発展途上国における母乳育児によるアレルギー疾患の一次予防効果はどのくらいですか?(横断研究; Eur Ann Allergy Clin Immunol. 2007)

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発展途上国における完全母乳育児はどのくらいか?

長期間の母乳育児は、アレルギー疾患や呼吸器疾患のリスクを低減することが示されていることから、完全母乳育児を推奨している背景があります。しかし、アレルギー疾患の発症に対する完全母乳育児の有効性については、発症予防効果がない、あるいは発症リスクが増加するという報告もあり、一貫した結果が得られていません。また研究が実施されたのは先進国が多く、他の国や地域における完全母乳育児の効果は明らかとなっていません。

臨床試験が実施された国や地域により、完全母乳育児の有効性についての報告が異なっている可能性があることから、国や地域のおかれた背景を踏まえた臨床試験の実施が求められます。

そこで今回は、発展途上国であるカタールで実施された研究結果をご紹介します。

試験結果から明らかになったことは?

カタールの0~5歳の乳幼児と18~47歳の母親1,278例が参加した横断研究では、乳児の半数以上(59.3%)が完全母乳で育てられており、次いで部分母乳(28.3%)、人工栄養(12.4%)でした。

喘息(15.6%)、喘鳴(12.7%)、アレルギー性鼻炎(22.6%)、湿疹(19.4%)の頻度は、部分母乳や粉ミルクの乳児に比べて、完全母乳で育てられた子どもの方が低いことが示されました。

アレルギー疾患、特に湿疹、喘鳴、耳の感染症のリスクは、母乳育児期間が長期(6ヶ月以上)の子どもの方が、母乳育児期間が短期(6ヶ月未満)の子どもよりも低いことが明らかになりました。

コメント

発展途上国における完全母乳育児は、喘息やアレルギー疾患の発症リスクを提言する可能性が示されました。ただし、横断研究の結果ですので、あくまでも傾向が認められたに過ぎません。

そもそもアレルギー疾患の発症には、遺伝的素因だけでなく置かれた環境が強く関わっています。したがって、国や地域により発症リスクが異なることから、臨床試験の患者背景や結果だけでなく、実施された国や地域に注目する必要があります。

少なくとも発展途上国であるカタールにおいては、完全母乳育児により喘息やアレルギー疾患の発症を低減する可能性が示されました。一方、日本においては、アレルギー疾患の発症リスクを増加する報告もあることから、完全母乳育児を推奨することは困難と考えます。

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✅まとめ✅ 完全母乳育児は、発展途上国における喘息やアレルギー疾患の発症リスクを低減するかもしれない

根拠となった論文の抄録

背景:母乳育児がアレルギー疾患を予防する可能性があることについては、途上国からの報告はほとんどなく、依然として議論の余地がある。長期間の母乳育児は、アレルギー疾患や呼吸器疾患のリスクを低減することが示された。

目的:本研究の目的は、0~5歳のカタール人の乳幼児を対象に、母乳育児と小児喘息およびアレルギー疾患の発症との関係を評価する。さらに、本研究では、発展途上国における母乳育児の長期化がアレルギー疾患に及ぼす影響を調査した。

デザイン:横断研究

試験設定:カタール国Hamad Medical CorporationのPrimary Health Care Center、Hamad General Hospital内のWell baby clinicsおよびPediatric clinics 11施設

対象:2006年10月から2007年9月にかけて、カタールの0~5歳の乳幼児と18~47歳の母親1,500例を対象に、多段階抽出法を用いて調査を行った。1,500例のうち、1,278例の母親が本研究への参加に同意し、回答率は85.2%であった。

方法:選ばれた対象者は、母乳育児とアレルギー疾患を評価する、秘密厳守の匿名アンケートに回答した。アンケートは、子どもの予防接種のためにPrimary Health Centerに通う女性に実施された。質問票には、アレルギー性鼻炎、喘鳴、湿疹が含まれ、追加質問として、授乳方法と授乳期間、タバコの煙への暴露、兄弟姉妹の数、家庭の収入、母親の教育レベル、親のアレルギー歴が含まれた。統計解析には、単変量および多変量統計法を用いた。

結果:乳児の半数以上(59.3%)が完全母乳で育てられており、次いで部分母乳(28.3%)、人工栄養(12.4%)であった。これら3つのカテゴリーの乳児では、年齢層、父親の喫煙状況、社会経済的地位、親の血縁関係において、有意な差が認められた。
喘息(15.6%)、喘鳴(12.7%)、アレルギー性鼻炎(22.6%)、湿疹(19.4%)の頻度は、部分母乳や粉ミルクの乳児に比べて、完全母乳で育てられた子どもの方が低かった
母方のアトピー歴のある乳児では耳の感染(P = 0.0001)と湿疹(P = 0.007)が、父方のアトピー歴のある乳児では喘息(P = 0.0001)とアレルギー性鼻炎(P = 0.015)が有意に認められた。
授乳方法に関連する主な要因は、第一子を持つ母親、喘息持ちの母親、親のアレルギー性鼻炎の既往歴であった。
アレルギー疾患、特に湿疹、喘鳴、耳の感染症のリスクは、母乳育児期間が長期(6ヶ月以上)の子どもの方が、母乳育児期間が短期(6ヶ月未満)の子どもよりも低かった。

結論:今回の研究では、完全母乳育児が小児のアレルギー疾患の発症を予防することが示された。アレルギー疾患に対する母乳育児の主な関連因子は、第一子であること、母親の喘息歴、親のアレルギー性鼻炎歴であった。この研究結果は、母乳育児の介入的役割に大きな道を開くものです。母乳育児は、発展途上国における喘息やアレルギー疾患の発症リスクを低減するための1つの可能性として推奨されます。

引用文献

Role of breast feeding in primary prevention of asthma and allergic diseases in a traditional society
A Bener et al. PMID: 18386435
Eur Ann Allergy Clin Immunol. 2007
ー続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18386435/

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