糖尿病患者におけるサイクリングは心血管疾患死などの死亡リスク低下と関連する(前向きコホート研究; EPIC試験; JAMA Intern Med. 2021)

high angle view of people on bicycle 02_循環器系
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運動としての自転車の活用は有益なのか?

1型、2型を問わず糖尿病患者においては、総死亡および心血管疾患(CVD)による早期の死亡が多いことが報告されています。糖尿病の血糖コントロールにおいて、基本となるのは食事と運動療法です。とはいえ、具体的に何をすれば良いのか、患者背景にも異なるため一律な設定は困難です。特に運動においては、さまざまな種類があることから、何を、いつ、どのくらいの期間、どのくらいの運動量を実践すれば良いのか、捉えることが困難です。

自転車走行(サイクリング)は、ジョギングと比較して、膝や腰への負担が軽いとされていますが、糖尿病患者への寿命をどのくらい延ばせるかについては明らかとなっていません。

そこで今回は、糖尿病患者のサイクリング時間と全死亡およびCVD死亡率との関連を調べるとともに、サイクリング時間の変化と全死亡およびCVD死亡率のリスクとの関連を評価した前向きコホート研究(EPIC試験)の結果をご紹介します。

試験結果から明らかになったことは?

解析対象となった成人糖尿病患者7,459例の平均(SD)年齢は55.9(7.7)歳で、3,924例(52.6%)が女性でした。110,944人・年の追跡期間中、1,673例が死亡しました。

ベースライン時のアンケートにおける回答
(サイクリング時間)
全死亡リスク
ハザード比(95%CI)
サイクリングをしていないと回答した人
(0分/週)
Reference
1~59分/週0.78
0.61~0.99
60~149分/週0.76
0.65~0.88
150~299分/週0.68
0.57~0.82
300分/週以上0.76
0.63~0.91

ベースラインでサイクリングをしていないと回答した人(0分/週)を基準群とした場合、多変量調整後の全死亡のハザード比は、サイクリング時間が1~59分/週、60~149分/週、150~299分/週、300分/週以上の場合、それぞれ0.78(95%CI 0.61~0.99)、0.76(95%CI 0.65~0.88)、0.68(95%CI 0.57~0.82)、0.76(95%CI 0.63~0.91)でした。

2回のアンケートにおける回答全死亡リスク
ハザード比(95%CI)
両検査において
サイクリングをしていないと回答した人
Reference
サイクリングをしてからやめた人0.90
0.71〜1.14
最初はサイクリングをしていなかったが
サイクリングを始めた人
0.65
0.46〜0.92
両検査において
サイクリングをしていると回答した人
0.65
0.53〜0.80

57,802人・年の追跡調査によるサイクリング時間の変化の分析では、全死亡が計975件記録されました。
両検査においてサイクリングをしていないと回答した人と比較して、全死亡の多変量調整ハザード比は、サイクリングをしてからやめた人では0.90(95%CI 0.71〜1.14)、最初はサイクリングをしていなかったがサイクリングを始めた人では0.65(95%CI 0.46〜0.92)、両検査においてサイクリングをしていると回答した人では0.65(95%CI 0.53〜0.80)でした。

CVD死亡率についても同様の結果が得られました。

コメント

西欧で実施された大規模な前向きコホート研究であるEPIC試験の結果、サイクリングを週に1〜59分以上実施している人は、全く実施しない人に比べて、全死亡リスクの低下との関連性が示されました。本試験の交絡因子としては、健康思考バイアスが主なものであると考えられます。そもそも少しでも運動を続けている人は、食生活においてもカロリーや食材の種類に注意している可能性があります。糖尿病患者であれば尚更、この傾向は一般集団よりも強くなると考えられます。

とはいえ、運動としてのサイクリングを実施することで全死亡や心血管疾患(CVD)による死亡リスクが低減できる可能性が示されたのは有益な試験結果であると考えられます。

あくまでも仮説生成的な研究結果ではありますが、低血糖や脱水に注意しつつ、サイクリングを運動に取り入れてみるのはどうでしょうか。

woman carrying a bicycle under the sunlight

✅まとめ✅ 西欧の前向きコホート研究EPIC試験によれば、他の身体活動の実践とは無関係に、サイクリングは糖尿病患者の全死因およびCVD死亡リスクの低下と関連していた。

根拠となった試験の抄録

試験の重要性:糖尿病患者では、全死因および心血管疾患(CVD)による早期の死亡が多い。

目的:糖尿病患者の自転車走行(サイクリング)時間と全死亡およびCVD死亡率との関連を調べるとともに、サイクリング時間の変化と全死亡およびCVD死亡率のリスクとの関連を評価する。

試験デザイン、設定および参加者:本研究は、European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition studyに参加した7,459例の糖尿病患者を対象とした前向きコホート研究である。
1992年から2000年にかけて西欧10ヵ国で、病歴、社会人口統計学的情報、およびライフスタイルに関する質問票を実施し(ベースライン検査)、ベースラインから5年後の2回目の検査でも実施した。
合計5,423例の糖尿病患者が両検査に参加した。最終更新の一次解析は2020年11月13日に行われた。

曝露:一次曝露は、ベースライン検査時に自己申告された1週間のサイクリング時間。副次評価項目は、ベースライン検査から2回目の検査までのサイクリング状況の変化とした。

主要評価項目と測定法:主要アウトカムおよび副次アウトカムは、他の身体活動様式、糖尿病罹病期間、社会人口統計学的因子およびライフスタイル因子を調整した上で、それぞれ全死亡率とCVD死亡率とした。

結果:解析対象となった成人糖尿病患者7,459例の平均(SD)年齢は55.9(7.7)歳で、3,924例(52.6%)が女性であった。110,944人・年の追跡期間中、1,673例が死亡した。
ベースラインでサイクリングをしていないと回答した人(0分/週)を基準群とした場合、多変量調整後の全死亡のハザード比は、サイクリング時間が1~59分/週、60~149分/週、150~299分/週、300分/週以上の場合、それぞれ0.78(95%CI 0.61~0.99)、0.76(95%CI 0.65~0.88)、0.68(95%CI 0.57~0.82)、0.76(95%CI 0.63~0.91)であった。
57,802人・年の追跡調査によるサイクリング時間の変化の分析では、全死亡が計975件記録された。両検査においてサイクリングをしていないと回答した人と比較して、全死亡の多変量調整ハザード比は、サイクリングをしてからやめた人では0.90(95%CI 0.71〜1.14)、最初はサイクリングをしていなかったがサイクリングを始めた人では0.65(95%CI 0.46〜0.92)、両検査においてサイクリングをしていると回答した人では0.65(95%CI 0.53〜0.80)であった。CVD死亡率についても同様の結果が得られた。

結論と関連性:本コホート研究では、サイクリングは、他の種類の身体活動の実践とは無関係に、糖尿病患者の全死因およびCVD死亡リスクの低下と関連していた。
ベースラインから2回目の検査までの間にサイクリングを始めた参加者は、一貫してサイクリングをしない人に比べて、全死因およびCVD死亡のリスクがかなり低かった。

引用文献

Association of Cycling With All-Cause and Cardiovascular Disease Mortality Among Persons With Diabetes: The European Prospective Investigation Into Cancer and Nutrition (EPIC) Study
Mathias Ried-Larsen et al. PMID: 34279548 DOI: 10.1001/jamainternmed.2021.3836
JAMA Intern Med. 2021 Jul 19. doi: 10.1001/jamainternmed.2021.3836. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34279548/

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