認知症に対する降圧薬の影響は?
高血圧治療に広く用いられるACE阻害薬(ACEI)とアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)。これらは血圧コントロールだけでなく、脳血管疾患や認知機能に影響を及ぼす可能性が指摘されています。
しかし、どの薬剤クラスが認知症リスクにより有利なのかは、十分に明らかではありませんでした。
本研究は、香港、イギリス、スウェーデン、オーストラリアの電子健康データを統合した大規模国際共同研究で、ACEIとARBの使用開始がその後の認知症発症リスクにどのように関与するかを検証しました。
試験結果から明らかになったことは?
◆研究方法
- デザイン:多国籍コホート研究
- 対象者数:1,925,563人
- 追跡期間:中央値 5.6〜8.4年
- 比較:
- ACEI開始群 vs. ARB開始群
- アウトカム:
- 一次:全認知症発症リスク
- 二次:アルツハイマー病(AD)、血管性認知症(VaD)
統計解析は逆確率重み付けを用いたCox比例ハザードモデルで行い、各国データをメタ解析で統合しました。
◆結果(アウトカム別まとめ)
アウトカム | 結果 | ハザード比 (HR) | 95%信頼区間 (CI) |
---|---|---|---|
全認知症 | ARBで有意に低減 | 0.92 | 0.89–0.94 |
血管性認知症(VaD) | ARBで有意に低減 | 0.87 | 0.78–0.96 |
アルツハイマー病(AD) | 差なし | — | — |
◆結果の解釈
- ARB開始はACEI開始に比べ、全認知症および血管性認知症のリスク低減と関連していました。
- 一方で、アルツハイマー病に関しては差が認められませんでした。
- このことから、脳血管性要因が関与する認知症においてARBの優位性が示唆されます。
◆研究の限界
- 観察研究のため、因果関係を直接証明するものではありません。
- 医師の処方選択や生活習慣など、残存交絡因子の影響を完全には排除できません。
- 各国での診断基準や医療体制の違いが結果に影響した可能性もあります。
◆まとめ
今回の多国籍大規模コホート研究により、ARBはACEIよりも全認知症および血管性認知症の発症リスクを低減する可能性が示されました。高血圧治療薬の選択において、長期的な認知症予防の観点を考慮することが今後ますます重要になるでしょう。
あくまでも仮説生成的な結果であることから、再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 多国籍コホート研究の結果、ACE阻害薬と比較してARBは全原因認知症および血管性認知症(VaD)のリスクが低いことと関連していた。
根拠となった試験の抄録
背景: アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)とアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)は多くの患者にとって第一選択の降圧薬であり、アンジオテンシン系への影響が認知症リスクに影響を及ぼす可能性がある。本研究の目的は、大規模な多国籍データベース研究において、ACEIと比較した異なるクラスの降圧薬への曝露が認知症および病的認知症サブタイプのリスクに影響を及ぼすかどうかを調査することであった。
方法: 香港、英国、スウェーデン、オーストラリアの電子健康データベースを用いた多国籍集団ベースのコホート研究である。研究デザインの統一を図るため、共通プロトコルが用いられた。異なる降圧薬クラス間の全原因認知症リスクを比較するため、新たなユーザーデザインである実薬対照試験(アクティブコンパレータ)を適用し、副次アウトカムとしてアルツハイマー病(AD)および血管性認知症(VaD)を設定した。各研究施設における結果は、治療確率の逆数で重み付けした調整Cox比例ハザードモデルを用いて生成され、メタアナリシスに統合された。
結果: 4つのデータベースから192万5,563人が登録され、追跡期間の中央値は5.6~8.4年であった。ACE阻害薬(ACE阻害薬)と比較して、ARBの投与開始は、全原因認知症(ハザード比(HR)0.92、95%信頼区間(CI)0.89~0.94)およびVaD(HR 0.87、95%信頼区間 0.78~0.96)の発症リスクの減少と関連していたが、ADの発症リスクは低下しなかった。
結論: 本研究は、異なるクラスの降圧薬と認知症発症リスクを調査した、これまでに実施された最大規模の多国籍コホート研究である。降圧薬の投与を開始する際、医師と患者は、リスク・ベネフィット評価において、ACE阻害薬と比較してARBは全原因認知症および血管性認知症(VaD)のリスクが低いことを考慮すべきである。
キーワード: 降圧薬、認知症、多国籍コホート研究、高齢者
引用文献
Antihypertensive drug classes and risk of incident dementia: a multinational population-based cohort study
Edmund C L Cheung et al.
Age Ageing. 2025 May 3;54(5):afaf121. doi: 10.1093/ageing/afaf121.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40413804/
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