ドンペリドン及びメトクロプラミドは妊婦に安全に使用できるのか?
ドンペリドンとメトクロプラミドは、制吐剤として一般的に使用されています。大規模な疫学研究により、メトクロプラミドは奇形リスクを増加させないことが示されています(NEJM 2009、JAMA 2013)。一方、ドンペリドンの催奇形リスクについては、少数の小規模なコホート研究でしか報告されていません。
JS Choらによる報告では、妊娠初期にドンペリドンが投与された妊婦120例を調査し、ドンペリドンがヒトの主要な催奇形性因子である可能性は低いと結論づけています(J Obstet Gynaecol. 2013)。また、J Cottinらは、有機体形成期にドンペリドンを投与された妊婦124例と、他の制吐剤や催奇形性のない薬剤を投与された妊娠とを比較した抄録を発表しています。重大な先天性奇形の発生率には3群間で有意な差はありませんでしたが、著者らはサンプルサイズが小さいことが制限になるとコメントしています。この調査では、ドンペリドンの催奇形性リスクは分析されていませんが、一部の国では妊婦に広く使用されていることが示唆されています。
そこで今回は、日本の2施設における妊婦へのドンペリドン、メトクロプラミドの安全性を検証した研究をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
1988年4月から2017年12月の間に、妊娠中の薬物使用に関するカウンセリングを行っている日本の2施設の女性に関する妊娠経過データが用いられました。
重大な奇形の発生率は、ドンペリドン群で2.9%(14/485例、95%信頼区間[CI] 1.6〜4.8)、対照群で1.7%(27/1,554例、95%CI 1.1〜2.5)、メトクロプラミド群で3.6%(8/224例、95%CI 1.6〜6.9)でした。調整後の多変量ロジスティック回帰分析では、対照群とドンペリドン群(調整後OR 1.86[95%CI 0.73〜4.70]、p=0.191)、対照群とメトクロプラミド群(調整後OR 2.20[95%CI 0.69〜6.98]、p=0.183)の間に発生率の有意な差は認められませんでした。
重大な奇形の発生率(例数) | 調整後オッズ比(95%CI) | |
ドンペリドン群 | 2.9%(14/485例) | 1.86(0.73〜4.70)、p=0.191 |
メトクロプラミド群 | 3.6%(8/224例) | 2.20(0.69〜6.98)、p=0.183 |
対象群(非催奇形成薬剤の使用) | 1.7%(27/1,554例) | – |
妊婦におけるドンペリドンあるいはメトクロプラミドの使用は、対象群と比較して、重大な奇形の発生率に差は認められませんでした。発生率の調整後オッズ比は1を跨いでいますので、統計学的にはリスク増加を示していません。しかし、リスクの程度は僅かかもしれませんが、ややリスク増加の傾向がみられます。薬剤を使用しなくても済めば使用しない方が良いのかもしれません。
ただし、そもそも妊婦における流産や奇形などのバックグラウンド(自然発生)リスクは約10%であることが報告されていますので、ことさら薬剤使用によるリスクばかりに目を向けるのは避けた方が良いと考えられます。
少なくとも現時点においては、妊婦(あるいは妊娠している可能性のある女性)に対してドンペリドンあるいはメトクロプラミドの使用を制限するほどの根拠はなさそうです。
✅まとめ✅ 妊娠初期のドンペリドン曝露は、乳児の大奇形のリスク増加と関連しないことが示された
根拠となった論文の抄録
目的:ドンペリドンによる主要奇形の発生率を対照と比較することで、ドンペリドンの催奇形リスクを評価する。
方法:1988年4月から2017年12月の間に、妊娠中の薬物使用に関するカウンセリングを行っている日本の2施設の女性について、妊娠経過データを入手した。
妊娠第1期にドンペリドン(n=519)、非催奇形性薬物(対照群、n=1,673)、またはメトクロプラミド(参照群、n=241)を服用した女性から生まれた乳児の重大な奇形発生率を算出した。
対照群を基準とし、ドンペリドン群とメトクロプラミド群の重大な奇形発生率の粗オッズ比(OR)を単変量ロジスティック回帰分析で算出した。また、他の様々な要因で調整した多変量ロジスティック回帰分析を用いて、調整後のORを算出した。
結果:重大な奇形の発生率は、ドンペリドン群で2.9%(14/485例、95%信頼区間[CI] 1.6〜4.8)、対照群で1.7%(27/1,554例、95%CI 1.1〜2.5)、メトクロプラミド群で3.6%(8/224例、95%CI 1.6〜6.9)であった。
調整後の多変量ロジスティック回帰分析では、対照群とドンペリドン群(調整後OR 1.86[95%CI 0.73〜4.70]、p=0.191)、対照群とメトクロプラミド群(調整後OR 2.20[95%CI 0.69〜6.98]、p=0.183)の間に発生率の有意な差は認められなかった。
結論:本観察コホート研究では、妊娠初期のドンペリドン曝露は、乳児の大奇形のリスク増加と関連しないことが示された。この結果は、妊娠中にドンペリドンを服用した患者の不安を解消するのに役立つと思われる。
引用文献
Pregnancy outcome after first trimester exposure to domperidone-An observational cohort study – PubMed
Kayoko Hishinuma et al. PMID: 33631840 DOI: 10.1111/jog.14709
J Obstet Gynaecol Res. 2021 Feb 25. doi: 10.1111/jog.14709. Online ahead of print.
—続きを読む pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33631840/
関連記事
【第一期妊娠期間におけるH1抗ヒスタミン薬の使用は有害事象リスクとなりますか?】
【妊婦によるフェキソフェナジンの使用は胎児にどのような影響を与えますか?】
【妊婦へのデスロラタジン使用による胎児への副作用リスクはどのくらいですか?】
コメント