急性心筋梗塞後の心不全患者への治療は何が良いのか?
急性心筋梗塞(AMI)から生還した患者は、症状のある心不全(HF)を発症したり、早死にするリスクがあります。
PARADISE-MI(Prospective ARNI vs. ACE inhibitor trial to DetermIne Superiority in reducing heart failure Events after Myocardial Infarction)試験は、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬であるラミプリルと比較して、慢性心不全に有効なARNIであるサクビトリル/バルサルタンが、ハイリスクAMI後の心不全の発症を予防し、心血管死を減少させるという仮説のもと検証された試験です。
2021年に行われた(ACC)で発表された試験結果をご紹介します。この試験は、まだ論文化されていません。
PICO
P:AMIを発症してから0.5~7日以内の患者 5,661例
I :サクビトリル・バルサルタン(LCZ696:低用量からのタイトレーション50, 100, 200mg、1日2回) 2,830例
C:ラミプリル(経口カプセル:低用量からのタイトレーション1.25mg、2.5mg、5mg、1日1回) 2,831例
O:primary — 複合エンドポイント*の最初の発生までの期間
secondary —
CV死亡または心不全による入院が最初に発生するまでの期間
心不全による入院または外来での心不全が最初に発生するまでの期間
CV死亡、非致死性心筋梗塞または非致死性脳卒中が最初に発生するまでの期間
心血管死、心不全による入院、非致死性自然心筋梗塞による入院、および非致死性脳卒中による入院の再発数
全死亡(CV死亡または非CV死亡)が発生までの期間
T:治療・予後、二重盲検、ランダム化、トリプルダミー(サクビトリル・バルサルタン、プラセボ、導入用のバルサルタン)、イベントドリブン試験(708イベント発生まで実施)
S:多国籍(41ヵ国)、多施設共同
L:複合エンドポイント、ソフト
*複合エンドポイント:心血管死亡、心不全による入院、外来における心不全発症のいずれかが含まれる
選択基準
組入基準
- 18歳以上の男性または女性の患者
- ユニバーサルMI定義に基づく自然発症のAMIと診断され、ランダム化は指標イベント提示後12時間から7日の間に行われた
- 指標心筋イベントに関連したLV収縮機能障害および/または点滴治療を必要とする肺うっ血の証拠は以下のように定義される。
- 指標となる心筋梗塞の発症後、ランダム化前のLVEFが40%以下、および/または指標となる心筋梗塞による入院中に、利尿剤、血管拡張剤、血管圧迫剤、強心剤の静脈内投与を必要とした肺うっ血状態
- 以下の8つの危険因子のうち少なくとも1つを有すること
- 年齢が70歳以上
- スクリーニング時のMDRD式によるeGFR<60mL/min/1.73m2
- I型またはII型糖尿病
- 過去に心筋梗塞の既往歴がある
- 心電図で心房細動が認められ、心筋梗塞の指標となったもの
- 心筋梗塞の指標となるLVEF30%未満
- 心筋梗塞に伴う最悪のKillipクラスIIIまたはIVで、点滴治療が必要なもの
- 来院後24時間以内に再灌流療法を受けていないSTEMI
- 血行動態が安定している状態については以下を参照
- ランダム化前の24時間以内にACE阻害薬/ARBを投与された患者は、ランダム化時のSBP≧100mmHg
- ランダム化前24時間以内にACE阻害薬/ARBの投与を受けていない患者の場合は、ランダム化時のSBP≧110mmHg
- ランダム化前の24時間以内に利尿剤、血管拡張剤、血管圧迫剤、強心剤の静脈内投与を受けていないこと
除外基準
- 貧血、低血圧、不整脈などの他の疾患に続発する自然発生的な心筋梗塞と判断された患者、または冠動脈が正常であるにもかかわらず冠動脈の血管攣縮が原因と考えられた患者
- たこつぼ心筋症に関連すると考えられる臨床症状を呈した患者
- ランダム化前に慢性心不全の既往歴があること
- ランダム化前24時間以内に心原性ショックの発生
- ランダム化時に持続する臨床的心不全
- 指標心筋梗塞に対して冠動脈バイパス術(CABG)が行われた、または行われる予定であること
- 指標心筋梗塞として臨床的に重要な右心室心筋梗塞
- スクリーニングまたはランダム化時の症候性低血圧
- 血管性浮腫の既往歴のある患者
- ランダム化前1ヵ月以内の脳卒中または一過性脳虚血発作
- 両側の腎動脈の狭窄が既知または疑われる方
- 臨床的に重大な閉塞性心筋症
- ランダム化前ヵ月以内に行われた開心術、またはランダム化前3ヵ月以内に予定されている心臓手術
- スクリーニング時のMDRD*測定によるeGFR<30ml/min/1.73m2
- ランダム化時の血清カリウム>5.2mmol/L(または同等の血漿カリウム値)。
- 既知の肝機能障害(総ビリルビン>3.0mg/dLまたはアンモニア濃度の上昇(実施した場合)により証明)、または食道静脈瘤などの門脈圧亢進の証拠を伴う肝硬変の既往症
- LCZ696の使用歴
- 過去3年以内にあらゆる器官系の悪性腫瘍(限局性の皮膚基底細胞癌を除く)の既往歴があり、余命が1年未満の場合
- 試験薬または類似の化学的クラスの薬剤に対する過敏症の既往歴、または試験薬またはACE阻害剤、ARB、NEP阻害剤を含む類似の化学的クラスの薬剤に対する既知の不耐症もしくは禁忌症
- 妊娠中または授乳中の女性、または妊娠の可能性のある女性(ただし、効果の高い避妊法を使用している場合を除く)
*MDRD:Modification of Diet in Renal Disease式、推定GFRを算出する。
男性:eGFR(mL/min/1.73m2)=186.3×(血清クレアチニン値)-1.154×(年齢)-0.203
女性:eGFR(mL/min/1.73m2)=eGFR(男性)×0.762
批判的吟味
- ランダム化されているか?
⭕️ :ランダム化比較試験 - 割り付けは隠蔽化されているか?
( ) :中央割り付けであると考えられる。 - ベースラインは同等か?
( ) : - ITT解析か?ITT解析でない場合の脱落率は?
( ) : - 盲検化されているか?
⭕️ :参加者、医療従事者、治験責任者、アウトカム評価者 - 症例数は充分か?
( ) :
結果は?
介入は、指標となるAMIの発生から4.3±1.8日後に行われました。平均年齢は64±12歳で、24%が女性、LVEFは37±9%で、58%がKillipクラス≧IIでした。全体の76%の患者はST上昇型心筋梗塞で、急性経皮的冠動脈インターベンションが88%、血栓溶解療法が6%に行われました。
主要評価項目
サクビトリル/バルサルタンとラミプリルの主要評価項目である心血管死亡、初回心不全(HF)入院、外来HFは、11.9% vs. 13.2%(p=0.17)でした。CV死亡 5.9% vs. 6.7%(p=0.20)、HFでの入院 6.0% vs. 6.9%(p=0.17)
サクビトリル/バルサルタン | ラミプリル | |
主要評価項目: 心血管死亡、初回HF入院、外来HF | 11.9% | 13.2% |
CV死亡 | 5.9% | 6.7% |
HFでの入院 | 6.0% | 6.9% |
副次評価項目
サクビトリル/バルサルタン | ラミプリル | |
CV死亡/MI/脳卒中 | 11.1% (p=0.18) | 12.3% |
全死亡 | 7.5% (p=0.16) | 8.5% |
全HF入院、外来HFイベント、 およびCV死亡 | 8.4/100患者・年 (p=0.02) | 10.1/100患者・年 |
低血圧 | 28.4% (p<0.05) | 22.0% |
コメント
American College of CARDIOLOGY(ACC)の国際学会 ACC.21 Meetingで発表された研究結果です。まだ論文化されていないようですので、批判的吟味を充分に行えませんが、現状では、サクビトリル/バルサルタンとラミプリルに差はないようです。
✅まとめ✅ 急性心筋梗塞後の患者において、ラミプリルと比較して、サクビトリル/バルサルタンは心血管死、心不全による入院、外来心不全の発症を有意に低下できなかった
引用元
Prospective ARNI vs. ACE inhibitor trial to DetermIne Superiority in reducing heart failure Events after Myocardial Infarction – American College of Cardiology
Dharam J. Kumbhani, MD, SM, FACC
— 続きを読む www.acc.org/Latest-in-Cardiology/Clinical-Trials/2021/05/14/01/22/PARADISE-MI
ClinicalTrials.gov.: https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT02924727
デザインペーパー: PMID 33847047
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