Evaluation of Time to Benefit of Statins for the Primary Prevention of Cardiovascular Events in Adults Aged 50 to 75 Years: A Meta-analysis
Lindsey C Yourman et al.
JAMA Intern Med. 2020 Nov 16. doi: 10.1001/jamainternmed.2020.6084. Online ahead of print.
PMID: 33196766
DOI: 10.1001/jamainternmed.2020.6084
試験の重要性
ガイドラインでは、平均余命が介入の効果が得られるまでの時間(time to benefit, TTB)よりも長い高齢者を対象に予防介入を行うことが推奨されている。
スタチン療法のTTBは不明である。
目的
50~75歳の成人における最初の主要有害心血管系イベント(MACE)の予防のためのTTBを決定するために、スタチンのランダム化臨床試験の生存期間メタアナリシスを実施すること。
データソース
以前に発表されたシステマティックレビュー(Cochrane Database of Systematic ReviewsおよびUS Preventive Services Task Force)から研究を同定し、その後に発表された研究についてはMEDLINEおよびGoogle Scholarで2020年2月1日までの検索を行った。
研究の選択
高齢者(平均年齢>55歳)に焦点を当てた一次予防のためのスタチン製剤のランダム化臨床試験。
データの抽出と合成
2人の著者が独立して対照群と介入群の生存データを抽出した。
ワイブル生存曲線を適合させ、ランダム効果モデルを用いて各年の対照群と介入群の間のプールされた絶対リスク低減(ARR)を推定した。
ARRの閾値までの時間を決定するためにマルコフ連鎖モンテカルロ法が適用された。
主要アウトカムおよび測定法
主要アウトカムは、各試験で定義された初回MACEのARR閾値(0.002、0.005、0.010)までの時間であった。MACEの定義には試験間で大きな類似性があり、すべての試験で心筋梗塞と心血管死亡が含まれていた。
結果
・成人 65,383例(男性 66.3%)をランダム割り付けた試験 8件が同定された。
・平均年齢は55~69歳で、追跡期間の平均は2~6年であった。
・スタチンが全死亡率を減少させることを示したのは8試験中1試験のみであった。
・メタ解析の結果、スタチン治療を受けた患者 100例に対してMACEを1件回避するには2.5年(95%CI 1.7〜3.4年)が必要であることが示唆された。
・治療を受けた患者 200例(ARR=0.005)のMACEを1件回避するためのTTBは1.3年(95%CI 1.0~1.7年)であったのに対し、治療を受けた患者 500例(ARR=0.002)のMACEを1件回避するためのTTBは0.8年(95%CI 0.5~1.0年)であった。
結論と関連性
これらの所見から、心血管疾患が知られていない成人100例(50~75歳)をスタチンで2.5年間治療することで、成人1例のMACEを予防できたことが示唆された。
50~75歳の成人の平均余命が2.5年以上あれば、スタチンは初発MACEの予防に役立つ可能性がある。
死亡率に効果があるというエビデンスはない。
コメント
これまでの研究結果から、スタチン使用により得られる益は高齢者で少なく、特に75歳以上の高齢者においてはスタチンを中止しても、継続した場合と比較して予後に差はないことが報告されています。
さて、本試験結果により、50〜75歳にスタチンを使用した場合、初発MACEに対するnumber needed to treat for benefit(NNTB)100を実現するには、余命が2.5年以上、必要なようです。
NNTB 200の場合は1.3年、NNTB 500の場合は0.8年でした。
スタチンによる心血管イベントの1次予防にかぎった話ではありませんが、やはり余命期間を考慮した方が良さそうですね。また日本人においては、白人と比較して、心血管イベントの発生率自体が少なく、また余命も長い可能性があるため、スタチンによる1次予防効果はさらに小さくなる可能性がありますので、今回の試験結果を外挿する際に、工夫が必要であると考えます。
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