前回の記事に続きピロリ関連の文献を紹介します。2016年 Lancet 誌に掲載された以下の論文です。
Concomitant, bismuth quadruple, and 14-day triple therapy in the first-line treatment of Helicobacter pylori: a multicentre, open-label, randomised trial.
Liou JM et al. (PMID: 27769562)⌘ PICO
P:ピロリ菌陽性*)の 1620 人(20 歳超の男女) I :ビスマス 4 剤療法、10 日間 (2クエン酸ビスマス3カリウム 300 mg、1 日 4 回 + テトラサイクリン 500 mg、1 日 4 回 + ランソプラゾール 30 mg、1 日 2 回 + メトロにダゾール 500 mg、1 日 3 回) C:3 剤療法、14 日間、1 日 2 回服用 (ランソプラゾール 30 mg + アモキシシリン 1 g + クラリスロマイシン 500 mg) 併用療法、10 日間、1 日 2 回服用 (3剤療法 + メトロニダゾール 500 mg) O:Primary — 1 次治療終了 6 週間後の呼気検査における除菌率 Secondary — 有害事象とコンプライアンスの程度 *)迅速ウレアーゼ試験、組織学的、血液培養または血清検査のうち 2 つ以上の試験で陽性を示したか、尿素呼気テストで 13C 尿素値が陽性⌘ 結論
従来の3剤療法に比べ、ビスマスを加えた4剤療法の方がピロリ菌の除菌率は高い。⌘ 論文の批判的吟味
研究デザインは?ランダム化されているか? ▶️ランダム化比較試験。割り付けは封筒法(もちろん透けてないよね?) ランダム割付が隠蔽化されているか?(selection bias は無いか?) ▶️隠蔽化されている 「the sequence was concealed in an opaque envelope until the intervention was assigned.」との記載有り マスキングされているか?(ブラインドか否か?) ▶️オープンラベルである。アウトカムからみてブラインドで行う有益性は低い プライマリーアウトカムは真か? ▶️代用あるいは代理アウトカムであるが、除菌率を検討したいので読み進める(胃がん発生や死亡と比べると代理アウトカムの分類であるが、従来治療との比較という目的においては真であると判断した) 交絡因子は網羅的に検討されているか? ▶️大項目で 18 因子について検討されているため問題ないと考えられる:性別、年齢、喫煙、飲酒、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、CYP2C19 低代謝群 (PM)、BMI、体重、23S rRNA 変異(クラリスロマイシン耐性株で変異していることが多い)、GyrA 変異(ニューキノロン耐性株)、クラリスロマイシン耐性、メトロダゾール耐性、アモキシシリン耐性、レボフロキサシン耐性、テトラサイクリン耐性、Hピロリ陽性(血液検査、ウレアーゼ試験、組織診断、培養、尿素呼気試験)、胃体部の萎縮 Baseline は同等か? ▶️同等である ITT 解析されているか? ▶️ITT 解析および per protocol 解析を実施 脱落はどのくらいか? ▶️Primary outcome において、どの群も追跡率は 80% を越えている 問題無し サンプルサイズは充分か? ▶️計算されており問題無し(事前検討で 400 あれば良いとの計算なので多い) 「a statistical power of 80% (1–β) at an α level of 5% significance on a two-sided test」と記載有り 結果は? Primary outcome: ▶️ビスマス 4 剤療法群の除菌率は 90.4%(488 例/540 例、95%信頼区間[CI]:87.6~92.6)で最も高かった。 ▶️次いで併用療法群で 85.9%(464 例/540 例、同:82.7~88.6)。 ▶️最後に、従来の 3 剤療法群は 83.7%(452 例/540 例、同:80.4~86.6)と一番低かった。 ビスマス 4 剤療法群の除菌率は、3 剤療法群に比べ有意に高率だった(群間差:6.7%、95%CI:2.7~10.7、p=0.001)。 一方、併用療法群との比較では有意な差は認められなかった。また、併用療法群と 3 剤療法群との比較でも有意差はなかった。 Secondary outcome: 有害事象発生率は、ビスマス4剤療法群が67%、併用療法群が58%、3剤療法群が47%だった。⌘ 考察
以前の臨床試験では、日本を含むほとんどの国で抗生物質に対する感受性検査が行われておらず、結果の一般化はある地域に限定されていた。 本ランダム化比較試験では、抗生物質への耐性や CYP2C19 多型、さらに細菌毒性因子(CagA および VacA)等、ピロリ菌除菌に影響を及ぼす可能性のある因子を広範に評価していた。従って人種差も含め genetic な背景の影響は少ないと考えられる。特にピロリ菌の感染はアジア圏に多いことが知られているので、本結果は日本人にも充分に活用できると個人的には考えています。 但し、現在の日本の状況に当てはまるかは、もう少し考察が必要であると考えられます。特に薬剤の用量や投与期間は日本のレジメンと異なっています。また2次アウトカムではありますが、ビスマス追加により副作用の発生率が絶対差で20%増えてしまいます(vs. 従来の 3剤療法)。 ですので、次回は日本でのピロリ菌除菌(→準備中です)について紹介いたします。]]>
コメント
[…] ピロリ菌の除菌治療は3剤より4剤の方が良いですか?(Lancet 2016; Charge)… […]