ヒトペギウイルス(HPgV)感染とパーキンソン病との関連性は?
パーキンソン病(PD)は、加齢とともに進行する神経変性疾患で、遅発性の運動障害や認知機能の低下を特徴とします。
これまでに遺伝的要因(例:LRRK2変異)や環境因子が関与することが知られてきましたが、不明な部分も多く、更なる研究が求められていました。
今回ご紹介する研究ではヒトペギウイルス(HPgV)感染がパーキンソン病の発症や病態進行に関与する可能性が示唆されました。
試験結果から明らかになったことは?
■研究手法:
- ウイルス網羅解析(ViroFindプラットフォーム)
- qPCR(定量PCR)
- RNAシークエンシング(RNA-Seq)
- 免疫組織化学(IHC)
- IGF-1、pS65-ユビキチンなどのバイオマーカー測定
■ HPgVの脳内検出率
群 | HPgV陽性率 |
---|---|
パーキンソン病患者(脳組織) | 50%(5/10人) |
健常対照(年齢・性別マッチ) | 0%(0/14人) |
- 免疫染色でも2例でHPgV抗原の脳内存在を確認
■ 病理・分子マーカーとの関連
- HPgV陽性のPD患者は、Braakステージ(病理進行度)が高く、Complexin-2(神経伝達関連タンパク)レベルが上昇
- 血液中のHPgV陽性例では、IGF-1(成長因子)増加・pS65-ユビキチン低下 ⇒ 代謝異常・ミトファジー障害を示唆
■ 免疫応答の変化
- RNA-Seq解析で、HPgV感染例ではIL-4シグナル抑制(免疫バランスの変調)を一貫して確認
- LRRK2遺伝子型との相互作用も観察され、IL-4応答性やHPgVウイルス量に遺伝的な影響
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◆HPgVはパーキンソン病の一因となり得るのか?
本研究では、HPgV感染とパーキンソン病の発症・進行との関連が複数のレベルで示唆されました。HPgVはこれまで臨床的病原性がはっきりしないとされてきたウイルスですが、今回の解析では:
- 脳組織レベルでの存在確認
- 病理学的進行との関連
- 免疫シグナルの変化
- 遺伝子型(LRRK2)との相互作用
という多面的な関連が示されています。
特に、免疫応答の破綻(IL-4抑制)やミトファジー異常といった、パーキンソン病に関連する病態メカニズムとの接点も報告されており、HPgVは単なる「共存ウイルス」ではなく、神経変性を促進する環境因子の一つである可能性が考えられます。
◆試験の限界
- 検体数が非常に限られている(脳:PD10例・対照14例)
- 観察研究であり、因果関係は不明
- ヒトペギウイルスの感染経路や持続性の個体差も不明
- PD症状や進行との臨床的な相関分析は未実施
今後の検討課題
- より大規模な患者コホートでの検証(HPgV感染率・PD発症率との関連)
- 感染モデル(動物・細胞)を用いた機構的解明
- HPgVの感染経路、脳移行性、神経親和性の詳細な解析
- 免疫調整療法や抗ウイルス療法との関連可能性
まだまだ検証が求められる段階ではありますが、ヒトペギウイルス(HPgV)感染がパーキンソン病の発症や病態進行に関与している可能性が示唆されました。
まずは再現性の確認が求められることになりますが、治療薬、ワクチン開発など、パーキンソン病に対する予防や治療方法の確立が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 観察研究の結果、ヒトペギウイルス(HPgV)感染がパーキンソン病の発症や病態進行に関与している可能性が示唆された。
根拠となった試験の抄録
背景:パーキンソン病(PD)は、遺伝的要因と環境的要因の両方が病因となる神経変性疾患です。ウイルス感染は、PD病態に影響を与える潜在的な環境誘因です。
方法・方法:全ビロームシーケンスのための偏りのないプラットフォームであるViroFindと定量PCR(qPCR)を用いて、PD脳10例中5例(50%)でヒトペギウイルス(HPgV)を同定し、2例中2例でIHCにより確認されたことから、PDとの関連が示唆されました。年齢と性別を一致させた14例の対照群はすべてHPgV陰性でした。HPgV脳陽性のPD患者では、ブラークステージ(Braak stage)とコンプレキシン-2(Complexin-2)レベルによる神経病理学的変化が顕著でしたが、血中陽性患者ではIGF-1が高くpS65ユビキチンが低く、HPgVに対する代謝またはマイトファジーの阻害を示唆しています。 RNA-Seqにより、HPgV感染PD検体において、脳および血液におけるIL-4シグナル伝達の一貫した抑制を含む、免疫シグナル伝達の変化が明らかになりました。血液検体の縦断的解析では、遺伝子型依存的なウイルス反応が示され、HPgV力価はLRRK2遺伝子型依存的にIL-4シグナル伝達と直接相関していました。YWHABはLRRK2遺伝子型反応における重要なハブ遺伝子であり、HPgV陽性PD患者においてNFKB1、ITPR2、そしてLRRK2自体を含む免疫関連因子と変化した関係を示していました。
結論:これらの結果は、HPgVがPD病態の形成に役割を果たしていることを示唆し、ウイルス感染、免疫、そして神経病態形成の複雑な相互作用を浮き彫りにしています。
キーワード: 遺伝的変異、神経変性、神経科学、パーキンソン病、ウイルス学
引用文献
Human pegivirus alters brain and blood immune and transcriptomic profiles of patients with Parkinson’s disease
Barbara A Hanson et al. PMID: 40626361 PMCID: PMC12244338 DOI: 10.1172/jci.insight.189988
JCI Insight. 2025 Jul 8;10(13):e189988. doi: 10.1172/jci.insight.189988.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40626361/
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