高血圧治療薬は夜間頻尿の原因となり得るのか?
夜間頻尿(nocturia)は、加齢に伴い増加する排尿症状のひとつで、生活の質(QOL)を大きく低下させる要因の一つです。
高血圧は夜間頻尿としばしば併存し、降圧薬の中には利尿作用や血管拡張作用を通じて排尿に影響を及ぼすものもありますが、どの降圧薬が夜間頻尿と関連しているかについては、明確なエビデンスが限られていました。
そこで今回は、日本人男性を対象に、降圧薬の種類と夜間頻尿の関連について検討したとした横断研究の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
試験デザインと対象
項目 | 内容 |
---|---|
試験デザイン | 単施設、横断的後向き研究 |
対象 | 40歳以上の男性418人 |
評価項目 | IPSS(国際前立腺症状スコア)の第7項目に基づく夜間頻尿の回数 夜間2回以上の排尿を「臨床的に重要な夜間頻尿」と定義 |
結果の要約
- カルシウム拮抗薬(CCB)を服用している患者は、その他の降圧薬または降圧薬を服用していない患者と比較して、夜間排尿回数が有意に多いことが示されました
- CCB単独群:1.77 ± 1.07回
- CCB+他剤併用群:1.90 ± 1.19回
- 他の降圧薬のみ群:1.48 ± 0.98回
- 非服用群:1.35 ± 1.08回
- p=0.014(CCB単独 vs. 非服用)、p<0.0001(CCB+他剤併用 vs 非服用)、p=0.91(他剤のみ vs. 非服用) - 血圧の高低と夜間頻尿回数には有意差はみられませんでした
- 多変量解析にて、夜間頻尿と有意に関連する因子は以下の通り:
- カルシウム拮抗薬の使用:オッズ比(OR)2.68、p<0.0001
- 年齢:OR 1.06、p<0.0001
コメント
降圧治療と夜間頻尿との関連性が報告されていますが充分に検証されていません。
さて、日本の横断研究の結果、降圧薬の中でも特にカルシウム拮抗薬(CCB)の使用が夜間頻尿と有意に関連することが明らかとなりました。
他の降圧薬(ARBやACE阻害薬、β遮断薬など)では夜間頻尿との関連は見られず、CCB特有の薬理作用(末梢血管拡張に伴う体液移動や反射性の利尿など)が関係している可能性が示唆されます。
ただし、男性を対象とした横断研究の結果であるため、因果関係まで言及することはできません。また、群間の夜間頻尿回数の絶対差は、1回未満です。統計学的解析の結果で有意差が示されていても、臨床学的に重要であるとは結論付けられません。
高血圧治療を行う中で夜間頻尿に悩む高齢男性患者に対しては、降圧薬の種類による副作用の個別化対応が求められるかもしれません。今後は、前向き研究による因果関係の検証や、女性や他疾患群を含めた拡大研究が期待されます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 日本の横断研究の結果、Ca拮抗薬の使用は夜間頻尿と関連していたが、他の降圧薬および高血圧自体とは関連しなかった。ただし、夜間頻尿のリスク増加までとは結論付けられない。
根拠となった論文の抄録
背景:夜間頻尿と高血圧、ならびに降圧薬(AHTs)との関連は、いまだ検証段階である。
方法:この横断研究では、血圧および主要な降圧薬クラスが夜間頻尿と一貫した関連を有するかどうかを検討した。合計418人の40歳以上の男性患者について、国際前立腺症状スコア(IPSS)、処方薬、血圧に関する情報を後ろ向きに評価した。夜間頻尿はIPSSの第7項目を用いて評価され、1晩あたり2回以上の夜間排尿を臨床的に重要な夜間頻尿と定義した。
結果:カルシウム拮抗薬(CCB)を服用している患者(単独または他の降圧薬と併用)は、降圧薬を使用していない患者と比較して夜間排尿回数が多かった(平均±標準偏差で、CCB単独:1.77±1.07、CCB+他剤:1.90±1.19、他剤単独:1.48±0.98、非服用:1.35±1.08;それぞれp=0.014、p<0.0001、p=0.91)。
一方で、血圧が高値であるか正常であるかによる夜間排尿回数の差は有意ではなかった。
多変量解析の結果、CCBの使用(オッズ比(OR)= 2.68、p < 0.0001)および年齢(OR = 1.06、p < 0.0001)が、臨床的に重要な夜間頻尿と独立して関連していた。
結論:CCBの使用は夜間頻尿と関連していたが、他の降圧薬および高血圧自体とは関連しなかった。
キーワード:降圧薬、血圧、カルシウム拮抗薬、高血圧、夜間頻尿
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Calcium Channel Blockers Are Associated with Nocturia in Men Aged 40 Years or Older
Satoshi Washino et al. PMID: 33918949 DOI: 10.3390/jcm10081603
J Clin Med. 2021 Apr 9;10(8):1603.
ー 続きを読む:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33918949/
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