2型糖尿病における全死亡率および心筋梗塞への血糖レガシー効果の影響は?
2型糖尿病はインスリン感受性低下あるいはインスリン分泌不全による高血糖を特徴とする疾患です。1型糖尿病では高血糖を早期に是正することで、血管合併症の発症抑制や死亡リスクに対する長期的な利益を得られることが示されており、この現象はレガシー効果と呼ばれています。一方で、2型糖尿病においては、レガシー効果があるとする報告と、効果を得られないとする報告があり一貫した結果が得られていません。特に、2型糖尿病における全死亡率および心筋梗塞における早期かつ長期の血糖コントロール是正による長期的なレガシー効果は充分に解明されていません。
そこで今回は、過去のHbA1c値と全死亡率および心筋梗塞との関係を検討し、早期に血糖降下療法を開始した場合と遅らせた場合の潜在的な影響を検討したUKPDS 88試験の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
のUK Prospective Diabetes Study参加者3,802例において、2型糖尿病の診断から20年間の全死亡および心筋梗塞のリスクが推定されました。HbA1c値の経時的な影響は、全死亡および心筋梗塞リスクの下流への影響に応じて重み付けし解析されました。
HbA1cが1%高い場合の ハザード比(95%信頼区間) | 5年後 | 10年後 | 20年後 |
全死亡 | 1.08 (1.07〜1.09) | 1.18 (1.15〜1.21) | 1.36 (1.30〜1.42) |
心筋梗塞 | 1.13 (1.11〜1.15) | – | 1.31 (1.25〜1.36) |
HbA1cが1%高い場合の全死亡のハザード比は、5年後、10年後、20年後にそれぞれ1.08(95%CI 1.07〜1.09)、1.18(1.15〜1.21)、1.36(1.30〜1.42)であり、心筋梗塞のハザード比は、5年後に1.13(1.11〜1.15)、20年後に1.31(1.25〜1.36)に増加しました。
診断時からHbA1cを1%低下させた場合の ハザード比(95%信頼区間) | 10~15年後 | 診断10年後まで HbA1c低下させた場合 |
全死亡 | 18.8% (21.1~16.0) | 2.7% (3.1~2.3) |
心筋梗塞 | 19.7% (22.4〜16.5) | 6.5% (7.4〜5.3) |
診断時からHbA1cを1%低下させると、10~15年後のACMリスクは18.8%(95%CI 21.1~16.0)減少したが、診断10年後までHbA1c低下を遅らせると、リスクは7割減の2.7%(3.1~2.3)に低下した。また、診断時からHbA1cを低下させた場合のMIリスクの低下は19.7%(22.4〜16.5)、10年後まで低下させた場合は3割低い6.5%(7.4〜5.3)であった。
コメント
早期に血糖コントロールすることで得られるレガシー効果について検証されたUKPDS 88試験の20年間の結果です。有料論文であるため追跡率などの詳細は不明ですが、臨床上、非常に有益な研究です。
試験結果によれば、2型糖尿病の診断後からHbA1cを1%低下させることで、全死亡および心筋梗塞のリスク低下が認められました。さらにHbA1c低下を10年間継続することでさらにリスク低下が認められました。
あくまでも観察研究の結果ですので、残存する交絡因子の影響は考慮しなければなりませんが、診断後に早期かつ長期的(約10年間)な血糖コントロールを行うことで全死亡および心筋梗塞のリスク低下が得られるかもしれません。
✅まとめ✅ 長期的な血糖合併症のリスクを最大限に低減するためには、糖尿病の早期発見と診断時からの徹底した血糖管理が不可欠である。
根拠となった試験の抄録
目的:2型糖尿病の全死亡率(ACM)および心筋梗塞(MI)の血糖レガシー効果は充分に解明されていない。本研究では、過去における個人のHbA1c値との関係を検討し、早期に血糖降下療法を開始した場合と遅らせた場合の潜在的な影響を検討した。
研究デザインと方法:3,802例のUK Prospective Diabetes Study参加者において、2型糖尿病の診断から20年間のACMおよびMIハザード関数を推定した。
HbA1c値の経時的な影響は、ACMおよびMIリスクの下流への影響に応じて重み付けし解析した。
結果:HbA1cが1%単位で高い場合のACMのハザード比は、5年後、10年後、20年後にそれぞれ1.08(95%CI 1.07〜1.09)、1.18(1.15〜1.21)、1.36(1.30〜1.42)であり、MIのハザード比は、5年後に1.13(1.11〜1.15)、20年後に1.31(1.25〜1.36)に増加した。
診断時からHbA1cを1%単位で低下させると、10~15年後のACMリスクは18.8%(95%CI 21.1~16.0)減少したが、診断10年後までHbA1c低下を遅らせると、リスクは7割減の2.7%(3.1~2.3)に低下した。また、診断時からHbA1cを低下させた場合のMIリスクの低下は19.7%(22.4〜16.5)、10年後まで低下させた場合は3割低い6.5%(7.4〜5.3)であった。
結論:2型糖尿病で見られる血糖レガシー効果は、過去のHbA1c値が最近の値よりも臨床転帰に大きな影響を与えることでほぼ説明できる。長期的な血糖合併症のリスクを最大限に低減するためには、糖尿病の早期発見と診断時からの徹底した血糖管理が不可欠である。
引用文献
Historical HbA 1c Values May Explain the Type 2 Diabetes Legacy Effect: UKPDS 88
Marcus Lind et al. PMID: 34244332 DOI: 10.2337/dc20-2439
Diabetes Care. 2021 Jul 7;dc202439. doi: 10.2337/dc20-2439. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34244332/
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