ランニングを続けると変形性膝関節症になりやすいのか?

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― ランナー7194人を含むシステマティックレビュー(Orthop J Sports Med. 2023)

ランニングをすると膝がすり減る?

「ランニングをすると膝の軟骨が減る」、ランニングをしている人なら、一度は耳にしたことがあるかもしれません。

確かにランニングでは膝関節に反復して負荷がかかります。そのため、長期間走り続けることで変形性膝関節症(knee osteoarthritis:膝OA)が進行するのではないか、という懸念があります。

一方、ランニングなどの身体活動は健康上のさまざまな利益をもたらし、むしろ膝OAに対して悪影響を与えない、あるいは保護的に働く可能性を示した研究もあります。

では実際のところ、ランナーは非ランナーより膝OAになりやすいのでしょうか?

今回は、ランニングと膝OAの関係を検討したシステマティックレビューを見ていきます。


臨床疑問

ランニングを行う人では、ランニングを行わない人と比較して、膝痛や画像上の変形性膝関節症が増加するのか?


研究の背景

ランニングが膝OAの発症・進行に及ぼす影響については、これまで一貫した結論が得られていません。

ランニングによる膝関節への反復的な負荷が関節軟骨の損傷やOAにつながる可能性を示唆する研究がある一方、ランニングはむしろ膝OAに対して保護的に作用する可能性があるという研究もあります。

そこでDhillonらは、ランニングの累積的な実施が膝OAまたは軟骨損傷にどのような影響を及ぼすのかを明らかにするため、既存研究をアップデートしてシステマティックレビューを行いました。


PICO

項目内容
P:Populationランナーおよび非ランナー
E:Exposure累積的なランニング(cumulative running)
C:Comparisonランニングを行わない人(nonrunners)
O:Outcome膝OA・軟骨損傷、単純X線所見、MRI所見、膝痛などのpatient-reported outcomes(PROs)

本研究は介入試験ではないため、「I:Intervention」ではなくE:Exposureとして理解する方が適切です。


試験デザイン

項目内容
研究デザインSystematic review
Level of EvidenceLevel 4
検索データベースPubMed、Cochrane Library、Embase
検索語“knee AND osteoarthritis AND (run OR running OR runner)”
採用研究数17研究
Level 2研究6研究
Level 3研究9研究
Level 4研究2研究
ランナー7,194人
非ランナー6,947人
総対象者数14,141人
評価方法単純X線、MRI、PROs
PROs膝痛、HAQ-DI、KOOSなど

17研究、合計14,141人がレビューに組み入れられました。

重要なのは、本研究はメタ解析ではないということです。

複数研究の結果を単一のRRやORとして統合するのではなく、各研究の画像所見や患者報告アウトカムをシステマティックにレビューしています。


対象者の特徴

特徴ランナー非ランナー
対象者数7,194人6,947人
平均年齢56.2歳61.6歳
平均追跡期間55.8カ月99.7カ月
全体の男性割合58.5%

ここで注意したいのが、ランナーと非ランナーで年齢と追跡期間が異なっていることです。

非ランナーは平均で約5歳高齢であり、さらに平均追跡期間もランナーより長くなっています。


試験結果から明らかになったことは?

ランニングで膝OAは増加した?

研究結果をアウトカム別に整理します。

評価項目主な結果統計学的評価
膝痛非ランナーで有病割合が高かったP<0.0001
脛骨大腿関節(TF)の骨棘1研究
ランナーに多かった
有意差あり
膝蓋大腿関節(PF)の骨棘1研究
ランナーに多かった
有意差あり
TF/PF関節裂隙狭小化複数研究
ランナーと非ランナーに明確な差なし
P>0.05
Kellgren-Lawrence gradeによる膝OA複数研究で明確な群間差なしP>0.05
MRIによる軟骨厚複数研究で明確な群間差なしP>0.05
人工膝関節置換術への進行1研究
非ランナー4.6%、ランナー2.6%
P=0.014

ランナーの方が膝痛は少なかった

興味深い結果の一つが膝痛です。膝痛の有病割合は、ランナーより非ランナーで有意に高いという結果でした(P<0.0001)。

つまり少なくとも今回採用された研究では、「走っている人ほど膝が痛い」という結果にはなっていませんでした。


X線やMRIではどうだった?

画像評価についても、ランニングによる明確な悪化は示されませんでした。

1研究ではランナーにおいて、tibiofemoral(TF:脛骨大腿)関節、patellofemoral(PF:膝蓋大腿関節)関節の骨棘(osteophyte)が有意に多いという結果が報告されています。

しかし複数の研究では、TF/PF関節裂隙狭小化、KLグレード、MRIによる軟骨厚について、ランナーと非ランナーの間に統計学的に有意な差を認めませんでした。

したがって、「ランニングによって画像上の膝OAが一貫して悪化する」という結果ではありませんでした。


人工膝関節置換術への進行は?

さらに興味深い結果として、1研究では膝OAからtotal knee replacement(人工膝関節置換術)へ進行する割合が検討されています。

結果は、非ランナー4.6%ランナー2.6%(P=0.014)でした。

つまり、この研究ではむしろ非ランナーの方が人工膝関節置換術へ進行する割合が高かったことになります。

ただし、これはレビュー全体で統合された結果ではなく、17研究のうち1研究の結果です。

この結果だけから「ランニングによって人工膝関節置換術を予防できる」と結論することはできません。


本研究から何が明らかになった?

本レビューでは、ランニングによって短期的に、膝痛などのPROsが悪化するあるいは、X線・MRIで膝OAが悪化するという一貫した関連は認められませんでした。

むしろ膝痛については非ランナーで多いという結果でした。

著者らは、短期的にはランニングはPROsや膝OAの画像所見悪化と関連せず、全般的な膝痛に対して保護的である可能性があると結論しています。

ただし、ここで使われているのは“may be protective”という慎重な表現です。「ランニングによって膝OAを予防できる」とまでは結論していません。


試験の限界―批判的吟味

今回の結果を「走れば走るほど膝が健康になる」と解釈するのは適切ではありません。

いくつか重要な限界があります。

① メタ解析ではない

本研究はsystematic reviewですが、各研究の結果を統合したメタ解析ではありません。

そのため、ランニングによる膝OAのRRはいくつなのかといった統合効果量は提示されていません。

また、各研究の結果を同じ重みで解釈することもできません。


② 採用研究のエビデンスレベルが高くない

17研究の内訳は、以下の通りです。なお、本論文自体のLevel of Evidenceも4とされています。

  • Level 2:6研究
  • Level 3:9研究
  • Level 4:2研究

ランニングを長期間無作為に割り付けるRCTは現実的に難しいため仕方のない面がありますが、観察研究を中心としたエビデンスである以上、交絡や選択バイアスを十分考慮する必要があります。


③ Healthy runner effectの可能性

特に重要なのが逆因果・自己選択です。

膝が健康だから走り続けられる人がランナー群に残り、膝が痛くなったからランニングをやめた人が非ランナー群に移る可能性があります。

そうであれば、ランニング → 膝痛が少ないのではなく、膝が健康 → ランニングを継続できるという逆方向の関係が結果の一部を説明する可能性があります。

したがって、非ランナーで膝痛が多かったことをもって、ランニングが膝痛を予防したと因果的に結論することはできません。


④ ランナーと非ランナーの年齢が違う

平均年齢は、以下の通りです。

ランナー:56.2歳
非ランナー:61.6歳

膝OAは加齢と強く関連するため、この約5歳の差は無視できません。

もちろん個々の研究では調整が行われている場合がありますが、レビュー全体の単純比較としては、非ランナーが高齢だったことが膝痛・OAの差に影響している可能性があります。


⑤ 追跡期間も大きく異なる

平均追跡期間は、以下の通りです。

ランナー:55.8カ月
非ランナー:99.7カ月

非ランナーの方が約44カ月長く追跡されています。

OAは長期間かけて進行する疾患です。そのため、観察期間が長ければOAや症状を検出する機会も増えます。

この違いも群間比較を解釈する際の重要な注意点です。


⑥ 「ランニング」の内容が一様ではない

ランニングといっても、さまざまです。

  • recreational running(レクリエーション)
  • competitive running(競技)
  • 長距離走
  • 走行距離
  • 頻度
  • 強度
  • 継続年数

したがって今回の結果を「どれだけ長距離を走っても膝OAリスクは増えない」と一般化することはできません。


⑦ 長期的な安全性までは分からない

論文タイトルにも“at Short-Term Follow-up”と明記されています。著者らの結論も“In the short term”という限定付きです。

したがって、このレビューから数十年単位のランニングによる膝OAへの影響まで否定することはできません。


それでも「ランニング=膝がすり減る」とは言えなさそう

今回のレビューから最も実臨床的に重要なのは「ランニングをしているから将来、膝OAになる」という単純な図式を支持する結果ではなかったことでしょう。

17研究、ランナー7,194人、非ランナー6,947人を検討したところ、複数研究でX線上の膝OAやMRI上の軟骨厚に明確な差はなく、膝痛はむしろ非ランナーで多いという結果でした。

ただし、これは「ランニングには膝OA予防効果がある」ことを証明したわけでもありません。

観察研究中心のエビデンスであり、healthy runner effect、年齢差、追跡期間の違いなどによる交絡・選択バイアスを考慮する必要があります。

したがって現時点では、「少なくとも短期的には、ランニングが膝OAや膝痛を悪化させるという一貫したエビデンスは認められない」程度に解釈するのが妥当でしょう。


まとめ

17研究、計14,141人(ランナー7,194人、非ランナー6,947人)を対象としたシステマティックレビューでは、短期的なランニングは膝痛などの患者報告アウトカムや、X線・MRIによる膝OA所見の悪化と関連していませんでした。

むしろ膝痛は非ランナーで有意に多く(P<0.0001)、1研究では人工膝関節置換術への進行も非ランナーで多い結果でした(4.6% vs 2.6%、P=0.014)。

ただし、本研究はメタ解析ではなく、観察研究を中心としたシステマティックレビューです。ランナーの方が若く、追跡期間も短いうえ、膝が健康だから走り続けられるという逆因果・healthy runner effectも考えられます。

したがって、「ランニングが膝OAを予防する」と因果関係を断定することはできません。一方で、本研究は少なくとも、「ランニングをすると膝がすり減ってOAになる」という単純な認識を支持するものではないと考えられます。

再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。

続報に期待。

person in red long sleeve shirt

✅まとめ✅ システマティックレビューの結果、短期的には、ランニングは膝OAの患者報告アウトカム(PRO)や放射線学的所見の悪化とは関連しておらず、一般的な膝の痛みを予防する可能性が示唆された。

根拠となった試験の抄録

背景: ランニングは膝の変形性関節症(OA)のリスクを高めるという研究結果がある一方で、ランニングは保護的な役割を果たすという研究結果もある。

目的: ランニングが膝OAの発症に及ぼす影響を明らかにするため、最新の系統的文献レビューを実施する。

研究デザイン: 系統的レビュー;エビデンスレベル:4。

方法: PubMed、Cochrane Library、Embaseデータベースを検索し、画像診断および/または患者報告アウトカム(PRO)に基づいて累積的なランニングが膝OAまたは軟骨損傷の発症に及ぼす影響を評価した研究を特定することで、系統的レビューを実施した。使用した検索語は「knee AND osteoarthritis AND (run OR running OR runner)」であった。患者は、単純X線写真、磁気共鳴画像(MRI)、およびPRO(膝痛の有無、健康評価質問票-障害指数、膝損傷および変形性関節症アウトカムスコア)に基づいて評価された。

結果: 7194人のランナーと6947人の非ランナーを含む17件の研究(レベル2の研究6件、レベル3の研究9件、レベル4の研究2件)が選択基準を満たした。平均追跡期間は、ランナー群で55.8か月、非ランナー群で99.7か月であった。平均年齢は、ランナー群で56.2歳、非ランナー群で61.6歳であった。男性の割合は全体で58.5%であった。非ランナー群では膝の痛みの有病率が有意に高かった(P < .0001)。ある研究では、ランナーグループでは脛骨大腿関節(TF)と膝蓋大腿関節(PF)の骨棘の発生率が有意に高いことがわかったが、複数の研究では、ランナーと非ランナーの間で、レントゲン写真による膝OAの発生率(TF/PF関節腔狭窄またはKellgren-Lawrence分類に基づく)やMRIによる軟骨厚に有意差は見られなかった(P > .05)。ある研究では、非ランナーでは膝OAが進行して人工膝関節置換術に至るリスクが有意に高いことがわかった(4.6% vs 2.6%、P = .014)。

結論: 短期的には、ランニングは膝OAの患者報告アウトカム(PRO)や放射線学的所見の悪化とは関連しておらず、一般的な膝の痛みを予防する可能性がある。

キーワード: 膝関節、変形性関節症、ランニング

引用文献

Effects of Running on the Development of Knee Osteoarthritis: An Updated Systematic Review at Short-Term Follow-up
Jaydeep Dhillon et al. PMID: 36875337 PMCID: PMC9983113 DOI: 10.1177/23259671231152900
Orthop J Sports Med. 2023 Mar 1;11(3):23259671231152900. doi: 10.1177/23259671231152900. eCollection 2023 Mar.
― 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36875337/

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