せん妄コントロールに対するスボレキサントの効果の大きさはどのくらいか?
せん妄は、注意、思考、意識、知覚、行動、方向性、記憶などの急性発症の変動性障害を特徴とする神経精神症候群である。せん妄は、様々な外科的処置を受け、急性期の治療を必要とし、集中治療室(ICU)に入院している患者が頻繁に遭遇する合併症であり、その発生率は5%から39%であることが報告されています。せん妄は、機能的転帰の低下、再入院、ICUや入院期間の延長、生活の質の低下、死亡率の上昇と関連しており、家族や社会に多大な経済的負担を強いる可能性があります。 したがって、せん妄の発症を予防する薬剤を探索することは臨床的に重要です。
新規のオレキシン受容体拮抗薬であるスボレキサントは、日本と米国で不眠症の治療薬として正式に承認されています。 治療前の睡眠障害は、治療後のせん妄に関連する危険因子の1つであることが多くのエビデンスで示されています[オッズ比(OR)=5.24、95%信頼区間(CI)=3.61〜7.60、P<0.001]。
理論的には、スボレキサントの前投薬は、睡眠を誘発することによってせん妄の発生を予防するのに有効である可能性があるものの、効果がないとする報告もあり、一貫した結果は示されていません。
そこで今回は、せん妄発症のリスクがあるすべての患者に対して、せん妄およびその関連するアウトカムを予防するためのスボレキサントの有効性を検証したメタ解析の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
今回のメタ解析では、スボレキサント治療を受けた患者 402例と対照治療を受けた患者 487例からなる研究 7件が対象となりました。
全体として、スボレキサント治療を受けた患者では、対照群と比較して、せん妄の発生率が有意に低下し(OR 0.30; P<0.001)、せん妄発生までの時間が有意に延長しました(SMD 0.44; P=0.006)。
スボレキサントは、副次的なアウトカム[入院期間(SMD -0.65; P=0.161)およびICU滞在期間(SMD 0.34; P=0.297)、人工呼吸時間(SMD 1.09; P=0.318)、薬物関連有害事象(OR 1.66; P=0.319)、死亡率(OR 2.21; P=0.261)]に対して有益な効果は認められませんでした。また、サブグループ解析では、せん妄の発生に対するスボレキサントの有益性が確認され、いずれのサブグループでも有意でした。
コメント
日本で実施された臨床試験の結果、ラメルテオン及びスボレキサントが せん妄予防効果に優れている可能性が示されました。しかし、いずれも小規模かつ試験を実施した施設数が少ないことから、追試が必要であると考えられます。
さて、本試験結果によれば、スボレキサント治療を受けた患者では、対照群と比較して、せん妄の発生率が有意に低下し、せん妄発生までの時間が有意に延長しました。比較対象薬は、様々であり、どの薬剤よりも優れているのかについては、明らかとなっていません。
2件以上の研究で報告された臨床アウトカムについて、Eggerテストによる出版バイアス分析を行った。その結果、せん妄の発生率(P=0.172)とICU滞在時間(P=0.855)については、出版バイアスの証拠は見られませんでした。また、感度分析でも、結果の堅牢性が示されていますので、結果の報告性や効果の大きさについてはある程度、信頼できると考えられます。
ただし、組み入れられた研究は7件ですので、症例数ともに充分とはいえません。続報に期待。
✅まとめ✅ せん妄の予防には、スボレキサントを使用した方が良いのかもしれない
根拠となった試験の抄録
背景:せん妄は頻繁に遭遇する合併症であり、死亡率の上昇に関連している。不眠症の治療薬として承認されているスボレキサントは、最近、せん妄の予防にも有効であるとの意見がある。しかし、未だにコンセンサスは得られていない。
本研究の目的は、メタアナリシスを行い、せん妄とそれに関連した結果を予防する上でのスボレキサントの有効性を総合的に推定することである。
方法は:PubMed、EMBASE、Cochrane Libraryのオンラインデータベースを検索し、適格な研究を特定した。
二値のアウトカム(せん妄の発生率、死亡率、有害事象の発生率など)についてはプールされたORを算出し、連続的なアウトカム(せん妄発症までの時間、病院やICUでの滞在期間、人工呼吸の時間など)については標準化された平均差(SMD)を表した。
結果:今回のメタアナリシスでは、スボレキサント治療を受けた患者 402例と対照治療を受けた患者 487例からなる研究 7件が対象となった。全体として、スボレキサント治療を受けた患者では、対照群と比較して、せん妄の発生率が有意に低下し(OR 0.30; P<0.001)、せん妄発生までの時間が有意に延長した(SMD 0.44; P=0.006)。
スボレキサントは、副次的なアウトカム[入院期間(SMD -0.65; P=0.161)およびICU滞在期間(SMD 0.34; P=0.297)、人工呼吸時間(SMD 1.09; P=0.318)、薬物関連有害事象(OR 1.66; P=0.319)、死亡率(OR 2.21; P=0.261)]に対して有益な効果はなかった。また、サブグループ解析では、せん妄の発生に対するスボレキサントの有益性が確認され、いずれのサブグループでも有意であった。
結論:臨床におけるせん妄の予防には、スボレキサントを推奨すべきである。
引用文献
Suvorexant for the prevention of delirium: A meta-analysis
Shu Xu et al. PMID: 32791676 PMCID: PMC7386982 DOI: 10.1097/MD.0000000000021043
Medicine (Baltimore). 2020 Jul 24;99(30):e21043. doi: 10.1097/MD.0000000000021043.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32791676/
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