動脈血栓塞栓症ハイリスク患者に対する術後のヘパリンブリッジの効果はどのくらいですか(DB-RCT; PERIOP2試験; BMJ 2021)

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侵襲的手術におけるヘパリンブリッジの要否は?

心房細動または機械式心臓弁を有する患者で、侵襲的手術のためにビタミンK拮抗薬を中断する必要がある場合、手術後に低分子量ヘパリン(LMWH)でブリッジングを行うことが有益であるかどうかについては、不確かさが残っています(PMID: 9154771PMID: 23718166)。この一般的な臨床上の問題を解決するために多くのプロトコルやガイドラインが発表されていますが、これらの患者は、ビタミンK拮抗薬を中止している間、凝固しやすい状態にあるため、血栓性合併症のリスクが高いことが常に懸念されています(PMID: 22315266PMID: 26988871)。

典型的なブリッジング戦略では、ワルファリンを術前4~5日間投与し、術後、同日または1~2日後に再開します(PMID: 26988871PMID: 17697140PMID: 15364803PMID: 15226166)。LMWHは、術前3~5日間と術後最低4日間、国際標準化比(INR)が治療的になるまで、治療量で1日1~2回投与します。 LMWHによるブリッジングの目的は、抗凝固療法を行わない期間を最小限にすることで周術期の血栓塞栓症のリスクを低減するとともに、中断時に抗凝固作用が最小限または全くない短時間作用型の抗凝固剤で出血リスクを低減することです(PMID: 22934291)。ブリッジングについては、心房細動患者を対象としたいくつかの観察研究や単群試験で最もよく研究されています(PMID: 22912386)。最近終了した二重盲検プラセボ対照試験では、ワルファリン投与患者の術前・術後にLMWHによるブリッジングは必要ないことが示唆されています(BRIDGE試験PMID: 26095867)。しかし、このような研究では、機械式心臓弁を使用している患者は通常除外されており、脳卒中のリスクが高い心房細動患者はあまり組み入れられていませんでした。以前、心房細動または機械式心臓弁を有する患者224例にダルテパリンを1日1回投与する単群多施設共同パイロット試験を実施したところ、術後の血栓症発生率は3.1%で、そのうち75%は術後の出血イベントにより抗凝固療法を中止した患者で発生していました(PMID: 26988871)。これらの知見から、術後にブリッジングを行うと、出血のために抗凝固療法を行わない期間が長くなり、血栓症の原因となる可能性があることが示唆されました。

そこで今回は、心房細動または機械式心臓弁を有する患者で、侵襲的手術のためにビタミンK拮抗薬を中断する必要がある患者を対象に、手術後に低分子量ヘパリン(LMWH)でブリッジングを行うことが有益であるかどうかについて検証したPERIOP2試験の結果をご紹介します。

試験結果から明らかになったことは?

手術のためにワルファリンの一時中断を必要とする心房細動または機械式心臓弁を有する18歳以上の患者1,471例が対象となりました。手術後にダルテパリン(n=821:ランダム化直後に1名が同意を撤回)またはプラセボ(n=650)を受ける群にランダム割り付けされました。

90日以内の大規模な血栓塞栓症の発生率は、プラセボが1.2%(8/650例)、ダルテパリンが1.0%(8/820例)でした。
☆リスク差 -0.3%、95%信頼区間 -1.3~0.8、P=0.64

大出血の発生率は、プラセボが2.0%(13/650例)、ダルテパリンが1.3%(11/820例)でした。
☆リスク差 -0.7、95%信頼区間 -2.0~0.7、P=0.32

この結果は、心房細動群と機械式心臓弁群で一貫していました。

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2017年のACCコンセンサス(PMID: 28081965)では、ワルファリン使用者かつ血栓塞栓症の高リスク例*に限り、ヘパリンブリッジの施行が提言されています。しかし、この提言の根拠となった臨床試験では機械式心臓弁を使用している患者が除外されていることが多く、また脳卒中ハイリスク心房細動患者はあまり組み入れられていませんでした。

さて、今回の試験結果によれば、手術のためにワルファリンの一時中断を必要とする心房細動または機械式心臓弁を有する患者において、術後のダルテパリン使用は、プラセボと比較して、90日以内の大規模な血栓塞栓症や大出血の発生率に差は認められませんでした。イベントの発生率が少ないことから、そもそものベースラインリスクがそこまで高くない集団であると考えられます。

事実、患者背景として、CHADS2スコアの平均値は2.4で、スコアが3.0を超えていたのは41.2%でした。これらの結果は、BRIDGE試験における2.3と38.3%よりもわずかに高い値です。 両試験とも高リスクの患者の割合は低いと考えられます。また心房細動のみは79.3%、脳卒中の既往は11.6%、心筋梗塞の既往は16.5%、静脈血栓塞栓症の既往は7.2%です。やはりリスクはそこまで高くない集団であると考えられます。一方で、今回の試験集団は、一般的な患者集団であるとも捉えられます。

ワルファリンで管理されている心房細動または機械式心臓弁を有する患者において、術後のダルテパリンによるブリッジングは重篤な血栓塞栓症の予防に有益ではないといえます。今回の試験は術後のヘパリンブリッジのみを検討していますので、機械式心臓弁を有する患者の手術前ブリッジングの必要性については、さらなる研究が必要であると考えます。続報に期待。

*ワルファリン使用患者で年間10%以上の脳卒中/全身性塞栓症リスク(CHA2DS2-VAScスコア7~9点)を有する、または3ヵ月以内の虚血性脳卒中の既往がある患者、ワルファリンを使用している患者で特に出血リスクがない脳卒中/全身性塞栓症の既往(3ヵ月以上前)がある患者

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✅まとめ✅ 大規模な血栓塞栓症を予防するための術後のダルテパリンブリッジは、プラセボと比較して、有意な利益は認められなかった。

根拠となった試験の抄録

目的:心房細動または機械式心臓弁を有する患者が、予定された手術のためにワルファリンを一時的に中断する際の、ダルテパリンによる術後のブリッジング治療の有効性と安全性を、プラセボと比較検討する。

試験デザイン:前向き、二重盲検、ランダム化対照試験

試験設定:2007年2月~2016年3月にカナダとインドの血栓症研究施設10ヵ所で実施。

試験参加者:手術のためにワーファリンの一時中断を必要とする心房細動または機械式心臓弁を有する18歳以上の患者1,471例

介入:手術後にダルテパリン(n=821:ランダム化直後に1名が同意を撤回)またはプラセボ(n=650)にランダム割り付けした。

主要アウトカム評価:手術後90日以内の国際血栓止血学会基準による重篤な血栓塞栓症(脳卒中、一過性脳虚血発作、近位深部静脈血栓症、肺塞栓症、心筋梗塞、末梢塞栓症、血管死)および大出血

結果:90日以内の大規模な血栓塞栓症の発生率は、プラセボが1.2%(8/650例)、ダルテパリンが1.0%(8/820例)であった(P=0.64、リスク差 -0.3%、95%信頼区間 -1.3~0.8)。大出血の発生率は、プラセボが2.0%(13/650例)、ダルテパリンが1.3%(11/820例)であった(P=0.32、リスク差 -0.7、95%信頼区間 -2.0~0.7)。この結果は、心房細動群と機械式心臓弁群で一貫していた。

結論:手術のためにワルファリンを中断した心房細動または機械式心臓弁を有する患者において、大規模な血栓塞栓症を予防するための術後のダルテパリンブリッジには有意な利益は認められなかった。

試験の登録 Clinicaltrials.gov NCT00432796。

引用文献

Postoperative low molecular weight heparin bridging treatment for patients at high risk of arterial thromboembolism (PERIOP2): double blind randomised controlled trial
Michael J Kovacs et al. PMID: 34108229 DOI: 10.1136/bmj.n1205
BMJ. 2021 Jun 9;373:n1205. doi: 10.1136/bmj.n1205.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34108229/

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