMBINE AF(A Collaboration Between Multiple Institutions to Better Investigate Non-Vitamin K Antagonist Oral Anticoagulant Use in Atrial Fibrillation)データベースの個々の患者データを使用した。この試験には、心房細動におけるDOACsとワルファリンの比較に関する4つの重要な試験(RE-LY[Randomized Evaluation of Long-Term Anticoagulation Therapy]、ROCKET AF[Rivaroxaban Once Daily Oral Direct Factor Xa Inhibition Compared With Vitamin K Antagonism for Prevention of Stroke and Embolism Trial in Atrial Fibrillation]、ARISTOTLE [Apixaban for Reduction in Stroke and Other Thromboembolic Events in Atrial Fibrillation]、ENGAGE AF-TIMI 48 [Effective Anticoagulation With Factor Xa Next Generation in Atrial Fibrillation-Thrombolysis in Myocardial Infarction 48]) でランダムに割り付けられた患者すべてが含まれており、このデータに基づき、ランダム効果を用いた層別Coxモデルによるネットワークメタ分析を実施。標準用量DOAC、低用量DOAC、ワルファリンについて比較した。有効性と安全性のアウトカムについてハザード比(HR[95%CI])を算出した。共変量と治療との相互作用は、カテゴリー共変量と連続共変量としての年齢について、性別に層別して推定された。
結果:合計71,683例の患者(標準用量DOAC 29,362例、低用量DOAC 13,049例、ワルファリン 29,272例)が組み入れられた。ワルファリンと比較して、標準用量DOACは脳卒中または全身性塞栓症(883/29,312例 [3.01%] vs. 1,080/29,229例 [3.69%]; HR 0.81 [95%CI 0.74〜0.89])、死亡(2,276/29,312例 [7.76%] vs. 2,460/29,229例 [8.42%]; HR 0.92 [95%CI 0.87〜0.97] )、頭蓋内出血(184/29,270例 [0.63%] vs. 409/29,187例 [1.40%]; HR 0.45 [95%CI 0.37〜0.56] )のハザードが有意に低かったが、大出血のハザードに統計的な差はなかった(1,479/29,270例 [5.05%] vs. 1,733/29,187例 [5.94%]; HR 0.86 [95%CI 0.74〜1.01])。一方、低用量のDOACは、脳卒中または全身性塞栓症のハザードに統計的な違いはなかった(531/13,049例 [3.96%] vs. 1,080/29,229例 [3.69%]; HR 1.06 [95%CI 0.95〜1.19] )が、頭蓋内出血(55/12,985例 [0.42%] vs. 409/29,187例 [1.40%]; HR 0.28 [95%CI 0.21〜0.37] )、死亡(1,082/13,049例 [8.29%] vs. 2,460/29,229例 [8.42%]; HR 0.90 [95%CI 0.83〜0.97] )、および大出血(564/12,985例 [4.34%] vs. 1,733/29,18例 [5.94%]; HR 0.63 [95%CI 0.45〜0.88] )のハザードが低かった。
脳卒中または全身性塞栓症および死亡に対する標準用量および低用量DOACのワルファリンに対する治療効果は年齢や性別にかかわらず一貫していたが、ビタミンK拮抗薬の使用歴がなく(P=0.01)、クレアチニンクリアランスが低い患者では標準用量DOACが有利であった(P=0.09)。大出血については、体重の少ない患者では標準用量のDOACが有利であった(P=0.02)。連続共変量解析では、若年患者はワルファリンに対して標準用量(相互作用P=0.02)および低用量DOAC(相互作用P=0.01)により大きな利益を得ていた。
結論:DOACはワルファリンと比較して、心房細動患者においてより良好な有効性と安全性プロファイルを有している。
キーワード:抗凝固薬、心房細動、メタアナリシス、脳卒中、ワルファリン
引用文献
Direct Oral Anticoagulants Versus Warfarin in Patients With Atrial Fibrillation: Patient-Level Network Meta-Analyses of Randomized Clinical Trials With Interaction Testing by Age and Sex
Anthony P Carnicelli et al. PMID: 34985309 PMCID: PMC8800560 (available on 2023-01-25) DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.121.056355
Circulation. 2022 Jan 25;145(4):242-255. doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.121.056355. Epub 2022 Jan 5.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34985309/
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