COVID-19に対する高用量イベルメクチン早期治療は効果的なのか?
ワクチンの展開は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策において重要な役割を果たしたことは確かです。しかし、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)亜種の出現とワクチン接種ペースの遅れが、世界のほとんどの地域でみられ、ワクチン接種により期待される患者数の減少を妨げています(PMID: 34321643、PMID: 34181882)。このように、パンデミックは依然として収束することはなく、人類に大きな打撃を与えており、可能であれば低コストで広く入手可能な抗ウイルス薬が依然として強く必要とされています。当初、臨床研究は、新薬の発見と比較して時間を節約できる薬剤の再利用に向けられてきました(PMID: 32889701)。いくつかの化合物がSARS-CoV-2に対してin vitroで、その後in vivoで試験されており、その中には主に抗ウイルス剤として使用されていない薬剤も含まれています。特に、クロロキン/ヒドロキシクロロキンおよびイベルメクチンは、寄生虫感染症の治療薬として広く入手可能であり、安価であることから、低・中所得国での使用に関心が持たれていました(PMID: 32889701)。最近のエビデンスにより、世界的に新しい(そしてはるかに高価な)薬剤に注目が集まっていますが(PMID: 33475701、PMID: 34260849、PMID: 34706189、PMID: 34762459)、安価で古い化合物の役割の可能性についての関心は残っています。
2020年3月、オーストラリアの研究者たちは、寄生虫感染と戦うために何十年も使用されてきた薬剤であるイベルメクチンが、Vero細胞培養のin vitroでSARS-CoV-2に対する抗ウイルス活性を有し、48時間でウイルス量を実質ゼロにできることを実証しました(PMID: 32251768)。この結果から、COVID-19の治療薬として、この「古い」薬剤に対して大きな関心を呼び起こし、一方ではイベルメクチンの効果を試す臨床試験の数が増え続け、他方では自己治療用にこの薬を無秩序に調達することになりました(PMID: 33077974)。しかし、in vitroで見出されたIC50(50%阻害濃度又は半数阻害濃度)(〜2.5μM、2,190ng/mLに相当)に適合するイベルメクチンの血漿濃度は、この薬剤の通常用量(200〜400μg/kg投与後で40〜80ng/mL)とはほど遠いものでした(PMID: 33965138)。このことから、イベルメクチンは、より高用量を投与しない限り、COVID-19に対して臨床的およびウイルス学的な有効性を示さないと予想されます。そこで、より高用量のイベルメクチンを用いた臨床試験の実施が求められます。
そこで今回は、SARS-CoV-2感染症に対するイベルメクチンの高用量(600μg/kgおよび1200μg/kg、5日間連続投与)の有効性および安全性を評価したCOVER試験の結果をご紹介します。
本試験の投与量は以下の検討に基づいて選択されました。
1)血漿中の薬物動態(PK)プロファイルの報告(PMID: 12362927、PMID: 30566757)によれば、連日反復投与は薬物濃度の蓄積をもたらすと考えられ、予測される血漿中濃度は、忍容性の高かった空腹時2,000μg/kgの単回投与(248ng/ml)(PMID: 12362927)で観察された濃度よりわずかに高いのみです
2)ほ乳類の研究(PMID: 15740862、PMID: 10669102)で肺組織中のイベルメクチン濃度が血漿中よりはるかに高いことが示されました。
試験参加者は、ランダム化順列ブロック法により、プラセボ群、イベルメクチン600μg/kg単回投与+プラセボを5日間(イベルメクチン600μg/kg群)、イベルメクチン1,200μg/kg単回投与5日間(イベルメクチン1,200μg/kg群)のいずれかの群に割り付けられました(1:1:1)。
主要アウトカムは、重篤な薬物有害反応(SADR)および7日目のウイルス量の変化でした。
試験結果から明らかになったことは?
2020年7月31日から2021年5月26日まで、32例がプラセボ群に、29例がイベルメクチン600μg/kg群に、32例がイベルメクチン1,200μg/kg群にランダムに割り付けられましたが、症例数が激減したため、6月10日に募集を停止しました。安全性解析では89例が対象となり、87例でウイルス量の変化が算出されました。
SADRは登録されませんでした。
投与開始後7日目の 平均(SD)log10ウイルス量の減少 | P値 (vs. プラセボ) | |
イベルメクチン1,200μg/kg群 | 2.9(1.6) | P=0.099 |
イベルメクチン600μg/kg群 | 2.5(2.2) | P=0.122 |
プラセボ群 | 2.0(2.1) | – |
平均(SD)log10ウイルス量の減少は、イベルメクチン1,200μg/kg群 2.9(1.6)、イベルメクチン600μg/kg群 2.5(2.2)、プラセボ群 2.0(2.1)で、有意差が認められませんでした(イベルメクチン1,200μg/kg vs. プラセボ:P=0.099、イベルメクチン600μg/kg vs. プラセボ群:P=0.122)。
コメント
無症状または軽症のSARS-CoV-2感染と診断された成人を対象としたランダム化比較試験の結果、高用量(600あるいは1,200μg/kg)イベルメクチンの5日間投与は、プラセボと比較して、安全性は同様でしたが、ウイルス量を減少させる効果は認められませんでした。過去に報告されたPK試験の結果を踏まえると、今回の投与用量の5日間連続投与により、in vitro試験で見出されたIC50(〜2.5μM、2,190ng/mLに相当)に近似することから、小規模な検討結果ではあるものの、やはりSARS-CoV-2感染症であるCOVID-19に対してイベルメクチンの有効性は期待できないと考えられます。
ちなみに本試験の参加者は、鼻咽頭ぬぐい液のリアルタイムPCR分析によりSARS-CoV-2感染と新たに診断され、入院や酸素補給を必要としない(COVID-19重症度スコア<3)18歳以上の成人でした。主な除外基準は、妊娠中または授乳中の女性、既知の中枢神経系疾患、透析を受けている参加者、予後6ヵ月未満の重篤な病状、ワルファリン治療、抗ウイルス治療、リン酸クロロキンまたはヒドロキシクロロキンによる治療が必要な場合。
✅まとめ✅ 本試験において、高用量イベルメクチンは安全であったが、ウイルス量を減少させる効果は認められなかった。
根拠となった試験の抄録
背景・目的:高濃度のイベルメクチンはin vitroでSARS-CoV-2に対して抗ウイルス活性を示した。本研究の目的は、SARS-CoV-2初期感染者における高用量イベルメクチンの安全性とウイルス量減少効果を評価することであった。
方法:本試験は、ランダム化、二重盲検、多施設、第II相、用量設定、概念実証の臨床試験であった。参加者は、最近、無症状または軽症のSARS-CoV-2感染と診断された成人である。除外基準は、妊娠中または授乳中の女性、中枢神経系疾患、透析、予後6ヵ月未満の重篤な病状、ワルファリン治療、抗ウイルス剤/リン酸クロロキン/ヒドロキシクロロキン治療などであった。参加者は、ランダム化順列ブロック法により、プラセボ(A群)、イベルメクチン600μg/kg単回投与+プラセボを5日間(B群)、イベルメクチン1200μg/kg単回投与5日間(C群)のいずれかの群に割り付けられた(1:1:1)。
主要アウトカムは、重篤な薬物有害反応(SADR)および7日目のウイルス量の変化とした。
結果:2020年7月31日から2021年5月26日まで、32例がA群に、29例がB群に、32例がC群にランダムに割り付けられたが、症例数が激減したため、6月10日に募集を停止した。安全性解析では89例が対象となり、87例でウイルス量の変化が算出された。
SADRは登録されなかった。平均(S.D.)log10ウイルス量の減少は、C群2.9(1.6)、B群2.5(2.2)、A群2.0(2.1)で、有意差なし(C vs. A:P=0.099、B vs. A:P=0.122)。
結論:高用量イベルメクチンは安全であったが、ウイルス量を減少させる効果は認められなかった。
キーワード:COVID-19、イベルメクチン、ランダム化比較試験、SARS-CoV-2
引用文献
High-dose ivermectin for early treatment of COVID-19 (COVER study): a randomised, double-blind, multicentre, phase II, dose-finding, proof-of-concept clinical trial
Dora Buonfrate et al. PMID: 34999239 PMCID: PMC8734085 DOI: 10.1016/j.ijantimicag.2021.106516
Int J Antimicrob Agents. 2022 Feb;59(2):106516. doi: 10.1016/j.ijantimicag.2021.106516. Epub 2022 Jan 6.
— 読み進める pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34999239/
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