CKD合併2型糖尿病患者におけるDPP-4阻害薬の不適切投与とリスク(データベース研究; Mayo Clin Proc. 2020)

flyers about diabetes 02_循環器系
Photo by Pavel Danilyuk on Pexels.com
この記事は約6分で読めます。
ランキングに参加しています!応援してもよいよという方はポチってください!

DPP-4阻害薬の不適切投与と患者転帰との関連性は?

DPP-4阻害薬は2型糖尿病(T2DM)の治療薬として広く用いられていますが、薬剤によっては腎機能に応じて投与量を調整する必要があります。

慢性腎臓病(CKD)を有する患者に対し、用量調整が不充分なまま投与されているケースが少なくないことが報告されていますが、その影響度については充分に検証されていません。

そこで今回は、不適切な投与が臨床アウトカム(救急外来受診、低血糖、死亡)に与える影響を評価した韓国のデータベース研究の結果をご紹介します。


試験結果から明らかになったことは?

  • 研究デザイン:後ろ向き観察コホート研究
  • データベース:韓国国民健康情報データベース(Korean National Health Information Database)
  • 対象:2012年1月~2014年12月にDPP-4阻害薬を処方されたT2DM + CKD患者 82,332例(30~75歳)
  • 群分け:腎機能に応じて適切に用量調整された群 vs. 不適切投与群
  • アウトカム:救急外来受診、重度低血糖、死亡
  • 解析:Cox比例ハザードモデルによる調整後ハザード比(HR)を算出

◆主な結果

アウトカム不適切投与群 vs 適切投与群ハザード比 HR(95%CI)
死亡率リスク増加1.115(1.005–1.237)
救急外来受診リスク増加1.074(1.018–1.133)
重度低血糖リスク増加1.192(1.054–1.349)
  • 2009~2011年には約40%の患者が不適切投与を受けていたが、2015年には24.4%まで減少していた。

◆考察

  • CKD合併T2DM患者の約3人に1人が不適切なDPP-4阻害薬投与を受けていた。
  • 不適切投与は、死亡・救急外来受診・重度低血糖のいずれもリスク増加と関連していた。
  • 不適切処方の割合は年次とともに減少傾向にあるものの、依然として臨床上の課題である。

◆試験の限界

  • 観察研究であるため、因果関係の断定は困難。
  • データベース研究のため、処方遵守やライフスタイル要因の影響を完全には調整できない可能性がある。
  • 韓国のデータに基づくため、他国への一般化には注意が必要。

◆まとめ

  • CKD合併T2DM患者ではDPP-4阻害薬の不適切投与が依然として多く、死亡・救急外来受診・重度低血糖のリスク増加と関連していた。
  • 臨床現場においては、腎機能に基づいた適切な用量調整が極めて重要である可能性がある。

今回の研究で対象となったDPP-4阻害薬は以下の8種類ですが、特にシタグリプチンとビルダグリプチンの不適切投与が多かったことが示されています。また、全体での不適切投与率は2009年の約40%から2015年には24.4%に低下していました(Supplemental Figure 1参照)。

  • アログリプチン(Alogliptin)   商品名:ネシーナ
  • アナグリプチン(Anagliptin)   商品名:スイニー
  • ジェミグリプチン(Gemigliptin) ※日本未承認
  • リナグリプチン(Linagliptin)   商品名:トラゼンタ
  • サキサグリプチン(Saxagliptin)  商品名:オングリザ
  • シタグリプチン(Sitagliptin)   商品名:ジャヌビア
  • テネリグリプチン(Teneligliptin) 商品名:テネリア
  • ビルダグリプチン(Vildagliptin)  商品名:エクア

腎機能低下時に用量減量の必要がないのは、テネリグリプチン及びリナグリプチンです。他のDPP-4阻害薬は腎機能に応じた投与量設定が必要ではありますが、そもそもDPP-4阻害薬の血糖低下作用は限定的であり、低血糖やグルコーススパイクに伴う血管内皮機能の低下を引き起こすのかは懐疑的です。さらに解析されたデータは2015年までであり、現在の状況を反映できていない可能性が高いです。

救急外来受診、重度の低血糖、および死亡のリスク増加に関与している交絡因子の特定に加えて、再現性の確認や、より大規模な研究での検証が求められます。

続報に期待。

heart drawing on a sandy beach

✅まとめ✅ データベース研究の結果、2型糖尿病およびCKD患者の3人に1人はDPP-4阻害剤の投与が不適切であり、救急外来受診、重度の低血糖、および死亡のリスクが高かった。

根拠となった試験の抄録

目的: T2DMおよびCKD患者におけるDPP-4阻害剤の用量調整率とその安全性に関する実際の情報は限られているため、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)阻害剤の不適切な投与量を推定し、DPP-4阻害剤の不適切な投与量を処方された2型糖尿病(T2DM)および慢性腎臓病(CKD)患者における救急外来受診、低血糖、および死亡のリスクを評価すること。

対象と方法: 韓国国民健康情報データベースを用いて、2012年1月1日から2014年12月31日までの間にDPP-4阻害薬による治療を受けていた30歳から75歳までの2型糖尿病および慢性腎臓(CKD)患者82,332名を対象とした後ろ向き観察コホート研究を実施した。患者は、推計糸球体濾過量(EGR)に基づく用量調節の有無でDPP-4阻害薬の処方の有無に分類した。救急外来受診率、低血糖、および死亡率は、Cox比例ハザード回帰モデルを用いて推定したハザード比を用いて評価した。

結果: 2009年から2011年にかけて、2型糖尿病およびCKDの患者の約40%にDPP-4阻害薬の不適切な投与量が処方されていましたが、この割合は2015年に24.4%に減少しました。DPP-4阻害薬の不適切な投与量と適切な投与量のハザード比(95%CI)は、交絡因子の多変量調整後、死亡率で1.115(1.005-1.237)、救急外来受診で1.074(1.018-1.133)、重度低血糖で1.192(1.054-1.349)でした。

結論: 2型糖尿病およびCKD患者の3人に1人はDPP-4阻害剤の投与が不適切であり、救急外来受診、重度の低血糖、および死亡のリスクが高かった。

引用文献

Outcomes for Inappropriate Renal Dose Adjustment of Dipeptidyl Peptidase-4 Inhibitors in Patients With Type 2 Diabetes Mellitus: Population-Based Study
Sangmo Hong et al. PMID: 31812252 DOI: 10.1016/j.mayocp.2019.06.010
Mayo Clin Proc. 2020 Jan;95(1):101-112. doi: 10.1016/j.mayocp.2019.06.010. Epub 2019 Dec 4.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31812252/

コメント

タイトルとURLをコピーしました