NSAIDsと認知症リスクの関係は?
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、抗炎症作用に加えて、アミロイドβの蓄積を抑える可能性も指摘されており、認知症の予防に効果があるのではないかと長年考えられてきました。
しかし、これまでの観察研究や短期介入試験では結果が一貫せず、NSAIDsの使用期間や投与量がリスクにどのように影響するかは明らかではありませんでした。
今回紹介するロッテルダム研究は、1991年から最大2020年まで、約30年にわたってNSAIDs使用と認知症発症リスクの関連を検討した大規模前向きコホート研究です。
試験結果から明らかになったことは?
試験デザインと対象
項目 | 内容 |
---|---|
研究デザイン | 前向き観察コホート研究(ロッテルダム研究) |
対象者 | 認知症のない成人 11,745人(平均年齢66.2歳、女性59.5%) |
追跡期間 | 平均14.5年(最長29年) |
NSAIDs使用データ | 地域薬局の調剤記録より、期間・用量を累積評価 |
NSAIDs使用区分 | 非使用、短期使用(1か月未満)、中期使用(1~24か月)、長期使用(24か月超) |
統計解析 | NSAIDs使用を時間変数としたCox回帰モデル/共変量調整あり(生活習慣、併存疾患、併用薬など) |
主な結果
NSAIDs使用期間 | 認知症リスク(HR [95%CI]) |
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非使用 | 1.00(基準) |
短期使用(<1か月) | 1.04(1.02–1.07)※わずかにリスク増加 |
中期使用(1~24か月) | 1.04(1.02–1.06) |
長期使用(>24か月) | 0.88(0.84–0.91) ※リスク低下 |
- 累積用量はリスク低下とは関連しなかった
(最高四分位群でもHR 0.99[0.96–1.02]) - アミロイドβ抑制作用のないNSAIDsの長期使用において、より強い関連(HR 0.79[0.74–0.85])がみられた
コメント
このロッテルダム研究の最大のポイントは、NSAIDsの長期使用(2年以上)が認知症の発症リスクを有意に低下させる可能性を示した点です。
一方で、使用期間が短い場合はむしろリスクがわずかに増加しており、NSAIDsの予防的使用には “持続的な使用” が重要である可能性があります。
また、使用量そのもの(累積用量)ではリスク低下はみられず、あくまで「期間」が重要な要因であることが示唆されました。
注目すべきは、アミロイドβを直接抑制しないNSAIDs群の方が、むしろリスク低下の効果が大きかったという結果です。これは、NSAIDsの抗炎症作用による慢性神経炎症の抑制が、認知症予防に関与している可能性を支持しています。
ただし、本研究は観察研究であるため、NSAIDs使用者と非使用者との背景因子の違い(残余交絡)の影響を完全には否定できません。また、副作用について言及されていないことから、リスクベネフィットの観点からの再評価が求められます。
そもそも認知症の発症リスクの高い患者でNSAIDsが使用されなかった可能性(逆もまた然り)もあります。また、ハザード比による認知症リスク評価において、12%のリスク低下が示されていますが、実臨床においてどの程度の有益性があるのか別途評価が求められます。
再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 約30年にわたる大規模前向きコホート研究の結果、NSAIDsの長期使用は認知症リスクの低下と関連したが、使用量では関連しなかった。
根拠となった試験の抄録
背景:NSAIDsは、抗炎症作用およびアミロイドβ抑制効果により認知症リスクを低下させる可能性がある。しかし、観察研究や短期の無作為化試験では結果が一貫せず、使用期間や用量との関係は明確でない。
方法:本研究では、認知症のない11,745人を対象とし、1991年以降の地域薬局の調剤データからNSAIDsの累積使用期間および用量を評価した。使用期間は、非使用、短期(<1か月)、中期(1〜24か月)、長期(>24か月)に分類された。NSAIDs使用を時間変数とするCox回帰モデルを用いて、2020年までの認知症発症との関連を評価した。また、NSAIDsのアミロイドβ抑制効果の有無による層別解析も実施した。
結果:平均14.5年の追跡期間中、9520人(81.1%)がNSAIDsを何らかの時点で使用しており、2091人が認知症を発症した。長期使用者では認知症リスクが低下した(HR 0.88、95%CI 0.84–0.91)。一方、短期または中期使用ではわずかにリスクが増加した。NSAIDsの累積用量と認知症リスクには有意な関連はなかった。アミロイドβ抑制作用のないNSAIDsの長期使用において、より強いリスク低下がみられた(HR 0.79、95%CI 0.74–0.85)。
結論:NSAIDsの長期使用は認知症リスクの低下と関連したが、使用量では関連しなかった。これは、強度よりも持続的な抗炎症作用が認知症予防に寄与する可能性を示唆している。
引用文献
Long-term non-steroidal anti-inflammatory drug use and dementia risk: the Rotterdam Study
Olsthoorn L, Ikram MA, Darweesh SKL, et al. PMID: 40040336 DOI: 10.1111/jgs.19411
Alzheimers Dement. 2024 Apr 2. doi:10.1002/alz.13845
ー 続きを読む:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40040336/
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