心血管ハイリスク2型糖尿病に対するチルゼパチド vs. インスリン グラルギン(オープンRCT; SURPASS-4試験; Lancet. 2021)

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新規のGIP/GLP-1受容体デュアル作動薬チルゼパチドの有効性・安全性は?

Tirzepatide(チルゼパチド)は、グルコース依存性インスリン刺激性ポリペプチド(GIP)と、グルカゴン様ペプチド(GLP)-1の両インクレチンの作用を単一分子に統合した新規の週1回投与のGIP/GLP-1受容体デュアル作動薬です。

GIPは当初、グルカゴン分泌を増加させ、血糖増加や脂質の蓄積増加を促すと考えられていましたため、糖尿病治療においては悪者であると考えられていました。しかし、その後の研究結果により、GLP-1受容体作動薬の効果を補完するホルモンであることが明らかとなりました。さらに前臨床モデルにおいて、GIPは食物摂取量を減少させエネルギー消費を増加させることが示されているため、体重の減少をもたらすと考えられます。また、GLP-1受容体作動薬と併用することでグルコースと体重に対してより大きな効果をもたらす可能性があると考えられ、海外で臨床試験(SURPASS Program)が行われています。

今回は、経口血糖降下薬で充分にコントロールされていない心血管ハイリスク成人2型糖尿病患者を対象に、新規GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドとインスリン グラルギンの有効性と安全性を、特に心血管安全性に焦点を当てて評価したSURPASS-4試験の結果をご紹介します。

試験結果から明らかになったことは?

2018年11月20日から2019年12月30日の間に患者が募集されました。3,045例がスクリーニングされ、2,002例がチルゼパチドまたはインスリン グラルギンにランダムに割り付けられました。1,995例はチルゼパチド 5mg(n=329、17%)、10mg(n=328、16%)、15mg(n=338、17%)、またはインスリン グラルギン(n=1,000、50%)を少なくとも1回投与され、修正intention to treat集団に含まれました。

52週時点におけるチルゼパチドの平均HbA1c変化率は、10mg投与で-2.43%(SD 0.05)、15mg投与で-2.58%(0.05)であり、インスリン グラルギン投与では-1.44%(0.03)であった。インスリン グラルギンに対する推定治療差は、チルゼパチド10mgで-0.99%(多重度調整後 97.5%CI -1.13 ~ -0.86)、15mgで-1.14%(-1.28 ~ -1.00)であり、両用量について非劣性マージン 0.3%に達していた。
吐き気(12.23%)、下痢(13.22%)、食欲減退(9.11%)、嘔吐(5.9%)は、インスリン グラルギンよりチルゼパチドでより頻繁に発生し(それぞれ吐き気 2%、下痢 4%、食欲減退 1%未満、嘔吐 2%)、ほとんどのケースは軽度から中等度で用量漸減期に発生した。低血糖(グルコース<54mg/dLまたは重度)の割合は、インスリン グラルギン(19%)に対してチルゼパチド(6.9%)で低く、特にスルホニル尿素を使用していない参加者(チルゼパチド 1.3% vs. インスリン グラルギン 16%)において低値だった。判定されたMACE-4イベント(心血管死、心筋梗塞、脳卒中、不安定狭心症による入院)は109例に発生し、チルゼパチドはインスリン グラルギンに比べて増加しなかった(ハザード比 0.74、95%CI 0.51〜1.08)。試験期間中の死亡は60例(n=25 [3%] チルゼパチド、n=35 [4%] インスリン グラルギン)であった。

コメント

新規GIP/GLP-1受容体作動薬であるチルゼパチドの研究開発が進んでいます。既存薬との比較試験が多く実施されており、一連の臨床試験プログラム(SURPASS Program)は10件ほどあります。

さて、インスリン グラルギンと比較したSURPASS-4試験において、チルゼパチド使用による52週時点における平均HbA1c変化率は非劣性でした。低下率の絶対差はチルゼパチドの方が大きいです。一方、副作用については、やはり消化器系のイベントが多く認められていますので、今後も注視していくことが求められます。さらに心血管イベントについては、あくまでも仮説生成的な結果ではあるものの、インスリン グラルギンと比較してリスク減少傾向でした(ハザード比 0.74、95%CI 0.51〜1.08)。有効性・安全性において有望な結果が示されたことになります。

現在、日本を含めてSURPASS-CVOT試験が実施されていますので、プラセボと比較して心血管イベントのリスク増加がない、あるいはリスク低下が示されるかに期待がかかります。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 心血管リスクが高い2型糖尿病患者において、チルゼパチドはインスリン グラルギンと比較して、52週目の低血糖の発生率が低く、臨床的に意義のあるHbA1cの減少を示した。また心血管イベントについては差がなかった。

根拠となった試験の抄録

背景:経口血糖降下薬で充分にコントロールされていない心血管ハイリスク成人2型糖尿病患者を対象に、新規GIP/GLP-1受容体作動薬tirzepatide(チルゼパチド)とインスリン グラルギンの有効性と安全性を、特に心血管安全性に焦点を当てて評価することを目指した。

方法:本試験は、5大陸14ヵ国187施設で行われた非盲検並行群間比較第3相試験である。対象者は18歳以上で、メトホルミン、スルホニル尿素、Na-グルコース共輸送体(SGLT)-2阻害剤のいずれかの併用療法を受けている2型糖尿病患者で、ベースラインの糖化ヘモグロビン(HbA1c)が7.5〜10.5%(58〜91mmol/mol)、肥満度が25kg/m2以上、心血管疾患が確立または心血管イベントのリスクが高いことが条件だった。参加者は、インタラクティブなWeb応答システムにより、週1回投与のチルゼパチド(5mg、10mg、15mg)またはインスリン グラルギン(100U/mL)のいずれかの皮下注射にランダムに割り当てられ、空腹時血糖値が100mg/dL未満になるように漸増された。
主要評価項目は、ベースラインから52週後までのHbA1c変化量におけるティルゼパチド10mgまたは15mg、あるいはその両方におけるインスリン グラルギンに対する非劣性(非劣性マージン 0.3%)だった。
すべての参加者は少なくとも52週間治療を受け、最大104週間または試験終了まで治療を継続し、主要な有害心血管イベント(MACE)の収集と判定を行った。安全性については、全試験期間にわたって評価された。本試験は ClinicalTrials.gov, NCT03730662に登録されている。

知見:2018年11月20日から2019年12月30日の間に患者を募集した。3,045例がスクリーニングされ、2,002例がチルゼパチドまたはインスリン グラルギンにランダムに割り付けられた。1,995例はチルゼパチド 5mg(n=329、17%)、10mg(n=328、16%)、15mg(n=338、17%)、またはインスリン グラルギン(n=1,000、50%)を少なくとも1回投与し、修正intention to treat集団に含まれることとなった。
52週時点におけるチルゼパチドの平均HbA1c変化率は、10mg投与で-2.43%(SD 0.05)、15mg投与で-2.58%(0.05)であり、インスリン グラルギン投与では-1.44%(0.03)であった。インスリン グラルギンに対する推定治療差は、チルゼパチド10mgで-0.99%(多重度調整後 97.5%CI -1.13 ~ -0.86)、15mgで-1.14%(-1.28 ~ -1.00)であり、両用量について非劣性マージン 0.3%に達していた。
吐き気(12.23%)、下痢(13.22%)、食欲減退(9.11%)、嘔吐(5.9%)は、インスリン グラルギンよりチルゼパチドでより頻繁に発生し(それぞれ吐き気 2%、下痢 4%、食欲減退 1%未満、嘔吐 2%)、ほとんどのケースは軽度から中等度で用量漸減期に発生した。低血糖(グルコース<54mg/dLまたは重度)の割合は、インスリン グラルギン(19%)に対してチルゼパチド(6.9%)で低く、特にスルホニル尿素を使用していない参加者(チルゼパチド 1.3% vs. インスリン グラルギン 16%)において低値だった。判定されたMACE-4イベント(心血管死、心筋梗塞、脳卒中、不安定狭心症による入院)は109例に発生し、チルゼパチドはインスリン グラルギンに比べて増加しなかった(ハザード比 0.74、95%CI 0.51〜1.08)。試験期間中の死亡は60例(n=25 [3%] チルゼパチド、n=35 [4%] インスリン グラルギン)であった。

解釈:心血管リスクが高い2型糖尿病患者において、チルゼパチドはインスリン グラルギンと比較して、52週目の低血糖の発生率が低く、臨床的に意義のあるHbA1cの減少を示した。また、チルゼパチドの投与は、心血管リスクの上昇とは関連していなかった。

資金提供:Eli Lilly and Company社

引用文献

Tirzepatide versus insulin glargine in type 2 diabetes and increased cardiovascular risk (SURPASS-4): a randomised, open-label, parallel-group, multicentre, phase 3 trial
Stefano Del Prato et al.
Lancet. 2021 Nov 13;398(10313):1811-1824. doi: 10.1016/S0140-6736(21)02188-7. Epub 2021 Oct 18.
— 続きを読む pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34672967/

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