SGLT2阻害薬によるリスクとベネフィットのバランスは?
グルコースコトランスポーター2(SGLT2)阻害剤は、心不全や腎臓保護に大きな効果を発揮することが報告されています。その一方で、あまり知られていない、重篤な副作用を誘発する可能性もあります。SGLT2阻害剤のリスク・ベネフィット・プロファイルに対する理解が不充分なため、処方者や患者がSGLT2阻害剤を充分に利用できていない可能性があります。
そこで今回は、複数のSGLT2阻害剤に関する最近の主要なランダム化プラセボ対照転帰試験からのデータを組み込んだメタ解析の結果をご紹介します。
試験参加者は、心血管リスクの高い2型糖尿病(T2DM)、駆出率の低下した心不全(HFrEF)、慢性腎臓病(CKD)にサブ分類されました。心不全による入院(HFH)、心血管系死亡率、総死亡率、腎機能悪化の予防などの有効性アウトカムが検討されました。安全性については、低血糖、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)、尿路感染症(UTI)、真菌性器感染症(MGI)、低血圧、切断、骨折が評価対象となりました。絶対リスクの減少/増加は、治療/害に必要な数(NNT/NNH)を計算するために使用されました。
試験結果から明らかになったことは?
試験データは71,545例で、そのうち53,144例がハイリスクのT2DM、9,696例がHFrEF、8,705例がCKDでした。
NNT | 駆出率の低下した心不全 (HFrEF) | 慢性腎臓病 (CKD) | 2型糖尿病 (T2DM) |
心不全による入院 (HFH) | 18 | 116 | 139 |
心血管(CV)死亡 | 93 | 245 | 851 |
総死亡 | 76 | 138 | 601 |
腎機能低下の予防 | 143 | 63 | 558 |
糖尿病性ケトアシドーシス (DKA)の予防 | 6,224 | – | – |
NNH | 駆出率の低下した心不全 (HFrEF) | 慢性腎臓病 (CKD) | 2型糖尿病 (T2DM) |
糖尿病性ケトアシドーシス (DKA) | – | 1,458 | 1,525 |
尿路感染症 (UTI) | 557 | 309 | 239 |
真菌性器感染症 (MGI) | 356 | 291 | 69 |
低血圧 | 120 | 165 | 325 |
低血糖 | 574 | 374 | 472 |
切断 | 707 | 4,450 | 1,578 |
骨折 | 858 | 696 | 9,569 |
HFrEFにおける各アウトカムのNNTは、HFH18、CV死亡率93、総死亡率76、腎機能低下の予防143、DKAの予防6224であった。
各アウトカムのNNHは、UTI557、MGI356、低血圧120、低血糖574、切断707、骨折858であった。
CKDの場合、各アウトカムのNNTは、HFH116、CV死亡率245、総死亡率138、腎臓悪化の予防63であった。各アウトカムのNNHは、DKA1,458、UTI309、MGI291、低血圧165、低血糖374、切断 4,450、骨折696であった。
T2DMコホートにおける各アウトカムのNNTは、HFH139、CV死亡率851、総死亡率601、腎臓悪化の予防558であり、各アウトカムのNNHについては、DKAは1,525、UTI239、MGI69、低血圧325、低血糖472、切断1578、骨折9569であった。
コメント
SGLT2阻害薬の使用により、心血管疾患や死亡リスクなどのハードアウトカム発生の低下が示されていますが、いずれもプラセボ対象試験で示された結果のみです。また多くの適応症を有していることから各患者集団において、リスク・ベネフィットの評価が異なる可能性があります。
さて、各患者集団におけるSGLT2阻害薬のリスク・ベネフィットを検証したメタ解析の結果によれば、心血管死亡および総死亡リスクの治療必要数(NNT)が最も低かったのは、心不全(HFrEF)患者集団でした。腎機能の低下予防は慢性腎臓病患者集団でした。2型糖尿病の患者集団においては、いずれのアウトカムにおいても、NNTはそこまで有効な値ではありませんでした(NNT 100未満を基準とした)。一方、有害必要数(NNH)については、HFrEFおよび慢性腎臓病患者集団における低血圧、2型糖尿病の患者集団における真菌性器感染症がハイリスクであると捉えられます。ただし、いずれもランダム化比較試験の結果に基づいた間接比較である点は留意した方が良いと考えます。患者集団の比較は困難です。あくまでも個々の疾患に対する評価として捉えた方が良いと考えられます。
各アウトカムのNNT、NNHを踏まえると、HFrEFおよび慢性腎臓病においては、リスク増加よりも得られるベネフィットが大きいと考えられます。一方で、2型糖尿病患者においては、そこまでベネフィットが大きいとは考えにくい印象です。心不全を合併する2型糖尿病、あるいは他の心血管イベントの既往を有する2型糖尿病への使用により得られるベネフィットが最大化しそうです。
どのような患者でSGLT2阻害薬を使用した方が良いのか、更なる検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ SGLT2阻害薬の心血管系および腎臓保護効果は、リスクをはるかに上回る。
根拠となった試験の抄録
背景:グルコースコトランスポーター2(SGLT2)阻害剤は、心不全や腎臓保護に大きな効果を発揮しますが、その一方で、あまり知られていない、重篤な副作用の可能性も広く存在する。SGLT2阻害剤のリスク・ベネフィット・プロファイルに対する理解が不充分なため、処方者や患者がSGLT2阻害剤を充分に利用できていない可能性がある。
方法:複数のSGLT2阻害剤に関する最近の主要なランダム化プラセボ対照転帰試験からのデータを組み込んだ。試験参加者は、心血管リスクの高いT2DM、HFrEF、CKDにサブ分類された。心不全による入院(HFH)、心血管系死亡率、総死亡率、腎機能悪化の予防などの有効性アウトカムが検討された。安全性については、低血糖、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)、尿路感染症(UTI)、真菌性器感染症(MGI)、低血圧、切断、骨折を評価対象とした。絶対リスクの減少/増加は、治療/害に必要な数(NNT/NNH)を計算するために使用された。
結果:試験データは71,545例で、そのうち53,144例がハイリスクのT2DM、9,696例がHFrEF、8,705例がCKDであった。
HFrEFにおける各アウトカムのNNTは、HFH18、CV死亡率93、総死亡率76、腎機能低下の予防143、DKAの予防6,224であった。
各アウトカムのNNHは、UTI557、MGI356、低血圧120、低血糖574、切断707、骨折858であった。
CKDの場合、各アウトカムのNNTは、HFH116、CV死亡率245、総死亡率138、腎臓悪化の予防63であった。各アウトカムのNNHは、DKA1,458、UTI309、MGI291、低血圧165、低血糖374、切断 4,450、骨折696であった。
T2DMコホートにおける各アウトカムのNNTは、HFH139、CV死亡率851、総死亡率601、腎臓悪化の予防558であり、各アウトカムのNNHについては、DKAは1,525、UTI239、MGI69、低血圧325、低血糖472、切断1,578、骨折9,569であった。
結論と関連性:SGLT2阻害薬の心血管系および腎臓保護効果は、リスクをはるかに上回る。この論文は、臨床医と患者にとって、SGLT2阻害剤による治療のベネフィットとリスクを視野に入れたものである。
キーワード:CKD、HFrEF、心不全、治療必要数、SGLT2阻害薬
引用文献
Outcome trial data on sodium glucose cotransporter-2 inhibitors: Putting clinical benefits and risks in perspective
B Chiang et al. PMID: 34920045 DOI: 10.1016/j.ijcard.2021.12.015
Int J Cardiol. 2021 Dec 14;S0167-5273(21)02007-6. doi: 10.1016/j.ijcard.2021.12.015. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34920045/
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【2型糖尿病患者におけるSGLT2阻害剤と心血管および腎臓のアウトカムとの関連性は?(メタ解析; JAMA Cardiol. 2021)】
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