がん患者における せん妄のコントロールをどのように行うのか?
2013年に行われたシステマティックレビューでは、人生の最後の日を迎える患者の約90%にせん妄が認められました(PMID: 22988044)。また緩和ケアへの入院時では約35%にせん妄を有していることが報告されています(PMID: 31184538)。
せん妄患者の約50~70%は、落ち着きのなさ、焦燥感、または攻撃的な暴力行動を特徴とする多動型または混合型のサブタイプです。焦燥感は、患者、介護者、医療従事者に大きな苦痛を与え、関係者に大きな安全リスクをもたらします。
せん妄に対する治療としては、神経弛緩薬とベンゾジアゼピンが主な薬理学的選択肢です。しかし、せん妄の転帰に対するベンゾジアゼピンとプラセボの効果を比較したランダム化試験はないため、せん妄患者へのベンゾジアゼピンの使用についてはしばしば議論されています。
National Comprehensive Cancer Networkの臨床診療ガイドラインでは、ハロペリドールで充分な効果が得られなかった患者にベンゾジアゼピン系薬剤の試験を行うことが推奨されています(NCCN Guidelines)。しかし、小規模なランダム化臨床試験において、ロラゼパムがハロペリドールやクロルプロマジンよりも劣り、過剰な副作用の原因となったことから、せん妄の管理にベンゾジアゼピン系薬剤を使用することは避けるべきだと考える臨床家もいます。
そこで今回は、進行がん患者のせん妄に対するハロペリドールの補助療法としてのロラゼパムとプラセボの効果を比較した二重盲検ランダム化比較試験の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
ランダム化された90例の患者(平均年齢62歳、女性42名[47%])のうち、58例(64%)が試験薬の投与を受け、52例(90%)が試験を完了しました。
ロラゼパム+ハロペリドールは、プラセボ+ハロペリドール(-2.3点)に比べて、8時間後のRASSスコアを有意に低下させました(-4.1点)(平均差 -1.9点[95%CI -2.8 ~ -0.9]、P<0.001)。
ロラゼパム+ハロペリドール群は、プラセボ+ハロペリドール群(4.0 mg)に比べて救援神経弛緩薬の中央値(2.0 mg)の必要量が少なく(中央値の差 -1.0 mg [95%CI -2.0 〜 0]; P=0.009)、盲検化された介護者と看護師の両方がより快適であると認識しました。
介護者:ロラゼパム+ハロペリドール群 84% vs. プラセボ+ハロペリドール群 37%、平均差47%(95%CI 14%~73%)、P = 0.007
看護師:ロラゼパム+ハロペリドール群 77% vs. プラセボ+ハロペリドール群 30%、平均差47%(95%CI 17%~71%)、P=0.005
せん妄関連の苦痛と生存率には、グループ間で有意な差は認められませんでした。
最も多くみられた副作用は、運動機能低下でした(ロラゼパム+ハロペリドール群で3名[19%]、プラセボ+ハロペリドール群で4名[27%])。
コメント
がん患者を含めて、ICU入所者においては、一般の入院患者あるいは非がん患者と比較して、せん妄リスクの高さが報告されています。これまでに検討された試験において、せん妄に対するハロペリドールの効果は不充分であることが示されています。対象患者によりますが、ハロペリドールとベンゾジアゼピン系薬剤を併用することで、せん妄をコントロールできることが報告されていますが、質の高いランダム化比較試験は実施されていませんでした。
さて、本試験結果によれば、単施設の小規模な試験ではあるものの、ハロペリドールへロラゼパムを追加することで、ベースラインから8時間後のRASSスコアを有意に低下させました。また、プラセボの追加と比較しても有意に低下していました。RASSの臨床的意義のある最小差(MCID)については、過去の報告で4以上であることが示されていますので、ベースラインからの低下度については臨床的にも意義があると考えられます。ただし、本試験の患者は各29例での検討であり、追試が必要であると考えられます。しかし、患者背景を考慮すると、規模が大きく、追跡期間の長い試験を実施することは現実的ではないように考えられます。
✅まとめ✅ 小規模な検討ではあるが、ハロペリドールにロラゼパムを追加することで、ハロペリドール単独と比較して、8時間後の興奮が有意に減少した
根拠となった試験の抄録
試験の重要性:人生の最後の日のせん妄における興奮をコントロールするためのベンゾジアゼピン系薬剤の使用には議論がある。
目的:進行がん患者のせん妄に対するハロペリドールの補助療法としてのロラゼパムとプラセボの効果を比較する。
試験デザイン、設定および参加者:テキサス州MDアンダーソンがんセンターの急性期緩和ケア病棟で実施された単施設二重盲検並行群間ランダム化臨床試験で、2014年2月11日から2016年6月30日まで、進行がんでハロペリドールを予定していたにもかかわらず興奮性せん妄を呈した患者93名を登録し、2016年10月にデータ収集を完了した。
介入:興奮エピソードの発現時にハロペリドール(2mg)の静脈内投与に加えて、ロラゼパム(3mg)の静脈内投与(n=47)またはプラセボ(n=43)を行った。
主要評価項目と測定:主要評価項目は、ベースラインから投与8時間後までのRichmond Agitation-Sedation Scale(RASS)スコア(範囲 -5[unarousable:覚醒、正常状態] ~ 4[very agitated or combative:過度の興奮あるいは好戦性])の変化であった。
副次的評価項目は、救助用神経弛緩薬の使用、せん妄の想起、快適性(介護者および看護師が感じたもの)、コミュニケーション能力、せん妄の重症度、副作用、退院時の経過、全生存率であった。
結果:ランダム化された90例の患者(平均年齢62歳、女性42名[47%])のうち、58例(64%)が試験薬の投与を受け、52例(90%)が試験を完了した。
ロラゼパム+ハロペリドールは、プラセボ+ハロペリドール(-2.3点)に比べて、8時間後のRASSスコアを有意に低下させた(-4.1点)(平均差 -1.9点[95%CI -2.8 ~ -0.9]、P<0.001)。
ロラゼパム+ハロペリドール群は、プラセボ+ハロペリドール群(4.0 mg)に比べて救援神経弛緩薬の中央値(2.0 mg)の必要量が少なく(中央値の差 -1.0 mg [95%CI -2.0 〜 0]; P=0.009)、盲検化された介護者と看護師の両方がより快適であると認識した。
介護者:ロラゼパム+ハロペリドール群 84% vs. プラセボ+ハロペリドール群 37%、平均差47%(95%CI 14%~73%)、P = 0.007
看護師:ロラゼパム+ハロペリドール群 77% vs. プラセボ+ハロペリドール群 30%、平均差47%(95%CI 17%~71%)、P=0.005
せん妄関連の苦痛と生存率には、グループ間で有意な差は認められなかった。
最も多くみられた副作用は、運動機能低下であった(ロラゼパム+ハロペリドール群で3名[19%]、プラセボ+ハロペリドール群で4名[27%])。
結論と関連性:進行がんの入院患者を対象としたこの予備試験では、ハロペリドールにロラゼパムを追加することで、ハロペリドール単独と比較して、8時間後の興奮が有意に減少した。一般化可能性や副作用を評価するために、さらなる研究が必要である。
試験登録:clinicaltrials.gov Identifier: NCT01949662
引用文献
Effect of Lorazepam With Haloperidol vs Haloperidol Alone on Agitated Delirium in Patients With Advanced Cancer Receiving Palliative Care: A Randomized Clinical Trial
David Hui et al. PMID: 28975307 PMCID: PMC5661867 DOI: 10.1001/jama.2017.11468
JAMA. 2017 Sep 19;318(11):1047-1056. doi: 10.1001/jama.2017.11468.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28975307/
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