DAPTにおける抗血小板薬のデエスカレーションはどのような有効性・安全性を示せるのか?
急性冠動脈症候群(心筋虚血により発症する急性心筋梗塞、不安定狭心症、心臓突然死の総称, ACS)患者においては、将来的な心血管イベントの発生リスクが高いことから、経皮的冠動脈形成術(percutaneous coronary intervention, PCI)あるいは冠動脈バイパス術(Coronary artery bypass grafting, CABG)が実施されます。
いずれの治療においても、術後に血栓塞栓イベントの発生リスク増加が認められるため、イベント発生抑制のために抗血小板薬を用いた二重抗血小板療法(DAPT)が用いられています。特に強力なP2Y12阻害剤による治療が率先して行われる時代になり、二重抗血小板療法(DAPT)の効果をバランスよく発揮することは、ACS管理の要となっています。
最近のランダム化比較試験(RCT)では、出血のリスクを減らすためにDAPTのde-escalation(デエスカレーション、薬剤用量の漸減)が検討されています。しかし、デエスカレーションによる有効性・安全性の検証は充分ではありません。
そこで今回は、ACS患者において、強力なP2Y12阻害剤からクロピドグレルまたは低用量のプラスグレルへのデエスカレーションを含む、さまざまなDAPT戦略の有効性と安全性を比較検討したRCT 15件のネットワークメタ解析の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
デエスカレーション療法 | 主要な出血アウトカム |
vs. クロピドグレル | HR 0.48 (95%CI 0.30〜0.77) |
vs. チカグレロル | HR 0.32 (95%CI 0.20〜0.52) |
vs. 標準用量のプラスグレル | HR 0.36 (95%CI 0.24〜0.55) |
vs. 低用量のプラスグレル | HR 0.40 (95%CI 0.22〜0.75) |
検索の結果、15件の適格なRCTが見つかり、ACS患者55,798例が対象となりました。デエスカレーション療法は、主要な有効性に影響を及ぼすことなく、主要な出血アウトカムのリスク低減と関連していました。
☆クロピドグレルに対するHR 0.48、95%CI 0.30〜0.77
☆チカグレロルに対するHR 0.32、95%CI 0.20〜0.52
☆標準用量のプラスグレルに対するHR 0.36、95%CI 0.24〜0.55
☆低用量のプラスグレルに対するHR 0.40、95%CI 0.22〜0.75
クロピドグレルと低用量プラスグレルへのデエスカレーションの間で、虚血や出血の結果に有意な差はみられませんでした。
コメント
PCIを受けた急性冠症候群患者において二重抗血小板療法(DAPT)が実施されています。抗血小板薬のデエスカレーションや中止については、TWILIGHT試験やHOST-REDUCE-POLYTECH-ACS試験が有名です。
さて、ランダム化比較試験(RCT)15件のネットワークメタ解析の結果、デエスカレーション療法は、主要な有効性に影響を及ぼすことなく、主要な出血アウトカムのリスク低減と関連していました。P2Y12阻害剤を用いたDAPT療法の場合、P2Y12阻害剤の減量(漸減)やクロピドグレルへの変更は安全性が高く有効なようです。
今後は、P2Y12阻害剤の漸減やクロピドグレルへの変更のタイミングについて検証した方が良いと考えられます。現行の診療ガイドラインでは、DAPT開始後1年は実施するよう記載されていますが、さらに短期間であっても虚血アウトカム発生に差がなく、出血イベント発生率の低下が示されています。とは言え、充分に検討されているとは言えません。
今後の検討結果に期待。
✅まとめ✅ RCT 15件のネットワークメタ解析の結果、デエスカレーションはACS治療において最も効果的な戦略であり、その結果、虚血イベントを増加させることなく出血イベントを減少させることができた。
根拠となった試験の抄録
背景:強力なP2Y12阻害剤による治療の時代になり、二重抗血小板療法(DAPT)の効果をバランスよく発揮することは、急性冠症候群(ACS)管理の要となっている。最近のランダム化比較試験(RCT)では,出血のリスクを減らすためのDAPTのde-escalation(デエスカレーション、薬剤用量の漸減)が検討されている。
目的:本研究の目的は、ACS患者において、強力なP2Y12阻害剤からクロピドグレルまたは低用量のプラスグレルへのデエスカレーションを含む、さまざまなDAPT戦略の有効性と安全性の結果を比較することであった。
方法:MEDLINEとEMBASEを2021年1月まで検索し、ACS患者のDAPTの有効性と安全性を検討したRCTを検索し、ネットワークメタアナリシスを行った。
有効性の主要アウトカムは、心血管死、心筋梗塞、脳卒中の複合とした。
出血の主要評価項目は、試験で定義された大出血または小出血とした。
結果:検索の結果、15件の適格なRCTが見つかり、ACS患者55,798例が対象となった。デエスカレーション療法は、主要な有効性に影響を及ぼすことなく、主要な出血アウトカムのリスク低減と関連していた。
☆クロピドグレルに対するHR 0.48、95%CI 0.30〜0.77
☆チカグレロルに対するHR 0.32、95%CI 0.20〜0.52
☆標準用量のプラスグレルに対するHR 0.36、95%CI 0.24〜0.55
☆低用量のプラスグレルに対するHR 0.40、95%CI 0.22〜0.75
クロピドグレルと低用量プラスグレルへのデエスカレーションの間で、虚血や出血の結果に有意な差はなかった。
結論:他の確立されたDAPTの使用法と比較して、デエスカレーションはACS治療において最も効果的な戦略であり、その結果、虚血イベントを増加させることなく出血イベントを減少させることができた。
キーワード:クロピドグレル、de-escalation(漸減)、低用量、ネットワークメタアナリシス、プラスグレル、システマティックレビュー、チカグレロル。
引用文献
De-Escalation of Dual Antiplatelet Therapy in Patients With Acute Coronary Syndromes
Satoshi Shoji et al. PMID: 34275697 DOI: 10.1016/j.jacc.2021.06.012
J Am Coll Cardiol. 2021 Aug 24;78(8):763-777. doi: 10.1016/j.jacc.2021.06.012. Epub 2021 Jul 15.
— 続きを読む pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34275697/
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