Comparison of methimazole and propylthiouracil in patients with hyperthyroidism caused by Graves’ disease. Nakamura H et al. J Clin Endocrinol Metab. 2007. PMID: 17389704
背景・疑問
グレーブス病(バセドウ病)に起因する甲状腺機能亢進症の治療には、今日までメチマゾール(別名:チアマゾール、商品名:メルカゾール)やプロピルチオウラシル(商品名:プロパジール、チウラジール)が使用されてきた。しかし、治療薬の選択や適切な初期用量については結論が出ていない。結論
軽度および中等度のバセドウ病には、チアマゾール 15 mg/日が適している。また重症例では 30 mg/日での治療開始を支持する結果であった。 チアマゾールと比較すると、プロピルチオウラシルは初期治療の面で劣っていた。試験適格基準
<組入基準>
未治療の甲状腺機能亢進症(ただしバセドウ病に起因する)患者のみが組み入れられた。 バセドウ病の診断は日本甲状腺学会の診断ガイドライン(http://www.japanthyroid.jp/doctor/guideline/japanese.html)に従い、臨床所見と血清フリーT4(FT4)、血清フリーT3(FT3)、甲状腺刺激ホルモン(Thyroid-Stimulating Hormone:TSH)、TSH受容体抗体(TSH Receptor Antibody:TRAb)、123I(ヨード)あるいは99mTc(テクネシウム)の取り込み、以上から診断した。<除外基準>
16歳未満、妊婦、甲状腺摘出術またはラジオヨード治療後の再発患者、抗甲状腺薬(Anti-Thyroid Drug:ATD)による治療歴あり、心不全などの重篤な合併症、甲状腺機能に影響を与える可能性のあるグルココルチコイドステロイドまたは薬物使用患者。批判的吟味
PICO
P:未治療のグレーブス病患者 396例 I :チアマゾール 30 mg/日(135例) C:プロピルチオウラシル 300 mg(104例) チアマゾール 15 mg(147例) O:FT4または FT3の正常化、副作用の頻度 (4、8および12週目に測定) T:オープンラベル、ランダム化比較試験、Triple arm、施設は日本国内の4つの病院(①Ito Hospital in Tokyo, ②Kuma Hospital in Kobe, ③Sumire Hospital in Osaka, and ④Hamamatsu University Hospital in Hamamatsu)ランダム割り付けされているか?(観察者バイアスはないか?)
→ されている。ブラインドされているか?(マスキングにより観察者バイアスは抑えられているか?)
→ されていないが、アウトカムとの相性は問題ないと考えられる。隠蔽化されているか?(選択バイアスはないか?)
→されていない。ベースラインをみると TRAbの値に差がありそうだが、試験結果から FT4および FT3の正常化にあまり影響はなさそう。両薬剤ともヨウ化物ペルオキシダーゼを阻害し、FT4および FT3を低下させる。プライマリーアウトカムは真か?明確か?
→代用のアウトカムであるが、FT4および FT3の値が動悸や食欲増進、体重減少、発汗等に関与しているため、明確ではあると考えられる。交絡因子は網羅的に検討されているか?
→体重や心電図、脈拍、FT4、FT3、TSHがあっても良いのではないでしょうか。Baseline は同等か?どんな患者背景?
→あまり差はなさそうだが、TRAb、男女比に群間差がありそう。平均 40歳くらい。ITT 解析されているか?
→ されていない。追跡率(脱落)はどのくらいか?結果を覆す程か?
→やや脱落多い気がする。あと結果の分母が変わるところ、気になります。 ①チアマゾール 30 mg:72.6%(27.4%) ②プロピルチオウラシル 300 mg:71.1% (28.9%) ③チアマゾール 15 mg:84.4%(15.6%)サンプルサイズは充分か?
→計算されている(α=0.05, power=80%)。サンプル数は各群 82例以上必要だが、脱落があるためプロピルチオウラシル群は 81例。個人的に 1例足りないぐらいは問題ないと思う。結果は?
→12週目における FT4正常化は、 メルカゾール 30 mg/日:96.5%(82/85例) プロピルチオウラシル 300 mg:78.3% (54/69例) メルカゾール 15 mg:86.2%(94/109例) →12週目における FT3正常化は、 メルカゾール 30 mg/日:90.0%(72/80例) プロピルチオウラシル 300 mg:62.9% (39/62例) メルカゾール 15 mg:72.6%(78/98例) →サブグループ解析: FT4 =7 ng/dL以上の重症例(64例)においても、メルカゾール 30 mgは、プロピルチオウラシル 300 mg(at 8 and12 wk)、メルカゾール 15 mg(at 8 wk)に比べ FT4正常化が優れていた。 →サブグループ解析: FT4 =7 ng/dL未満の軽症〜中等度例においては、3群間で明らかな差は無かった。 →有害事象 ・肝毒性はプロピルチオウラシルで多かった。またチアマゾールにおいては、30 mgに比べ 15 mgで肝毒性が少なかった。 ・白血球減少症については、チアマゾール 30 mgで 0例(0%)、プロピルチオウラシルで 5例(4.8%)、チアマゾール 15 mgで 1例(0.7%)。 ・白血球減少症の中でも、特に好中球が減少する無顆粒球症は、本試験では 1例も認められなかった。 ・薬疹/蕁麻疹については、チアマゾール 30 mgで 29例(22.3%)、プロピルチオウラシルで 23例(22.1%)、チアマゾール 15 mgで 9例(6.6%)。コメント
治療開始 4、8、12週後で、分母が変化している点がきになる(特に本文の Figure 1)。邪推かもしれないけど、いいとこ取りじゃないよね?まぁ、10年前の論文なので “頑張って試験完遂した” と受け取りました。 結果をそのまま受け取ると、妊娠や授乳中、薬疹がなければチアマゾールを使った方が良さそう。 患者の状態によって 30 mgを使うか、15 mgを使うのか、というところが難しそう。動悸時に βブロッカー使用可だったようなので、各群どのくらい使用したか知りたかった。 個人的な経験では、30 mg処方・2週間で治療開始する医師が多いと感じる。 ここで JJCLIP#50の仮想症例について、私なりの見解ですが、妊娠や授乳中で無い 40代女性、軽症〜中等度のバセドウ病患者に対しては、まずチアマゾール 15 mg/日を 2週間服用で良いのではないかと思った。薬疹が認められたら、プロピルチオウラシルでどうかしら。肝機能、血球については随時フォロー。あと甲状腺のエコーはいるのかな? 余談ですが、バセドウってドイツ語だったんですね。知りませんでした。英語圏ではグレーブスが一般的なようです。勉強不足を痛感。 ちなみに 1日当たりの薬価(2017年11月26日現在)は、 ・メルカゾール錠 5 mg ——— 9.6円/錠 ・チウラジール錠 50 mg ——— 9.6円/錠(プロパジール錠 50 mgも同価) 従って、 ・チアマゾール 30 mg → 57.6円/6錠/日 ・プロピルチオウラシル 300 mg → 57.6円/6錠/日 ・チアマゾール 15 mg → 28.8円/3錠/日- Evidence never tells you what to do –
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