用量増量・期間延長における効果比較:テルビナフィン vs. イトラコナゾール
高温多湿の環境では、白癬(皮膚糸状菌感染症)とくに体部白癬(tinea corporis)や股部白癬(tinea cruris)が増加します。
これらの治療には経口抗真菌薬が用いられますが、近年はテルビナフィン(terbinafine)やイトラコナゾール(itraconazole)への耐性例が報告され、従来用量・期間での治療失敗が課題となっています。
今回ご紹介するのは、テルビナフィンとイトラコナゾールの用量・期間を増強した場合の有効性と安全性を比較した二重盲検ランダム化比較試験(RCT)の結果です。
試験結果から明らかになったことは?
◆背景
テルビナフィンはスクアレンエポキシダーゼ阻害薬で、白癬菌に対し殺真菌的に作用します。一方、イトラコナゾールはエルゴステロール合成阻害を介し、真菌の細胞膜形成を阻害します。
従来はテルビナフィンの方が治癒率が高いとされてきましたが*耐性株(特にTrichophyton mentagrophytes complex)の増加により、イトラコナゾール再評価の動きが見られます。
◆研究概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 研究デザイン | ランダム化比較試験(prospective, comparative study) |
| 対象 | 体部白癬または股部白癬の患者320名 |
| 群分け | グループI(n=160):テルビナフィン500mg経口投与 グループII(n=160):イトラコナゾール200mg経口投与 |
| 治療期間 | 4週間 |
| 評価指標 | かゆみ(pruritus)、鱗屑(scaling)、紅斑(erythema)のスコア変化(2週・4週)/真菌学的治癒率/臨床的改善度 |
| 安全性評価 | 胃腸障害、頭痛、味覚異常などの有害事象を記録 |
◆結果◆
◆主要評価項目:真菌学的治癒率(4週時点)
| 治療群 | 治癒率(4週) |
|---|---|
| テルビナフィン群 | 74.3% |
| イトラコナゾール群 | 91.8% |
➡ イトラコナゾール群の方が有意に高い治癒率を示しました。
◆臨床症状の改善(スコア変化)
| 期間 | 比較項目 | テルビナフィン群 (%変化) | イトラコナゾール群 (%変化) | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 0〜2週 | 鱗屑 | 5.4 | -4.8 | 有意差あり(p<0.05) |
| 2〜4週 | 鱗屑 | 16.7 | 29.6 | 有意差あり(p<0.05) |
| 0〜4週 | かゆみ・紅斑 | 両群で有意改善 | 両群で有意改善 | 群間差なし |
➡ 鱗屑の改善スピードはイトラコナゾール群で優れていた一方、かゆみ・紅斑は両群で類似していました。
◆有害事象
| 症状 | 発生頻度 |
|---|---|
| 消化器症状(嘔気、腹部不快感など) | 軽度/両群で同程度 |
| 頭痛 | 軽度/一過性 |
| 味覚異常 | 一部報告 |
➡ いずれも軽度で可逆的。両群間で安全性に差はありませんでした。
結果の解釈
本試験では、いずれの薬剤も4週間の投与で臨床的・真菌学的改善を示しましたが、イトラコナゾール群で治癒率・鱗屑改善がより高かったことが注目されます。
近年、インドを中心に報告されるテルビナフィン耐性株(SQLE遺伝子変異株)の増加が背景にあると考えられます。また、イトラコナゾールは角層への親和性が高く、皮膚内濃度の持続性にも優れる点が臨床効果を支えた可能性があります。
一方で、両薬剤とも安全性に大きな差はなく、耐性や薬物相互作用、肝機能障害リスクを考慮し、個別の症例に応じて選択すべきと考えられます。
試験の限界
- 単一施設で実施された研究であり、地域特性(耐性菌分布)の影響がある可能性
- 用量・期間設定が「増量・延長」と記載されているが、標準量との差異は詳細不明
- 4週間という比較的短期間の追跡で、再発率や長期安全性は評価されていない
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◆まとめ
本研究の結論は以下の通りです。
- テルビナフィン・イトラコナゾールともに効果・安全性は良好
- 4週間治療での真菌学的治癒率はイトラコナゾール(91.8%)が優れる
- 鱗屑の改善スピードもイトラコナゾールで速い傾向
- 有害事象は軽微で、両群に有意差なし
これらの結果から、再発例や耐性が疑われる白癬ではイトラコナゾールの使用が有力な選択肢となる可能性が示唆されます。
日本ではテルビナフィン錠(商品名:ラミシール)は125mg、イトラコナゾールカプセル(商品名:イトリゾール)は100~200mgで承認・使用されています。研究の背景から、日本でも同様の結果が示されるのかは不明であり、副作用の発現も異なる可能性があります。
再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 二重盲検ランダム化比較試験の結果、イトラコナゾールとテルビナフィンは股部白癬と体部白癬の治療において同等に効果的で安全である。ただし、4週目終了時点の真菌学的治癒は、イトラコナゾール群では91.8%、テルビナフィン群では74.3%であった。
根拠となった試験の抄録
目的: 皮膚糸状菌感染症は、高温多湿の気候によって悪化する一般的な真菌感染症です。テルビナフィンとイトラコナゾールは、この感染症に対する一般的な経口抗真菌薬です。しかし、従来の用量と期間で使用すると、これらの薬剤に対する耐性が増加しています。そこで本研究は、テルビナフィンとイトラコナゾールを用量と期間を増やして使用した場合の、体部白癬および股部白癬の治療効果を比較することを目的としています。
材料と方法: 本ランダム化比較試験では、股部白癬および体部白癬の患者をそれぞれ160名ずつ2群に無作為に分け、テルビナフィン500mgを4週間投与する群(I群)およびイトラコナゾール200mgを4週間投与する群(II群)を4週間経口投与した。掻痒、鱗屑形成、および紅斑のスコアとスコア変化率を2週目および4週目に評価した。
結果: 4週目終了時点で、イトラコナゾール群では91.8%の患者に真菌学的治癒が認められたのに対し、テルビナフィン群では74.3%であった。0週目から4週目にかけて、掻痒、鱗屑化、紅斑の変化率は両群で有意に改善した。群間比較では、鱗屑化の変化率は、I群では0週目から2週目(5.4 vs. -4.8)、II群では2週目から4週目(16.7 vs. 29.6)で有意に差があった。臨床全般の改善はイトラコナゾール群で良好であった。軽度の副作用として、胃腸障害、頭痛、味覚障害が認められたが、両群で同程度であった。
結論: イトラコナゾールとテルビナフィンは股部白癬と体部白癬の治療において同等に効果的で安全であると思われます。
キーワード: 有効性、イトラコナゾール、テルビナフィン、体部白癬、股部白癬
引用文献
Efficacy of oral terbinafine versus itraconazole in treatment of dermatophytic infection of skin – A prospective, randomized comparative study
Anuradha Bhatia et al.
Indian J Pharmacol. 2019 Mar-Apr;51(2):116-119. doi: 10.4103/ijp.IJP_578_17.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31142947/


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