経口抗凝固薬の出血により治療中止した後に抗凝固薬を再開した方が良いのか?
経口抗凝固薬(OAC)は、動脈および静脈の血栓症の予防および治療に使用されています。 OACに伴う出血は、救急外来受診、入院、死亡につながる最も一般的な有害事象です。
OAC出血後に治療を中止し、出血が治った後にOAC投与を控えると、患者は血栓症リスクが高まり、死に至る可能性もあります。出血後にOACを再開すべきかどうか、再開する場合の最適な戦略を決定することは、臨床上の難しい問題であると考えられます。OAC治療は、治療再開の有益性を示唆するエビデンスがあるにもかかわらず、消化管(GI)または頭蓋内出血後の患者において、かなりの割合で永久的にOAC治療が中止されています(それぞれ50%と64%)。
現在、心房細動(AF)患者の脳卒中予防および静脈血栓塞栓症(VTE)の治療には、充分なエビデンスに基づき、直接作用型OAC(DOAC)が推奨されています。 しかし、出血後のOAC再開については、主にワルファリン治療を受けた患者を対象とした小規模な研究でのみ評価されており、頭蓋外の非GI出血については報告されていません。
そこで今回、OAC治療を中止した場合と再開した場合の血栓症、出血、死亡リスクについて検証した研究結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
消化管出血(n=4,297、63.3%)、頭蓋内出血(n=805、11.9%)、その他の出血(n=1,691、25.0%)の患者6,793例が対象となり、患者 3,874例(57.0%)にワルファリンが処方され、2,919例(43.0%)にDOACが処方されました。
経口抗凝固薬が再開されたのは4,792例(70.5%)で、指標となる出血から365日以内でした。再開までの期間の中央値は46(四分位範囲 6~550)日であり、OAC再開は、血栓症の発生率と死亡率の低下と、再出血の発生率の上昇と関連していることが明らかとなりました。
調整後ハザード比(95%CI) | |
血栓症の再発 | 0.60(0.50~0.72) |
死亡率 | 0.54(0.48~0.60) |
再出血の発生率 | 1.88(1.64~2.17) |
OAC治療により凝固が抑制されることから出血の発生率増加は致し方なく、血栓症及び死亡リスクを低下させる益が認められていることを鑑みると、OAC治療は再開した方が良いように考えます。
あくまでも仮説生成的な結果であることから、更なるエビデンスの集積が待たれます。
✅まとめ✅ 経口凝固薬の再開は、血栓症と死亡率の減少と関連するが、出血の増加と関連することが示された。
根拠となった論文の抄録
背景:出血後の経口抗凝固薬(OAC)の再開に関するデータは、主にワルファリンを投与された患者を対象とした研究から得られたものであり、直接OAC(DOAC)に関するデータはほとんどない。我々の目的は、OAC関連出血後のOAC処方パターンを明らかにし、いずれかのタイプのOACを再開した患者とそうでない患者の出血、血栓症、死亡率を比較することである。
方法:2012年4月1日から2017年3月31日までに、OAC投与中に出血で入院した66歳以上の成人を対象に、オンタリオ州のリンクされた行政保健データベースを用いて、集団ベースのコホート研究を行った。
競合リスク法を用いて、OAC再開を時間依存(時変)共変量として調整した血栓症、出血、死亡の原因別調整ハザード比(HR)を算出した。OAC再開までの期間はKaplan-Meier法を用いて決定した。
結果:消化管出血(n=4,297、63.3%)、頭蓋内出血(n=805、11.9%)、その他の出血(n=1,691、25.0%)の患者6,793例を対象とした。
コホート参加時には、患者 3,874例(57.0%)にワルファリンが処方され、2,919例(43.0%)にDOACが処方された。OACの最も多い適応症は心房細動(n=5,557、81.8%)で、次いで静脈血栓塞栓症(n=1,367、20.1%)であった。経口抗凝固薬が再開されたのは4,792例(70.5%)で、指標となる出血から365日以内であった。再開までの期間の中央値は46(四分位範囲 6~550)日であった。OAC再開は、血栓症の発生率(調整後HR 0.60、95%信頼区間[CI]0.50~0.72)と死亡率(調整後HR 0.54、95%CI 0.48~0.60)の低下と、再出血の発生率(調整後HR 1.88、95%CI 1.64~2.17)の上昇と関連していたことがわかった。
解釈:OAC再開は、血栓症と死亡率の減少と関連するが、出血の増加と関連することがわかった。出血イベント後にOACを再開する戦略の純利益を評価するランダム化比較試験が望まれる。
引用文献
Rates of rebleeding, thrombosis and mortality associated with resumption of anticoagulant therapy after anticoagulant-related bleeding
Derek H W Little et al. PMID: 33649169 DOI: 10.1503/cmaj.201433
CMAJ. 2021 Mar 1;193(9):E304-E309. doi: 10.1503/cmaj.201433.
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