CYP2C19機能欠損キャリアの脳卒中およびTIAに対するチカグレロルとクロピドグレル、どちらが優れていますか?(DB-RCT; CHANCE-2試験; N Engl J Med. 2021)

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CYP2C19機能欠損キャリアにおいてチカグレロルとクロピドグレル、どちらが優れているのか?

代謝酵素であるCYPは人種により遺伝子多型の存在が報告されており、特にCYP2C19については白人と比較してアジア人でより欠損率が高いことが報告されています。しかし、アジア人を対象としたCYP2C19機能欠損キャリア(保有者)の脳卒中二次予防におけるチカグレロルとクロピドグレルの前向きの比較試験は広く行われていません。

そこで今回は、中国の202施設において、CYP2C19機能低下対立遺伝子を有する軽度の虚血性脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA)患者を対象としたランダム化二重盲検プラセボ対照試験(CHANCE-2試験)の結果をご紹介します。

試験に参加した患者は、症状発現後24時間以内に、①チカグレロル(1日目に180mg、2~90日目に90mgを1日2回投与)とプラセボ(クロピドグレルのダミー)を投与する群と、②クロピドグレル(1日目に300mg、2~90日目に75mgを1日1回投与)とプラセボ(チカグレロルのダミー)を投与する群に1:1の割合で割り付けられ、両群とも21日間アスピリンを投与されました。

有効性の主要評価項目は脳梗塞の新規発症安全性の主要評価項目は重度または中等度の出血で、いずれも90日以内に発症したものとされました。

試験結果から明らかになったことは?

合計11,255例の患者がスクリーニングされ、6,412例の患者が登録されました。3,205例がチカグレロル群に、3,207例がクロピドグレル群に割り付けられました。患者の年齢中央値は64.8歳で、33.8%が女性であり、98.0%が漢民族に属していました。

90日以内の脳卒中発症ハザード比(95%CI)
チカグレロル群191例(6.0%)0.77(0.64~0.94
P=0.008
クロピドグレル群243例(7.6%)

90日以内に脳卒中を発症したのは、チカグレロル群では191例(6.0%)、クロピドグレル群では243例(7.6%)でした。
☆ハザード比 0.77、95%信頼区間 0.64~0.94、P=0.008

重度または中等度の出血全出血イベント
チカグレロル群9例(0.3%)170例(5.3%)
クロピドグレル群11例(0.3%)80例(2.5%)

副次評価項目は、主要評価項目とおおむね同様の方向性でした。重度または中等度の出血は、チカグレロル群で9例(0.3%)、クロピドグレル群で11例(0.3%)に発生し、あらゆる出血はそれぞれ170例(5.3%)、80例(2.5%)に発生しました。

コメント

CYP2C19の欠損については、アジア人で多いことが報告されています。CYP2C19は様々な薬剤を代謝することから、CYP2C19欠損による薬物治療への影響は大きいと考えられます。クロピドグレルはCYP2C19で代謝されることから、CYP2C19欠損患者の脳卒中二次予防における代替治療案が求められます。チカグレロルはCYP2C19の影響が少ないことから、代替治療案として提示されることが多い薬剤です。

ちなみに日本人におけるCYP2C19のPoor Metabolizer(PM)は18.8〜25.5%であることが報告されています。

【日本人CYP分子種2C19におけるPMとEMの割合はどのくらいですか?(Review; Aliment Pharmacol Ther. 1999)】

さて、本試験結果によれば、CYP2C19機能欠損対立遺伝子を有する中国人患者において、90日以内に脳卒中を発症したのは、クロピドグレル群と比較して、チカグレロル群で少ないことが示されました(ハザード比 0.77、95%信頼区間 0.64~0.94、P=0.008)。一方、重度または中等度の出血においては群間差が認められませんでしたが、全出血イベントはチカグレロル群の方が多いことが認められています。出血リスクの高い患者がどの程度含まれていたのか、興味深いところではありますが、詳細不明です。治療コストについてはチカグレロルの方がクロピドグレルよりも効果であることから、どのような患者でチカグレロルの効果が最大化するのか検証が待たれます。

とは言え、CYP2C19機能欠損対立遺伝子を有する患者においては、クロピドグレルではなく、チカグレロルを選択した方が良さそうです。

日本人における検証が待たれます。続報に期待。

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✅まとめ✅ CYP2C19機能欠損対立遺伝子の保有者である軽度の虚血性脳卒中またはTIAの中国人患者において、90日後の脳卒中リスクはチカグレロルの方がクロピドグレルよりもわずかに低かった。重度および中等度の出血リスクは両群間で差がなかったが、総出血イベントはチカグレロルの方がクロピドグレルよりも多かった。

根拠となった試験の抄録

背景:CYP2C19機能欠損キャリアの脳卒中二次予防におけるチカグレロルとクロピドグレルの比較は広く行われていない。

方法:中国の202施設において、CYP2C19機能欠損対立遺伝子を有する軽度の虚血性脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA)患者を対象としたランダム化二重盲検プラセボ対照試験を実施した。
患者は、症状発現後24時間以内に、①チカグレロル(1日目に180mg、2~90日目に90mgを1日2回投与)とプラセボ(クロピドグレルのダミー)を投与する群と、②クロピドグレル(1日目に300mg、2~90日目に75mgを1日1回投与)とプラセボ(チカグレロルのダミー)を投与する群に1:1の割合で割り付けられ、両群とも21日間アスピリンを投与された。
有効性の主要評価項目は脳梗塞の新規発症安全性の主要評価項目は重度または中等度の出血で、いずれも90日以内に発症したものとした。

結果:合計11,255例の患者がスクリーニングされ、6,412例の患者が登録され、3,205例がチカグレロル群に、3,207例がクロピドグレル群に割り付けられた。患者の年齢中央値は64.8歳で、33.8%が女性であり、98.0%が漢民族に属していた。
90日以内に脳卒中を発症したのは、チカグレロル群では191例(6.0%)、クロピドグレル群では243例(7.6%)であった。
☆ハザード比 0.77、95%信頼区間 0.64~0.94、P=0.008
副次評価項目は、主要評価項目とおおむね同様の方向性だった。重度または中等度の出血は、チカグレロル群で9例(0.3%)、クロピドグレル群で11例(0.3%)に発生し、あらゆる出血はそれぞれ170例(5.3%)、80例(2.5%)に発生した。

結論:CYP2C19機能欠損対立遺伝子の保有者である軽度の虚血性脳卒中またはTIAの中国人患者において、90日後の脳卒中リスクは、チカグレロルの方がクロピドグレルよりもわずかに低かった。重度および中等度の出血リスクは両群間で差がなかったが、総出血イベントはチカグレロルの方がクロピドグレルよりも多かった。

資金提供:中華人民共和国科学技術部

ClinicalTrials.gov番号:NCT04078737

引用文献

Ticagrelor versus Clopidogrel in CYP2C19 Loss-of-Function Carriers with Stroke or TIA
Yongjun Wang et al. PMID: 34708996 DOI: 10.1056/NEJMoa2111749
N Engl J Med. 2021 Oct 28. doi: 10.1056/NEJMoa2111749. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34708996/

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