◆ はじめに
新生児の細菌性敗血症は、早期の診断と適切な抗菌薬治療が生存率に直結する疾患です。しかし、「何日間抗菌薬を投与すべきか」については、明確なエビデンスに乏しいのが実情でした。
今回ご紹介する研究は、血液培養で細菌陽性となった新生児敗血症に対し、7日間の抗菌薬投与が14日間投与と比べて非劣性であるかを検証したランダム化比較試験です。
◆ 試験デザインと対象
- 研究の目的:7日間の抗菌薬治療が14日間と比較して非劣性(non-inferiority)であることを確認すること。
- デザイン:ランダム化・比較試験(非劣性試験)、アウトカム評価はマスキング(盲検化)で実施。
- 対象:出生体重1,000g以上、血液培養陽性の新生児敗血症例。
- 除外条件:黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染、真菌性敗血症、長期治療が必要な感染症。
- 登録数:予定700例(各群350人) → 実際は 261人(7日群126人、14日群135人)で早期終了。
◆ 介入と比較
群 | 治療内容 |
---|---|
7日間群 | 抗菌薬7日間投与で終了 |
14日間群 | 抗菌薬14日間継続(ランダム化以降さらに7日間) |
*全例、ランダム化時点で臨床的に改善(寛解)していることが前提条件となっています。
試験結果から明らかになったことは?
◆ 主要評価項目と結果
🔹 主要評価項目:抗菌薬終了後21日以内の再発(確定または疑い)
評価項目 | 7日群 | 14日群 | リスク差(RD) |
---|---|---|---|
抗生物質投与完了後21日以内の再発 | 2/125人 | 6/130人 | RD -3.0% (99.5%CI -9.2% ~ +3.1%) |
→ 非劣性マージン(+7%)を下回り、7日間治療は非劣性と判定されました。
🔹 副次評価項目(複合アウトカム:死亡・再発・再感染)
評価項目 | 7日群 | 14日群 | RD(99.5% CI) |
---|---|---|---|
複合イベント発生 | 少数 | やや多い | RD -3.7%(-12.4 ~ +5.1) |
🔹 入院期間
- 7日群の方が有意に短縮(中央値で4日短縮、95%CI -5日 ~ -3日)
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◆ 解説:なぜ短期治療が可能なのか?
臨床的に改善した新生児において「血液培養陽性=長期治療必須」という従来の考え方を再検討する必要があることが示唆されました。特に、本研究では感受性抗菌薬に対する臨床的な反応が明確な症例に限定しており「症状が改善したのに漫然と治療を延ばしているケース」への警鐘とも捉えられます。
◆ 臨床的意義と今後の展望
- ✅ 抗菌薬投与期間の短縮は、薬剤耐性(AMR)の抑制や新生児への薬物負担軽減、入院期間・医療費の削減にも貢献します。
- ✅ 今回の研究はLMIC(低・中所得国)におけるエビデンスであり、リソースが限られる医療現場においても実践可能な知見です。
◆ 試験の限界
- 早期中止されたため、予定症例数に満たなかった
→ 非劣性の判定には十分な症例数が求められるため、再現性検証が必要。 - 対象は“感受性のある菌種”に限られている
→ 黄色ブドウ球菌や真菌など、難治性感染への一般化は不可。 - 試験はLMICで実施されており、ハイインカム国との医療体制差に注意
◆ 結論
「新生児敗血症の抗菌薬治療は7日間でも十分なケースがある」
この研究は、臨床的に寛解した症例において、抗菌薬の適正使用を推進する重要なエビデンスとなります。
慎重な観察のもと、抗菌薬治療の“質”と“期間”を見直すことで、より安全かつ効率的な新生児ケアが可能になるかもしれません。
続報に期待。

✅まとめ✅ ランダム化比較試験の結果、合併症のない細菌性新生児敗血症の場合、7日間の抗生物質投与は14日間の抗生物質投与より劣らない可能性が示されたが、検出力不足の可能性がある。
根拠となった試験の抄録
目的: 新生児敗血症に対する抗菌薬投与期間に関する明確なガイドラインは存在しない。培養検査で陽性と判明した敗血症の治療において、7日間の抗菌薬投与は14日間の投与に非劣性であるとの仮説を立てた。
設計: 低所得国および中所得国の8つのセンターで、アウトカム盲検化評価を伴うランダム化比較非劣性試験。
患者: 出生体重(BW)が1000g以上で、血液培養により敗血症が確認された新生児は、敗血症が臨床的に寛解していることを条件に、感受性抗生物質療法の7日目にランダムに割り付けられました。
除外例: 黄色ブドウ球菌または真菌性敗血症、および長期の抗生物質投与を必要とする感染症。
主要評価項目の発現率10%、非劣性マージン+7%、片側α5%、検出力90%、追跡不能率10%を想定し、各群350例を登録する計画とした。
介入: 7日間(追加治療なし); 比較: 14日間(ランダム化後7日間)。
主要評価項目: 抗生物質投与完了後21日以内の再発(確定または再発の可能性あり)。
副次的評価項目: 死亡率または確定/疑い/二次性敗血症と入院期間の複合。中間解析(プロトコル(PP)ごと)を1回実施する予定。
結果: 7日間群と14日間群にそれぞれ126名と135名の被験者が登録され、平均出生体重(BW)は2250.9(SD 741.1)gと2187.8(SD 718.8)gでした。中間PP解析に基づき、試験は早期に終了しました。7日間群と14日間群でそれぞれ125名中2名と130名中6名が主要評価項目を達成しました(リスク差(RD) -3.0%、99.5%CI -9.2% ~ +3.1%、非劣性マージン未満)。複合副次評価項目でも7日間レジメンが良好でした(RD -3.7%、99.5%CI -12.4% ~ +5.1%)。入院期間は7日間群の方が短かった(中央値差 -4日、95%CI -5 ~ -3)。
結論: 合併症のない細菌性新生児敗血症の場合、7日間の抗生物質投与は14日間の抗生物質投与より劣らない可能性がある。
試験登録番号: NCT03280147
キーワード: 新生児学、敗血症、治療
引用文献
Seven-day versus 14-day antibiotic course for culture-proven neonatal sepsis: a multicentre randomised non-inferiority trial in a low and middle-income country
Sourabh Dutta et al. PMID: 40280737 DOI: 10.1136/archdischild-2024-328232
Arch Dis Child Fetal Neonatal Ed. 2025 Apr 25:fetalneonatal-2024-328232. doi: 10.1136/archdischild-2024-328232. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40280737/
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