メトトレキサートはファイザー・バイオンテック社製BNT162b2 mRNA COVID-19ワクチンの免疫原性を阻害する(後向きコホート研究; Ann Rheum Dis. 2021)

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mRNA COVID-19ワクチン接種の前には、メトトレキサートによる治療を中止した方が良い?

免疫介在性炎症疾患(IMID)患者は、もともと感染しやすい体質であるため、コロナウイルス2019(COVID-19)の発症リスクが高いと考えられます。

メトトレキサートなどの通常の疾患修飾性抗リウマチ薬(cDMARDs)や腫瘍壊死因子阻害薬(TNFis)などの生物学的抗リウマチ薬(bDMARDs)を服用しているIMID患者では、ウイルスワクチン(インフルエンザやB型肝炎など)に対する反応の強さやその長期的な防御効果は、予防接種後の一般集団ほど強固ではない可能性があります。

mRNA COVID-19ワクチンの安全性、免疫原性、有効性に関するデータは、免疫力のある成人集団で示されていますが、90%以上の被験者が十分な体液反応を得ています(PMID: 33301246, C4591001試験)。 しかし、IMID患者がこれらのワクチンに適切に反応する能力や、SARS-CoV-2ワクチン接種に対する体液性および細胞性免疫反応の違いは明らかにされていません。

季節性インフルエンザワクチンの免疫原性に関する研究結果から(PMID: 28468794PMID: 29572291)、特定のcsDMARDs(メトトレキサート)で慢性的治療を受けているIMID患者は、抗サイトカイン治療を受けているIMID患者や非IMID患者と比較して、mRNA COVID-19ワクチンに対する反応が減弱する可能性が考えられます。

そこで今回は、アメリカ・ニューヨーク及びドイツ・エルランゲンでそれぞれ実施されたコホート(SAGA及びRheumatic Patients with COVID-19)に参加したIMID患者(n=82)から、接種前と接種後の末梢血単球細胞(PBMC)と血清を採取し、SARS-CoV-2スパイク特異的抗体価を非IMID対照者(n=208)と比較分析した研究結果をご紹介します。

試験結果から明らかになったことは?

体液性免疫反応率

コホートアメリカ・ニューヨークドイツ・エルランゲン合計
体液性免疫反応率
(高抗体価)
体液性免疫反応率
(高抗体価)
体液性免疫反応率
(高抗体価)
健常対照者
(非IMID対照者)
96.1%(25/26例)98.3%(179/182例)98.1%(204/208例)
非MTX・IMID患者92.3%(24/26例)90.9%(10/11例)91.9%(34/37例)
MTX使用・IMID患者72.0%(18/25例)50.0%(10/20例)62.2%(28/45例)

ニューヨーク市コホートの結果から、健康な参加者26例のうち25例(96.1%)が充分な体液性免疫反応を示しました。非メトトレキサートIMID患者では、同様の割合で高い抗体価が得られましたが(24/26例、92.3%)、メトトレキサートを使用している患者では、充分な体液性反応が得られる割合が低く(18/25例、72.0%)、この結果は、COVID-19の既往感染の証拠がある患者を除外しても同様でした(p=0.045)。

力価の中央値は、健常者、非メトトレキサートIMID患者、メトトレキサート使用IMID患者で、それぞれ104,354(範囲 141~601,185)、113,608(25~737,310)、46,901(25~694,528)でした。

同様に、エルランゲンの検証コホートでは、182例の健常対照者のうち179例(98.3%)、非メトトレキサートIMID患者11人のうち10人(90.9%)、メトトレキサートを投与している20人のうち10人(50.0%)が充分な免疫原性を達成しました。このコホートの光学濃度OD(充分な反応はOD 5.7nm以上と定義)の中央値は、健常者、非メトトレキサートIMID患者、メトトレキサート使用IMID患者で、それぞれ9.4(範囲 1.2〜14)、7.8(2.3〜11.3)、5.9(0.95〜13.5)でした。

さらに、2つのコホート(n=290)を合わせてみると、健常対照者208例のうち204例(98.1%)、非メトトレキサートIMID患者37例のうち34例(91.9%)、メトトレキサート使用IMID患者45例のうち28例(62.2%)が充分な免疫原性を達成していました(p<0.001)。

年齢(カットオフ55歳)で層別解析、さらに感度分析を行っても結果は同様でした。

mRNA COVID-19ワクチン接種後のCD8+T細胞の活性化

ニューヨーク市のコホートでは、健常対照者20例、非メトトレキサートIMID患者24例、メトトレキサート使用IMID患者18例が、ワクチン接種の前後に免疫細胞の表現型検査を受けました。

スパイク特異的B細胞、循環T濾胞ヘルパー(cTfh;CD4+ ICOS+ CD38+サブセット)細胞、活性化CD4+ T細胞、HLA-DR+ CD8+ T細胞の割合は、免疫後にすべてのグループで有意に増加しました。

Ki67およびCD38を発現しているCD8+T細胞と定義される活性化CD8+T細胞、およびこれらの活性化CD8+T細胞のうちグランザイムB産生(GZMB)サブセットは、健常成人および非メトトレキサートIMID患者で誘導されましたが、メトトレキサート使用IMID患者では誘導されませんでした。

コメント

これまでの報告から、メトトレキサートがワクチンの効果を減少させることが明らかになっています。新型コロナウイルス感染症に対するmRNA COVID-19ワクチンについても同様の結果になることが懸念されています。

今回の試験結果によれば、やはりメトトレキサート使用者では、健常者あるいは非メトトレキサート使用中の免疫介在性炎症疾患患者と比較して、充分な体液性反応が得られる割合が低いことが明らかとなりました。では、メトトレキサート使用者はどのようにすればワクチンの効果をより得られるのでしょうか。

リウマチ膠原病患者におけるCOVID-19ワクチン接種の諸問題や注意点について、2021年4月28日米国リウマチ学会(American College of Rheumatology, ACR)からガイダンス(第二版)が発出されています。これによれば、投薬の調整が推奨されているのはメトトレキサート 、JAK阻害薬、アバタセプト、リツキシマブ、シクロホスファミド、ミコフェノール酸モフェチル、アセトアミノフェン、非ステロイド性消炎鎮痛薬です。

特にメトトレキサートについては、COVID-19ワクチンの効果を減少させる可能性があることから、以下のような推奨がなされています。

■メトトレキサート(リウマトレックス):2回接種のmRNAワクチン(ファイザー・バイオンテック社製、モデルナ社製)接種後各1週間は内服しない(スキップ)
病勢が安定している患者には、COVID-19ワクチンの各接種後1週間はメトトレキサートの投与を控えることを推奨。もしも、病勢が充分にコントロールされていない場合には、MTXを一旦中止することで再燃しやすくなる可能性を考慮し、一旦中止しないことを医師から提案される可能性がある。

■メトトレキサート(リウマトレックス):1回接種ワクチン(ジョンソン・アンド・ジョンソンなど)の接種後2週間は内服しない(スキップ)。

COVID-19ワクチンの接種タイミングにより、メトトレキサート投与をスキップすることが可能であれば、スキップした方が、よりワクチンの効果を得られるかもしれません。

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✅まとめ✅ メトトレキサートは、COVID-19 mRNAワクチンに対する体液性および細胞性免疫応答に悪影響を及ぼした

根拠となった試験の抄録

目的:免疫調節療法を受けている免疫介在性炎症疾患(IMID)患者において、メッセンジャーRNA(mRNA)COVID-19ワクチンに対する体液性および細胞性免疫反応を検証する。

方法:BNT162b2 mRNAワクチンの接種を受けたニューヨーク大学ランゴーン・ヘルスの確立されたIMID患者(n=51)について、健常者(n=26)を対照とし、ベースラインおよび2回目の接種後に評価した。スパイクタンパク質に対するIgG抗体反応を体液性反応として分析した。さらに、SARS-CoV-2に対する細胞性免疫反応を、高パラメータのスペクトルフローサイトメトリーを用いて解析した。また、ドイツ・エアランゲン市の対照群(n=182)とIMID患者(n=31)からなる2つ目の独立した検証コホートについても、体液性免疫反応の分析を行った。

結果:健常者(n=208)および生物学的製剤治療を受けているIMID患者(主にTNF阻害薬を使用n=37)は、90%以上の強固な抗体反応を示したが、メトトレキサート使用中のIMID患者(n=45)は、62.2%の症例でしか十分な反応を得られなかった。同様に、メトトレキサートを使用しているIMID患者は、ワクチン接種後にCD8+T細胞の活性化の増加を示さない。

結論:IMID患者の2つの独立したコホートにおいて、いくつかのIMIDの治療に広く使用されている免疫調整薬であるメトトレキサートは、COVID-19 mRNAワクチンに対する体液性および細胞性免疫応答に悪影響を及ぼした。ワクチン効果と相関する免疫原性の正確なカットオフ値はまだ確立されていないが、今回の知見は、他のウイルスワクチンに対する免疫原性の増強で実証されているように、SARS-CoV-2に対する免疫効果の可能性を高めるためには、メトトレキサートを服用しているIMID患者に対して、異なる戦略を検討する必要があることを示唆している。

キーワード:Covid-19; 関節炎; メトトレキサート; 乾癬性; リウマチ; ワクチン接種

引用文献

Methotrexate hampers immunogenicity to BNT162b2 mRNA COVID-19 vaccine in immune-mediated inflammatory disease

Rebecca H Haberman et al. PMID: 34035003 DOI: 10.1136/annrheumdis-2021-220597

Ann Rheum Dis. 2021 May 25;annrheumdis-2021-220597. doi: 10.1136/annrheumdis-2021-220597. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34035003/

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