■ 納豆は健康に良い?
「納豆は健康に良い」といわれますが、科学的な根拠はどの程度あるのでしょうか?
今回紹介するのは、地域在住の高齢男性を約12年間追跡した前向きコホート研究で、納豆摂取量と死亡リスクの関連を検討した疫学研究です。
しかし、こうした栄養疫学では、健康志向バイアス(Health-conscious user bias)と呼ばれる問題も避けられません。
本記事では研究結果とともに、バイアスの観点からどこまで解釈できるのかを丁寧に解説します。
■ 試験結果から明らかになったことは?
◆研究概要
本研究は、納豆摂取(アンケート調査)と死亡率の関連を、Cox比例ハザードモデルで評価したものです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 65歳以上の在宅男性 2,174例(解析対象 1,548例) |
| 追跡期間 | 平均12.0年(18,553人年) |
| アウトカム | 全死亡(430例) |
| 納豆摂取分類 | ・摂取なし ・週に数パック ・1日1パック以上 |
| 解析 | 多変量調整Coxモデル |
◆結果
▼ 納豆摂取量と死亡率
| 摂取量 | HR | 95% CI |
|---|---|---|
| 摂取なし | 1.00 | ― |
| 週に数パック | 0.603 | 0.441–0.825 |
| 1日1パック以上 | 0.786 | 0.539–1.145 |
➡ 最も死亡リスクが低かったのは「週に数パック」群(40%低下)
➡ 1日1パック以上は低下傾向にあるが有意差なし
▼ 摂取継続パターンと死亡率
| パターン | HR | 95% CI |
|---|---|---|
| 両時点で摂取なし | 1.00 | ― |
| 継続して週数パック or 1日1パック | 0.700 | 0.507–0.966 |
➡ 長期的に継続して食べている人で30%の死亡リスク低下
■ どこまで「納豆の効果」と言えるのか?
ここで重要なのが 健康志向バイアス(Health-conscious user bias) です。
▼ 健康志向バイアスとは?
「健康に良いとされる食品を選ぶ人は、他の健康的行動も同時に実践しているため、食品単体の効果が過大評価される」現象を指します。
本研究のような 観察研究(非介入研究) では避けることのできないバイアスとして知られています。
■ 本研究における健康志向バイアスの可能性
① 納豆を食べる人は他の健康習慣も良い可能性
研究では「納豆量」だけが調査されていますが、通常納豆を食べる人は、
- 野菜・魚などバランスの良い食事
- 適度な運動
- 喫煙率が低い
- 早期受診・医療リテラシーが高い
などの健康的な生活パターンを持つことが多いとされています。
これらは死亡率改善に大きく影響するため、納豆摂取との関連が強く見える可能性があります(残余交絡)。
② 食事調査は自己申告 → 誤差が大きい
食品摂取量はアンケートに依存しており、精度に限界があります。
食習慣の詳細(総エネルギー、他の大豆製品など)が十分に調整されていなければ、納豆以外の要因が影響している可能性があります。
③ 高齢者特有の逆因果(Reverse causation)もあり得る
健康状態が悪化すると、
- 食欲低下
- 固形物摂取の困難
- 食事制限
などにより、納豆を食べる回数が減ることがあります。
つまり
「健康だから納豆が食べられる」
という関係が一部に存在する可能性があります。
これは食品疫学データではよく指摘される問題です。
■ この研究から言えること・言えないこと
✔ 言えること
- 高齢男性において、納豆摂取が多い人ほど死亡率が低かった
- 特に「週に数パック摂取」で最もリスクが低かった
- 長期的な継続摂取でより低リスクだった
上記は統計的関連(association)として示された事実です。
❌ 言えないこと
- 「納豆が寿命を延ばす」と断言すること
- 「納豆が死亡率低下の直接原因」とすること
- 女性や若年層での効果
観察研究では因果関係(causality)を証明できないため、解釈には必ずバイアスの可能性が伴います。
■ まとめ
| 結論 | 位置づけ |
|---|---|
| 納豆摂取量が多いほど死亡率が低いという関連が示された | 事実(データに基づく) |
| 週に数パック摂取が最も低リスクだった | 事実 |
| 納豆が死亡率低下の原因であるとは言えない | 健康志向バイアス・残余交絡のため |
| 健康習慣全体の一部として納豆摂取が位置づけられる可能性 | 妥当な解釈 |
今回の研究は、納豆の健康影響を示す重要なデータですが、食品疫学研究の特性として、バイアスを常に念頭に置いた読み解きが必要です。
加えてサンプルサイズは約2000です。コホートの規模としては症例数がもっと欲しいところです。再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 前向きコホート研究の結果、習慣的に納豆を大量に摂取すること、特に長期にわたる摂取は、高齢男性の全死亡リスクの低下と関連していた。
根拠となった試験の抄録
背景と目的: 発酵大豆食品には様々な形態があり、それぞれが死亡率に及ぼす影響は異なります。しかしながら、個々の発酵大豆製品の摂取が死亡率に及ぼす影響を調査した疫学研究はほとんどありません。本研究は、地域在住の高齢男性を対象に、発酵大豆である納豆の摂取と全死亡率との関連を約15年間の追跡調査で調査することを目的としました。
方法: 本前向きコホート研究には、65歳以上の男性2,174名が参加し、うち2,012名がベースライン調査を完了した。5年後と10年後に追跡調査を実施し、死亡率をアウトカムとした。参加者は乳製品納豆の摂取に関する質問票に回答した。納豆摂取と全死亡率との関連について、Cox比例ハザードモデルを用いてハザード比(HR)を算出した。
結果: 最終解析対象集団は1548名の男性であった。平均追跡期間12.0年(18553.3人年)の間に、430名の死亡が確認された。納豆を「全く摂取していない」群と比較した場合、「週に数パック」および「1日に1パック以上」のHRは、それぞれ0.603(95%信頼区間(CI)0.441~0.825)、0.786(95%CI 0.539~1.145)であった。「ベースラインと初回追跡の両方で摂取していない」群と比較した場合、「ベースラインと初回追跡の両方で週に数パックと1日に1パックの組み合わせ、またはベースラインと初回追跡の両方で週に数パック」群のHRは0.700(95%CI 0.507~0.966)であった。
結論: 習慣的に納豆を大量に摂取すること、特に長期にわたる摂取は、高齢男性の全死亡リスクの低下と関連していた。
キーワード: 高齢者、疫学、発酵大豆、男性、死亡率
引用文献
A 15-year cohort study of self-reported fermented soybean (natto) intake and all-cause mortality in elderly men
Yuki Fujita et al. PMID: 40516860 DOI: 10.1016/j.clnesp.2025.06.017
Clin Nutr ESPEN. 2025 Aug:68:699-706. doi: 10.1016/j.clnesp.2025.06.017. Epub 2025 Jun 13.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40516860/

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