心不全患者における6分間歩行距離、QOLに及ぼすサクビトリル/バルサルタンの効果は?
心不全で左室駆出率が軽度低下または維持されている患者において、サクビトリル/バルサルタンと幅広いレニン・アンジオテンシン系阻害薬のバックグラウンド療法との比較で、サロゲート・アウトカム・マーカー(代用のアウトカム)である6分間歩行距離、QOLに及ぼす効果については、限られたエビデンスしかありません。心血管疾患や心不全増悪による死亡などのハードアウトカムと比較して、代用のアウトカムの重要度は下がりますが、患者が治療効果を実感する上では重要であるといえます。
そこで今回は、LVEF40%以上の慢性心不全患者を対象に、サクビトリル/バルサルタンのN-terminal pro-brain natriuretic peptide(NT-proBNP)値、6分間歩行距離、およびQOLに対する効果を、背景薬をベースとした個別化比較対照薬と比較して評価したPARALLAX試験の結果をご紹介します。
本試験は、24週間のランダム化二重盲検並行群間臨床試験(2017年8月~2019年10月)であり、スクリーニングされた4,632例のうち、心不全、LVEF40%以上、NT-proBNP値上昇、構造的心疾患、QOL低下の患者2,572例が登録されました。患者は、サクビトリル/バルサルタン群(n=1,286)または背景薬ベースの個別化比較群(n=1,286;レニン・アンジオテンシン系阻害薬の使用歴)であるエナラプリル、バルサルタン、プラセボのいずれかに1:1でランダムに割り付けられました。
試験結果から明らかになったことは?
ランダム化された患者2,572例(平均年齢72.6歳[SD, 8.5歳]、女性1,301例[50.7%])のうち、2,240例(87.1%)が試験を完了しました。
主要評価項目 | 12週間後のNT-proBNP値 ベースライン比 | 24週目の6分間歩行距離 ベースラインからの変化量 |
サクビトリル/バルサルタン群 | 0.82pg/mL | 9.7m |
比較群 (エナラプリル、バルサルタン、プラセボ) | 0.98pg/mL | 12.2m |
調整後均値 | 0.84 (95%CI 0.80~0.88) P<0.001 | 差 -2.5m (95%CI -8.5~3.5) P=0.42 |
ベースライン時のNT-proBNP値の中央値は、サクビトリル/バルサルタン群が786 pg/mL、比較群が760 pg/mLでした。12週間後のNT-proBNP値は、サクビトリル/バルサルタン投与群(調整後幾何平均値、ベースライン比0.82pg/mL)が、比較群(調整後幾何平均値、ベースライン比0.98pg/mL)よりも有意に減少し、調整後幾何平均値は0.84(95%CI 0.80~0.88、P<0.001)となりました。
24週目の6分間歩行距離のベースラインからの変化量(中央値)は、9.7m vs. 12.2mであり、グループ間に有意な差は認められませんでした(調整後平均差 -2.5m、95%CI -8.5~3.5;P=0.42)。
カンザスシティ心筋症質問票の臨床サマリースコアの平均変化量(12.3 vs. 11.8、平均差 0.52、95%CI -0.93~1.97)およびNYHAクラスの改善(23.6% vs. 24.0%、調整オッズ比 0.98、95%CI 0.81~1.18)には、グループ間で有意な差は認められませんでした。
対照群と比較してサクビトリル/バルサルタン投与群で高頻度に認められた有害事象は、低血圧(14.1% vs. 5.5%)、アルブミン尿(12.3% vs. 7.6%)、高カリウム血症(11.6% vs. 10.9%)でした。
コメント
心不全患者(HFpEF)における代用のアウトカムに対するサクビトリル/バルサルタンの効果について、対照群(エナラプリル、バルサルタン、プラセボ)と比較して、12週目の血漿NT-proBNP値と24週目の6分間歩行距離のベースラインからの変化に群間差は、認められませんでした。本論文は有料であるため、詳細は確認できませんが、対照群にプラセボが含まれている点が不明です。サクビトリル/バルサルタンと従来薬(エナラプリル、バルサルタン)との比較について検証した方が良いと考えられます。とはいえ、プラセボを含めて比較しても、群間差が認められず、さらに6分間歩行距離については対照群よりも歩行距離が伸びていないことから、患者満足度は同程度であると考えられます。副次評価項目ではありますが、QOL及びNYHAクラス改善についても群間差は認められていません。治療コストも考慮すると、駆出率40%以上の心不全患者においては、既存薬で充分であると考えられます。
✅まとめ✅ 左室駆出率が40%以上の心不全患者において、サキュビトリル/バルサルタンの投与は、標準的なレニン・アンジオテンシン系阻害薬の投与やプラセボと比較して、12週間後の血漿中のNT-proBNPレベルを有意に低下させたが、24週間後の6分間歩行距離を有意に改善しなかった。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性:心不全で左室駆出率が軽度低下または維持されている患者において、サクビトリル/バルサルタンと幅広いレニン・アンジオテンシン系阻害薬のバックグラウンド療法との比較で、サロゲート・アウトカム・マーカーである6分間歩行距離、QOLに及ぼす効果については、限られたエビデンスしかない。
目的:LVEF40%以上の慢性心不全患者を対象に、サクビトリル/バルサルタンのN-terminal pro-brain natriuretic peptide(NT-proBNP)値、6分間歩行距離、およびQOLに対する効果を、背景薬をベースとした個別化比較対照薬と比較して評価する。
試験デザイン、設定および参加者:24週間のランダム化二重盲検並行群間臨床試験(2017年8月~2019年10月)。32か国の396施設でスクリーニングされた4,632例のうち、心不全、LVEF40%以上、NT-proBNP値上昇、構造的心疾患、QOL低下の患者2,572例が登録された(最終追跡調査:2019年10月28日)。
介入:患者は、サクビトリル/バルサルタン群(n=1,286)または背景薬ベースの個別化比較群(n=1,286)、すなわちレニン・アンジオテンシン系阻害薬の使用歴で層別化されたエナラプリル、バルサルタン、プラセボのいずれかに1:1でランダムに割り付けられた。
主要評価項目と評価:主要評価項目は、12週目の血漿NT-proBNP値と24週目の6分間歩行距離のベースラインからの変化とした。副次的評価項目は、24週目のQOL(生活の質)指標とNYHA(ニューヨーク心臓協会)クラスのベースラインからの変化。
結果:ランダム化された患者2,572例(平均年齢72.6歳[SD, 8.5歳]、女性1,301例[50.7%])のうち、2,240例(87.1%)が試験を完了した。ベースライン時のNT-proBNP値の中央値は、サクビトリル/バルサルタン群が786 pg/mL、比較群が760 pg/mLであった。12週間後のNT-proBNP値は、サクビトリル/バルサルタン投与群(調整後幾何平均値、ベースライン比0.82pg/mL)が、比較群(調整後幾何平均値、ベースライン比0.98pg/mL)よりも有意に減少し、調整後幾何平均値は0.84(95%CI 0.80~0.88、P<0.001)となった。24週目の6分間歩行距離のベースラインからの変化量(中央値)は、9.7m vs. 12.2mであり、グループ間に有意な差は認められなかった(調整後平均差 -2.5m、95%CI -8.5~3.5;P=0.42)。カンザスシティ心筋症質問票の臨床サマリースコアの平均変化量(12.3 vs. 11.8、平均差0.52、95%CI -0.93~1.97)およびNYHAクラスの改善(23.6% vs. 24.0%、調整オッズ比 0.98、95%CI 0.81~1.18)には、グループ間で有意な差はなかった。対照群と比較してサクビトリル/バルサルタン投与群で高頻度に認められた有害事象は、低血圧(14.1% vs. 5.5%)、アルブミン尿(12.3% vs. 7.6%)、高カリウム血症(11.6% vs. 10.9%)であった。
結論と関連性:左室駆出率が40%以上の心不全患者において、サキュビトリル/バルサルタンの投与は、標準的なレニン・アンジオテンシン系阻害薬の投与やプラセボと比較して、12週間後の血漿中のNT-proBNPレベルを有意に低下させたが、24週間後の6分間歩行距離を有意に改善しなかった。これらの患者におけるサクビトリル/バルサルタンの潜在的な臨床効果を評価するために、さらなる研究が必要である。
臨床試験登録:ClinicalTrials.gov Identifier: NCT03066804
引用文献
Effect of Sacubitril/Valsartan vs Standard Medical Therapies on Plasma NT-proBNP Concentration and Submaximal Exercise Capacity in Patients With Heart Failure and Preserved Ejection Fraction: The PARALLAX Randomized Clinical Trial
Burkert Pieske et al. PMID: 34783839 DOI: 10.1001/jama.2021.18463
JAMA. 2021 Nov 16;326(19):1919-1929. doi: 10.1001/jama.2021.18463.
関連記事
【日本人心不全(HFrEF)患者に対するサクビトリル/バルサルタンの効果はどのくらいですか?(RCT; PARALLEL-HF Study; Circulation Journal 2021)】
【進行したHFrEFにおいて、サキュビトリル/バルサルタンはバルサルタンより優れていない(DB-RCT; LIFE試験; ACC21学会発表データ)】
【STEMI後の心不全患者におけるサキュビトリル/バルサルタン vs. ラミプリル、どちらが優れていますか?】
【批判的吟味】心筋梗塞後の心不全イベントの減少におけるARNIとACE阻害剤、どちらが優れていますか?(DB-RCT; PARADISE-MI試験; ACC21学会発表データ)
【リライト】心不全におけるアンジオテンシン-ネプリライシン阻害薬とエナラプリル、どちらが優れていますか?(PARADIGM-HF)
コメント