感情理解・感情調整の発達を検討した横断研究
感情語を増やすと感情コントロールが上手くいくのか?
子どもの感情理解(emotion understanding)や感情調整(emotion regulation)は、社会性や学業、メンタルヘルスの基盤となる重要な発達課題です。一方で、これらの能力が家庭内でどのように社会化されるのかについては、十分に解明されていない点も多く残されています。
今回ご紹介する研究は、感情語(emotion words)の知識に注目し、子どもの感情調整能力との関連を検討した事前登録済み(preregistered)横断研究です。
構成主義的理論(constructionist theories)の枠組みに基づき、感情語が感情理解・感情調整の発達に果たす役割を検証しています。
試験結果から明らかになったことは?
◆背景
構成主義的理論では、子どもは養育者との相互作用を通じて、
- 「怒り」「悲しみ」「喜び」といった感情カテゴリーを表す言葉と、
- それぞれの感情に対応する概念的表象
を結び付けて学習すると考えられています。
この過程により、子どもは感情を識別・理解・調整できるようになると仮定されます。本研究では、この理論的枠組みを踏まえ、感情語知識を感情理解の中核的要素として位置づけています。
◆研究概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 研究デザイン | 事前登録済み横断研究 |
| 解析手法 | パス解析(path analysis) |
| 対象 | 子ども252名(4〜8歳)とその養育者 |
| 社会経済的背景 | 主に低社会経済的地位(low SES) |
| データ収集期間 | 2018年〜2024年 |
| 主な変数 | 子どもの感情語知識、感情調整(適応的・非適応的)、言語知能、養育者の感情調整困難・情動表出 |
◆検討された仮説の枠組み
本研究では、以下の関係が検討されました。
- 暗黙的な養育者の感情社会化
(養育者自身の感情調整困難・情動表出)- ↓
- 子どもの感情語知識
- ↓
- 子どもの感情調整(適応的/調整不全)
◆主な結果
1. 感情語知識と感情調整の関係
- 子どもの感情語知識は、養育者報告による「適応的な感情調整」と関連していました。
- 感情語を多く理解している子どもほど、より適応的な感情調整を示す傾向が認められました。
2. 養育者要因と感情語知識
- 養育者の感情調整困難や情動表出の程度は、子どもの感情語知識とは関連しませんでした。
- すなわち、養育者側の情動特性が直接的に感情語知識を規定するという結果は得られていません。
3. 言語知能を介した間接効果
- 子どもの言語知能 → 感情語知識 → 適応的感情調整
という間接効果が確認されました。 - 言語能力の高さが、感情語知識を通じて感情調整能力に結び付く可能性が示唆されています。
4. 感情調整困難(dysregulation)との関連
- 養育者の感情調整困難は、子どもの感情調整困難と直接的に関連していました。
- この関係は、感情語知識を介さない直接効果として観察されています。
試験の限界
本研究の解釈にあたっては、以下の点に注意が必要です。
- 横断研究である点
本研究は横断デザインであり、
- 感情語知識が感情調整を高めたのか- 感情調整能力の高い子どもが感情語を学びやすいのか
といった因果関係は判断できません。
- 感情調整能力の高い子どもが感情語を学びやすいのか
- 評価の一部が養育者報告に依存
子どもの感情調整は養育者による報告で評価されており、
- 観察者バイアス
- 養育者自身の感情特性の影響
を受ける可能性があります。 - 対象集団の限定性
主に低社会経済的地位(low SES)の家庭が対象であり、
他の社会経済的背景を持つ集団に結果を一般化できるかは不明です。 - 感情語知識の測定範囲
抄録からは、感情語知識の具体的な測定方法・語彙範囲の詳細が確認できず、
感情理解全体をどの程度代表しているかは慎重な解釈が必要です。
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◆まとめ
本研究は、感情語知識が子どもの適応的な感情調整と関連することを示し、構成主義的理論を支持する結果を報告しています。一方で、養育者の感情調整困難は、感情語知識を介さずに子どもの感情調整困難と直接的に関連していました。
これらの結果は、
- 感情語の理解が感情調整の発達において重要な役割を果たす可能性
- 同時に、家庭内の情動的環境そのものが子どもの調整困難に影響し得ること
を示唆しています。
ただし、因果関係の解釈には限界があり、今後は縦断研究や介入研究による検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 横断研究の結果、感情制御スキルの発達において感情語の知識が重要であることを強調する構成主義理論と一致しており、家庭環境が子どもの感情語の知識の発達をどのように支えるかを明らかにし始めている。
根拠となった試験の抄録
感情理解と感情調節は子どもの発達において重要な役割を果たしますが、これらの概念がどのように社会化されるかについては、まだ十分に解明されていません。構成主義理論によれば、子どもは養育者と交流する中で、感情のカテゴリーを表す言葉を特定の感情の概念的表象と関連付けることを学び、その結果、感情理解が深まるとされています。この事前登録済みの研究では、感情語の知識が感情理解の重要な特徴であると考えています。2018年から2024年の間に収集された、主に社会経済的地位の低い子ども252名(4~8歳)とその養育者の横断的サンプルを用いたパス分析により、子どもの感情語の知識を通して、親の暗黙的な感情社会化(感情調節や感情表現の難しさ)が子どもの感情調節に及ぼす間接的な影響を調べました。親の感情調節や感情表現の難しさは子どもの感情語の知識とは無関係でしたが、子どもの感情語の知識は、子どもの適応的な感情調節に関する親の報告を予測するものでした。さらに、子どもの言語知能が、子どもの感情語の知識を通して、適応的な感情制御に間接的な影響を与えることが観察されました。対照的に、親の感情制御の困難さが、子どもの感情制御不全に直接的な影響を与えることが観察されました。これらの知見は、感情制御スキルの発達において感情語の知識が重要であることを強調する構成主義理論と一致しており、家庭環境が子どもの感情語の知識の発達をどのように支えるかを明らかにし始めています。
引用文献
Children’s emotion word knowledge is associated with adaptive emotion regulation: Links to family-level and child-level factors
Michelle Shipkova et al. PMID: 40424154 PMCID: PMC12354048 (available on 2026-05-26) DOI: 10.1037/emo0001543
Emotion. 2025 Dec;25(8):1982-1996. doi: 10.1037/emo0001543. Epub 2025 May 26.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40424154/

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