Triple Whammy(RASi+利尿薬+NSAID)による腎機能低下リスクはどのくらいなのか?
レニン・アンジオテンシン系阻害薬(renin-angiotensin-system inhibitor; RASi)、利尿薬、非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs; NSAIDs)の3剤併用による急性腎障害(acute kidney injury; AKI)のリスクが複数報告されています(PMID: 25874600、PMID: 26300514)。
Lapiらの報告によると、RASiと利尿薬による2剤併用療法に比べて、NSAIDsを加えた3剤併用療法ではAKI発症率が1.31倍(95%信頼区間 CI 1.12〜1.53)に上昇し、特に3剤併用の30日以内ではAKI発症リスクが1.82倍(95%CI 1.35〜2.46)にも上昇しました(PMID: 23299844)
このような背景から、これら3剤の併用は「Triple Whammy(三段攻撃)」と呼ばれ、国立医薬品食品衛生研究所が作成している医薬品安全性情報にも複数回にわたって掲載されています(NIHS2003、NIHS2006、NIHS2013)。さらに、2018年5月に厚生労働省より通知された高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)や、エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン 2018において、高齢者やCKDステージG3b以降の患者にこれら3剤の併用を避けることが提唱されています。しかし、日本においてTripleWhammyの影響を調査した報告はほとんどありません。
そこで今回、電子カルテを用いてTripleWhammyの処方動向、腎機能への慢性的影響を調査し、解析を行った試験結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
単施設(賀医科大学医学部附属病院)でTripleWhammyを5年間にわたって処方された外来患者203例が対象とされました。前年にもTripleWhammyを確認できた患者と、検査データが入手できない患者を除外し、95例の患者を対象となりました。
平均推定糸球体濾過量(eGFR)は、併用療法実施直後に62.6mL/min/1.73m2から58.9mL/min/1.73m2へと有意に低下しました(p<0.01)。
TripleWhammy投与後90日以内にAKIと診断された患者は認められませんでしたが、7.4%の患者でeGFRが投与開始前と比較して、25%以上の低下が示されました。
性別、年齢、過去の腎機能、腎機能変化の相関分析では、本剤投与前のeGFRとeGFRの変化には負の相関が認められました(p<0.01)。また、個人差の影響を考慮し、ケースクロスオーバーデザインを用いて、本剤投与前後のeGFRの変化を比較したところ、本剤投与後のeGFRは有意に低下することが確認されました(p<0.01)。
コメント
日本人を対象に、TripleWhammyの影響を検証した貴重な試験ですが、単施設の小規模な観察研究ですので、エビデンスの質としては高くありません。
さて、本試験結果によれば、TripleWhammy投与後90日以内にAKIと診断された患者は認められませんでしたが、7.4%の患者でeGFRが投与開始前と比較して、25%以上の低下が示されました。また、eGFRは併用療法実施直後に62.6mL/min/1.73m2から58.9mL/min/1.73m2へと有意に低下しました。絶対差は3.7mL/min/1.73m2の低下ですが、過去の報告によれば、
血清クレアチニン値 0.3〜0.5mg/dL程度の増加であっても、生命予後や臨床経過に影響を与えることが報告されています(PMID: 15153571、PMID: 16177006)。
これらを考慮すると、やはりTripleWhammyは避けた方が良いように考えられます。とはいえ、対象となったのはeGFRが平均62.6mL/min/1.73m2の患者ですので、eGFRが低下していない患者におけるTripleWhammyの影響は明らかにされていません。
引き続き追っていきたいテーマです。続報に期待。
✅まとめ✅ “Triple Whammy “は、eGFRが平均62.6mL/min/1.73m2の患者において、慢性的な腎変性を引き起こすかもしれない
根拠となった試験の抄録
背景:近年、レニン・アンジオテンシン阻害剤、利尿剤、非ステロイド系抗炎症剤の併用により、急性腎障害(AKI)のリスクが高まるという報告がある。この組み合わせは「Triple Whammy(三段攻撃)」と呼ばれている。しかし、腎臓に対する慢性的な影響については報告されていない。
目的:本研究では、”Triple Whammy “の腎機能への慢性的な影響を調べた。
結果:単施設(賀医科大学医学部附属病院)でこの組み合わせを5年間にわたって処方された外来患者203例を対象とした。前年にもこの組み合わせを確認できた患者と、検査データが入手できない患者を除外し、95例の患者を対象とした。
平均推定糸球体濾過量(eGFR)は、併用療法実施直後に62.6mL/min/1.73m2から58.9mL/min/1.73m2へと有意に低下した(p<0.01)。本剤投与後90日以内にAKIと診断された患者はいなかったが、7.4%の患者でeGFRが投与開始前と比較して25%以上の低下が示された。
性別、年齢、過去の腎機能、腎機能変化の相関分析では、本剤投与前のeGFRとeGFRの変化には負の相関が認められた(p<0.01)。また、個人差の影響を考慮し、ケースクロスオーバーデザインを用いて、本剤投与前後のeGFRの変化を比較したところ、本剤投与後のeGFRは有意に低下することが確認された(p<0.01)。
結論:”Triple Whammy “はAKIだけでなく、慢性的な腎変性を引き起こす可能性があると考えられる。
引用文献
Chronic Effects on Kidney Function by “Triple Whammy” (Combination of Renin and Angiotensin Type Inhibitor, Diuretic Drug and Nonsteroidal Anti-inflammatory Drug)
Yuki Kunitsu et al.
Yakugaku Zasshi. 2019;139(11):1457-1462. doi: 10.1248/yakushi.19-00096.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31685742/
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