認知症の興奮性行動に対するミルタザピンの有効性・安全性は?(DB-RCT; SYMBAD試験; Lancet. 2021)

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認知症に対するミルタザピンの効果はどれくらいか?

ノルアドレナリン作動性および特異的セロトニン作動性の抗うつ薬であるミルタザピンは、高齢者に広く使用されています。2009年から2014年にかけて、ヨーロッパで400万~800万件の抗うつ薬の使用開始を調査した結果、高齢者および認知症患者に最も多く処方された抗うつ薬でした(PMID: 30780117)。HTASADD試験で認知症のうつ病治療薬として検討したところ、うつ病に対する有効性のエビデンスはありませんでした(PMID: 21764118)。

しかし、うつ病とアルツハイマー型認知症の可能性がある人を対象とした二次解析では、精神神経症状(13週目の神経精神医学検査(neuro­psychiatric inventory, NPIスコア)に対するミルタザピンの効果が認められました。粗のNPIスコアが中央値以上の患者では、ミルタザピンとプラセボの間でNPIスコアに7.1ポイントの差(95%CI -0.50~14.68、p=0.067)、ミルタザピンとセルトラリンの間で13.2ポイントの差(4.47~21.95、p=0.003)がありました(PMID: 23258767)。

ミルタザピンは、中枢活性型のシナプス前α2アンタゴニストであり、5-HT1受容体を介して中枢のノルアドレナリンおよびセロトニン神経伝達を増加させます。また、ミルタザピンのヒスタミンH1拮抗作用は鎮静作用と関連しており、精神神経症状に対する作用機序の可能性が示唆されています。

また、他の多くの抗うつ薬と比較して、抗コリン作用が少ないことも特徴です。シタロプラムとは異なり、治療用量では心血管系への影響が少ないことが報告されています。 このことは、他の抗うつ薬のような安全性の問題がないことを示唆しています。

そこで今回は、アルツハイマー病における焦燥感(agitation)の軽減に関するミルタザピンの臨床効果と安全性プロファイルについて、プラセボと比較検討したSYMBAD試験の結果をご紹介します。

試験結果から明らかになったことは?

並行群間二重盲検プラセボ対照試験であるSYMBAD(Study of Mirtazapine for Agitated Behaviours in Dementia trial)は、英国の26施設で行われました。
参加者は、アルツハイマー型認知症の可能性が高く、非薬物療法に反応しない焦燥感があり、Cohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)スコアが45点以上でした。

2017年1月26日から2020年3月6日の間に、204例の参加者を募集し、ランダム化しました。12週目の平均CMAIスコアは、ミルタザピン投与群とプラセボ投与群で有意差は認められませんでした。
☆調整平均差-1.74、95%CI -7.17~3.69、p=0.53

有害事象が発生したのは、対照群で102例中65例(64%)、ミルタザピン投与群で102例中67例(66%)であり、両群間で同程度でした。しかし、16週目までの死亡数は、対照群(n=1)よりもミルタザピン群(n=7)の方が多いことが示されましたが、事後解析の結果、この差は統計学的に有意ではないことが示唆されました(p=0.065)。

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認知症の症状は多岐にわたりますが、なかでも興奮性行動については、家族や介護者の負担となることから、早期のコントロールが望まれ、抗不安薬や抗精神病薬が用いられています。

さて、本試験結果によれば、Cohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)スコアが45点以上のアルツハイマー型認知症疑い、かつ非薬物療法に反応しない焦燥感を有する患者集団において、ミルタザピンの使用はプラセボと比較して、12週目の平均CMAIスコアに差が認められませんでした。さらに、仮説生成的な結果ではありますが、ミルタザピン使用により死亡リスク増加の可能性が示されました。

有効性・安全性に差が認められないことから、アルツハイマー病における焦燥感(agitation)に対してミルタザピンの積極的な使用は推奨できなさそうです。ややサンプルサイズが低い印象ではありますが、26施設で実施された結果であることから、結果の外挿は高いのかもしれません。

どのような薬剤が認知症のagitationに有効であるのか、検証が求められます。今後の試験結果に期待。

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✅まとめ✅ 認知症における興奮性行動(agitation)に対するミルタザピンの有効性は、プラセボと差が認められなかった。

根拠となった試験の抄録

背景:焦燥感(アジテーション, agitation)は認知症で多く見られ、認知症患者と介護者双方のQOLに悪影響を与える。非薬物による患者中心のケアが第一選択の治療法であるが、このケアが有効でない場合には他の治療法が必要となる。抗精神病薬に代わる、より安全で効果的な治療法に関する現在のエビデンスは乏しい。我々は、認知症の焦燥感に処方される抗うつ薬であるミルタザピンの有効性と安全性を評価した。

方法:並行群間二重盲検プラセボ対照試験であるSYMBAD(Study of Mirtazapine for Agitated Behaviours in Dementia trial)は、英国の26施設で行われた。参加者は、アルツハイマー型認知症の可能性が高く、非薬物療法に反応しない焦燥感があり、Cohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)スコアが45点以上であった。対象者は、ミルタザピン(45mgまで漸増)またはプラセボのいずれかに1対1でランダムに割り付けられた。
主要評価項目は、12週間後のCMAIスコアの低下であった。
本試験は、ClinicalTrials.gov:NCT03031184、ISRCTN17411897に登録されている。

調査結果:2017年1月26日から2020年3月6日の間に、204例の参加者を募集し、ランダム化した。12週目の平均CMAIスコアは、ミルタザピン投与群とプラセボ投与群で有意差はなかった(調整平均差-1.74、95%CI -7.17~3.69、p=0.53)。有害事象が発生したのは、対照群で102例中65例(64%)、ミルタザピン投与群で102例中67例(66%)であり、同程度であった。しかし、16週目までの死亡数は、対照群(n=1)よりもミルタザピン群(n=7)の方が多かったが、事後解析の結果、この差は統計学的に有意ではないことが示唆された(p=0.065)。

解釈:本試験では、プラセボと比較してミルタザピンの有益性は認められず、ミルタザピンを使用した場合には死亡率が高くなる可能性があることが観察された。本試験のデータは、認知症の焦燥感の治療にミルタザピンを使用することを支持するものではない。

資金提供:英国国立衛生研究所の医療技術評価プログラム

引用文献

Study of mirtazapine for agitated behaviours in dementia (SYMBAD): a randomised, double-blind, placebo-controlled trial
Sube Banerjee et al. PMID: 34688369 DOI: 10.1016/S0140-6736(21)01210-1
Lancet. 2021 Oct 23;398(10310):1487-1497. doi: 10.1016/S0140-6736(21)01210-1.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34688369/

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