高血圧患者におけるβ遮断薬は脂溶性の方が良いかもしれない(SR&NWM; J Am Soc Hypertens. 2017)

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各アウトカムに対するβ遮断薬の有効性は?

β遮断薬は、高血圧症の治療に数十年にわたって使用されてきました。その理由は、降圧効果と全死亡および心血管死亡に対する長期的な有益性にあります。

しかし、最近の研究では、β遮断薬は他の降圧剤と比較して、脳卒中の発症率および主要な心血管疾患の複合的なアウトカム(脳卒中、心筋梗塞、死亡を含む)を減少させる効果が低いことが明らかになりました(PMID: 16257341PMID: 16754904)。

メタ解析では、遮断薬は心血管疾患を適度に減少させるが、死亡率に対しては有意な効果がないことが示されています。この研究では、高血圧治療と心血管転帰において、心臓選択性遮断薬と非選択性遮断薬の間に差がないことが明らかとなりました(PMID: 28107561)。他のメタ解析の結果では、水溶性β遮断薬であるアテノロールが高齢者の脳卒中のリスクを増加させるのに対し、脂溶性のβ遮断薬であるメトプロロールやプロプラノロール(脂溶性の度合い:中程度〜強度)は高齢者の脳卒中のリスクを増加させないことが示されました(PMID: 24750981)。さらに、脂溶性の高い薬剤は、脳や細胞膜を透過しやすく、脳卒中や心筋梗塞の予防につながる可能性があることから、水溶性の高いβ遮断薬と比較して、脂溶性が中等度以上のβ遮断薬の方が、臨床結果に大きな影響を与える可能性があると考えられます。しかし、脂溶性と水溶性のβ遮断薬が高血圧患者の臨床転帰に与える影響を直接比較した臨床研究やメタ分析はありません。

そこで今回は、高血圧患者の全死亡率、冠動脈疾患、脳卒中、心原性死亡率などの臨床転帰に対する脂溶性β遮断薬(メトプロロール、プロプラノロール、oxprenolol)と水溶性β遮断薬(アテノロール)の有効性を比較したネットワークメタ解析の結果をご紹介します。

試験結果から明らかになったことは?

脂溶性β遮断薬(メトプロロール、プロプラノロール、oxprenolol)と水溶性β遮断薬(アテノロール)を中心に、試験13件、参加者90,935例が対象となりました。すべての試験において、バイアスのリスクは低く、リスク差の分析では、有意な異質性は認められませんでした。

その結果、脂溶性β遮断薬は水溶性β遮断薬と比較して、心血管死亡率を有意に低下させ(オッズ比(OR)0.72、95%信頼区間(CI)0.54〜0.97)、全死亡率(OR)0.86、95%CI 0.72〜1.03、冠動脈疾患(OR)0.88、95%CI 0.64〜1.23)を低下させる傾向を示しました。

総死亡
(試験13件)
脳卒中
(11件)
冠動脈疾患
(11件)
心血管死
(10件)
水溶性β遮断薬Ref.Ref.Ref.Ref.
脂溶性β遮断薬オッズ比 0.86
(95%CI 0.72〜1.03)
1.01
(0.70〜1.47)
0.88
(0.64〜1.23)
0.72
0.54〜0.97
プラセボ0.93
(0.80〜1.09)
1.26
(0.89〜1.77)
1.04
(0.75〜1.44)
0.89
(0.69〜1.15)
利尿薬0.88
(0.76〜1.03)
0.69
(0.48〜1.00)
0.89
(0.64〜1.25)
0.78
(0.60〜1.01)
ACE阻害薬/ARB0.89
(0.79〜1.02)
0.86
(0.64〜1.18)
1.17
(0.87〜1.56)
0.92
(0.73〜1.17)
Ca拮抗薬0.93
(0.87〜1.00)
0.79
(0.61〜1.01)
0.79
(0.61〜1.01)
0.88
(0.74〜1.04)

脳卒中のリスクを年齢層別に評価したところ、65歳未満の患者では水溶性β遮断薬に比べて脂溶性β遮断薬が脳卒中のリスクを有意に減少させました(OR 0.63、95%CI 0.41〜0.99)。

コメント

積極的適応がない場合、高血圧治療の第一選択薬として、Ca拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、利尿薬があげられています(高血圧治療ガイドライン2019)。

β遮断薬は、単剤あるいは併用療法において糖尿病惹起作用(血糖上昇)、特に高齢患者において臓器障害・脳心血管病抑制効果で他薬に劣るエビデンスが示されていることから、同ガイドラインの2014年改定時に第一選択薬から外されています。これは、同ガイドラインのCQ6. 積極的適応がない高血圧に対して、β遮断薬であるカルベジロールやビソプロロールは第一選択薬として推奨できるか?で根拠情報とともに理由が示されています(推奨内容:積極的適応がない高血圧に対して、β遮断薬であるカルベジロール やビソプロロールは第一選択薬として積極的には推奨しない)。

しかし、超高齢化社会が進むにつれて、労作性狭心症や心筋梗塞後、頻脈合併例、甲状腺機能亢進症などを含む高心拍出型症例、高レニン性高血圧、大動脈解離などの罹患率が増加しており、これらの疾患が積極的適応となるβ遮断薬は、実臨床で多くの使用実績があります。

β遮断薬は、内因性交感神経刺激(intrinsic sympathetic activity: ISA)や受容体への選択性(β1選択性、αβ、非選択性)の他、水溶性・脂溶性で分類することができます。これまでISAや受容体への選択性については検討されてきましたが、水溶性・脂溶性についての検証は充分に行われていません。

さて、本試験結果によれば、脂溶性β遮断薬(メトプロロール、プロプラノロール、oxprenolol)は水溶性β遮断薬(アテノロール)と比較して、成人の心血管死や高齢者の脳卒中のリスクを低減できる可能性が示されました。ただし脂溶性β遮断薬は3種類の薬剤をまとめて評価しているため、どの薬剤が大きく寄与しているのかは不明です。また脂溶性β遮断薬と水溶性β遮断薬との比較は関節比較であり、心血管死以外のアウトカムについては、薬剤間で大きな違いは認められていません。さらに日本での使用実績の多い脂溶性β遮断薬であるカルベジロールやビソプロロールが含まれていません。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 脂溶性β遮断薬(メトプロロール、プロプラノロール、oxprenolol)は水溶性β遮断薬(アテノロール)と比較して、成人の心血管死や高齢者の脳卒中のリスクを低減できるかもしれない

根拠となった試験の抄録

背景:脂溶性β遮断薬と水溶性β遮断薬の臨床転帰に対する有効性の違いについては検討されていない。我々は、脂溶性β遮断薬と水溶性β遮断薬の死亡率と心血管アウトカムに対する効果を比較するため、包括的なシステマティックレビューとネットワークメタアナリシスを実施した。

方法:MEDLINE/PubMed、EMBASE、Cochrane Databaseを用いて、2015年1月5日までのすべての日付で、すべてのβ遮断薬間、またはβ遮断薬と他の降圧薬間で比較したランダム化試験を検索した。死亡率と心血管アウトカムも報告された。各試験の特徴と関連する臨床転帰を抽出し、全死亡、冠動脈疾患、脳卒中、心血管死亡などを調べた。

結果:脂溶性β遮断薬(メトプロロール、プロプラノロール、oxprenolol)と水溶性β遮断薬(アテノロール)を中心に、13試験、90,935例が対象となった。
その結果、脂溶性β遮断薬は水溶性β遮断薬と比較して、心血管死亡率を有意に低下させ(オッズ比(OR)0.72、95%信頼区間(CI)0.54〜0.97)、全死亡率(OR)0.86、95%CI 0.72〜1.03、冠動脈疾患(OR)0.88、95%CI 0.64〜1.23)を低下させる傾向を示した。
脳卒中のリスクを年齢層別に評価したところ、65歳未満の患者では水溶性β遮断薬に比べて脂溶性β遮断薬が脳卒中のリスクを有意に減少させた(OR 0.63、95%CI 0.41〜0.99)。

引用文献

Comparative efficacy of β-blockers on mortality and cardiovascular outcomes in patients with hypertension: a systematic review and network meta-analysis
Yuqing Zhang et al. PMID: 28760243 DOI: 10.1016/j.jash.2017.05.001
J Am Soc Hypertens. 2017 Jul;11(7):394-401. doi: 10.1016/j.jash.2017.05.001. Epub 2017 May 18.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28760243/

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