STEMI後の心不全患者におけるサキュビトリル/バルサルタンの効果とは?
駆出率の低下した心不全(HFrEF)患者において、サキュビトリル/バルサルタン使用は、ラミプリルと比較して、MACE(心血管死亡と心不全による入院)イベント発生の低下が認められました(PARADIGM-HF, https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25176015/)。
一方で、駆出率の保たれた(HFpEF)患者において、サキュビトリル/バルサルタン使用は、ラミプリルと比較して、MACE(心血管死亡と心不全による入院)イベント発生に差はありませんでした(PARAGON-HF)。
ST上昇型心筋梗塞(STEMI)、特に広範前壁MIの患者では、一次PCIの成功にもかかわらず、死亡率と心不全発症率が一貫して容認できないほど増加しています。そこで前壁STEMIに対するサキュビトリル/バルサルタンの効果を検証した試験をご紹介します。
試験の結果は?
STEMIを呈した患者を対象に、経皮的冠動脈インターベンション後にサキュビトリル/バルサルタン、ラミプリルのいずれかを投与する群にランダム割り付けし、主要評価項目である有効性と安全性を比較し他ところ、主要評価項目であるMACEは30日時点でサキュビトリル/バルサルタンとラミプリルの間で差がなかったようです(p=0.18)。
抄録からでは、駆出率が不明なため、心不全のタイプがわかりませんが、現時点においてはPCIを受けたSTEMI患者における心不全に対して、ラミプリルで充分であると考えます。
✅まとめ✅ サキュビトリル/バルサルタンの早期投与開始は、STEMI後の心筋リモデリングの改善と臨床的有用性をもたらす可能性があるものの、30日時点のMACE発生率においてサキュビトリル/バルサルタンとラミプリルの間で差がなかった
根拠となった論文の抄録
背景:心不全患者におけるサキュビトリル/バルサルタンの役割が確立された。しかし、サキュビトリルやバルサルタンがSTEMI後の心不全患者の転帰を改善する役割を果たしているかどうかは不明である。本研究では、STEMI後の患者を対象に、サキュビトリル/バルサルタンとラミプリルの有効性と安全性を比較することを目的としている。
方法:STEMIを呈した患者を対象に、経皮的冠動脈インターベンション後にサキュビトリル/バルサルタン、ラミプリルのいずれかを投与する群にランダム割り付けし、主要評価項目である有効性と安全性を比較した。有効性の主要評価項目は、30日後および6ヵ月後の主要有害心臓イベント(MACE)であり、心臓死、心筋梗塞、HF入院を複合的に評価した。複数の副次的臨床安全性および有効性の評価項目を検討した。
結果:2018年1月から2019年3月までに合計 200例がランダムに割り付けられ、平均年齢 54.5±10.4歳、男性 87%、75%が前壁STEMIを呈した。ベースラインの臨床的特徴と心エコー特徴は群間で同等であった。主要評価項目であるMACEは30日時点でサキュビトリル/バルサルタンとラミプリルの間で差がなかった(p=0.18)が、6ヵ月時点ではサキュビトリル/バルサルタンがMACEの有意な減少(p=0.005)を示し、主にHF入院の減少(18%vs.36%、OR 0.40、95% 0.22~0.75、p=0.004)に牽引されていた。6ヵ月後のLV駆出率はサキュビトリル/バルサルタン投与群がラミプリル投与群に比べて高く(46.8±12.5% vs. 42.09±13.8%、p=0.012)、LVリモデリングの改善(LV末拡張期寸法 50.6±3.9mm vs. 53.2±2.7mm、p=0.047、LV末収縮期寸法 36.1±3.4mm vs. 39.9±6.3mm、p=0.001)がみられた。その他の有効性および安全性の臨床評価項目では差は認められなかった。
結論:サキュビトリル/バルサルタンの早期投与開始は、STEMI後の心筋リモデリングの改善と臨床的有用性をもたらす可能性がある。
引用文献
Am J Cardiol. 2021 Jan 6;S0002-9149(20)31365-5. doi: 10.1016/j.amjcard.2020.12.037. Online ahead of print.
ー続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33417876/
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