院外処方における薬剤師の役割は誤解されている?
薬剤師が揶揄される背景には、業務の本質が誤解されている点があると考えられます。日本では薬剤師が処方箋に基づいて薬を調剤し、患者に渡す姿が一般的に見られるため、「単なる作業」と捉えられやすい背景があります。しかし、薬剤師の職務には、処方監査、服薬指導、副作用管理、地域医療への貢献などが含まれ、単純作業で行える作業は限られています。
これらの誤解の背景には、制度的要因もあると考えられます。日本では薬剤師に独立した処方権がなく、医師の指示に従う形となるため、専門性が見えにくいと考えられます。しかし、実際には、処方箋の内容に対して疑義が生じた場合、医師に問い合わせ(疑義照会)を行っています。ある調査結果では、薬学的な疑義照会による処方内容の変更率が約75%*であったことが示されています(YAKUGAKU ZASSHI 136(9) 1263-1273. 2016)。
*結果の一部を抜粋:総枚数は297086枚であり,そのうち疑義照会を行った処方せん枚数は7607 枚,疑義照会の件数は8136件であった.疑義照会を行った処方せん枚数ベースの疑義照会率は2.6%であり,件数ベースの疑義照会率では2.7%であった.そのうち,形式的疑義照会の件数は1782件であり,形式的疑義照会率は21.9%,薬学的疑義照会の件数は6354件であり,薬学的疑義照会率は78.1%であった.また,薬学的疑義照会による処方変更率は74.9%であった.なお,回答薬局818軒の中で調査期間内に全く疑義照会を行わなかった薬局が62軒(7.6%)あった.
また、調剤報酬制度やメディアの影響により、薬剤師の役割が過小評価されることも多いでしょう。一方、薬剤師に対して否定的な意見を持つ集団の背景については不明です。
そこで今回は、調剤機能と処方機能の分離に関する国民の賛否や評価意見に影響を与える要因を明らかにすることを目的に実施されたアンケート調査(横断研究)の結果をご紹介します。
本研究では、2,006名を対象にWebアンケート調査が実施されました(2016年9月)。重ロジスティック回帰分析と、賛否の理由を自由に記録した定量分析が行われました。
試験結果から明らかになったことは?
アンケート回答者の背景
薬局来局経験者は1,778名、その中で現在定期的に受診している者は895名でした。薬局来局経験者(n=1,778)では、男性47.1%、女性52.9%、現在定期受診者(n=895)では男性48.3%、女性51.7%でした。
薬局来局経験者(n=1,778) | 現在定期受診者(n=895) | |
負担ない群 | 37.7% | 43.9% |
どちらでもない群 | 28.6% | 27.8% |
負担ある群 | 33.7% | 28.3% |
薬局での薬受け取りに対する負担感は、薬局来局経験者(n=1,778)では、負担ない群37.7%、どちらでもない群28.6%、負担ある群33.7%であり、現在定期受診者(n=895)では、ない群43.9%、どちらでもない群27.8%、ある群28.3%でした。
処方の賛否
薬局来局経験者(n=1,778) | 現在定期受診者(n=895) | |
院外処方賛成 | 29.2% | 32.2% |
院外処方賛成は薬局来局経験者(n=1,778)では29.2%、現在定期受診者(n=895)では32.2%でした。
いつも院内群(n=170) | いつも院外薬局群(n=430) | |
院外処方賛成 | 10.0% | 41.9% |
調整済み残差 | -6.9 | 6.0 |
さらに、現在定期受診者を処方薬の受け取り場所で分けて院外処方賛成をみたところ、いつも院内群(n=170)では10.0%と有意に少なく(調整済み残差=-6.9)、いつも院外薬局群(n=430)では41.9%と有意に多いことが示されました(調整済み残差=6.0)。
院外処方の賛否に関連する要因(量的分析)
オッズ比 OR(95%CI) | |
副作用経験 | OR 1.344(1.002~1.804) |
院外薬局の利用割合 | OR 1.474(1.322~1.643) |
薬局受け取りに対する負担感 | OR 0.193(0.160~0.233) 1/OR=5.181 |
薬局来局経験者(n=1,778)を対象とし、単変量ロジスティック回帰分析においてp<0.20であった7個の変数及び属性(性別・年齢5歳階級)を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った結果、副作用経験(OR 1.344、95%CI 1.002~1.804)、院外薬局の利用割合(OR 1.474、95%CI 1.322~1.643)、薬局受け取りに対する負担感(OR 0.193、95%CI 0.160~0.233、1/OR=5.181)において有意な関連性が認められました。
薬局定期利用者(n=430)を対象とし、単変量ロジスティック回帰分析においてp<0.20であった5個の変数及び属性(性別・年齢5歳階級)を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った結果、薬局受け取りに対する負担感(OR 0.189、95%CI 0.128~0.279)のみ有意な関連性が認められました。
院外処方賛否の評価の視点(質的分析)
院外処方賛否に係る評価視点のラベルをサービス評価4項目に分類したところ、該当しなかったラベルは2個であり、院外処方賛成群の院内処方に対する「処方への医療機関と製薬会社の関係性の影響」と院内処方反対群の院外処方に対する「社会全体の医療費」でした。サービス評価4項目に分類されたラベルは、内容の方向性を排除したラベルの略称では、結果品質は6個、過程品質は7個、道具品質は5個、費用では4個が見出されました。ラベルとしては全体として結果品質は7個、過程品質は9個、道具品質は5個、費用は5個のラベルが分類されました。
院内処方賛成での院外処方に対する院外処方賛成群(n=180)では院外処方に対する評価視点として14個、院内処方に対しては6個、院外処方反対群(n=250)では院外処方に対して7個、院内処方に対し4個が生成されました。
院外処方賛成群
院外処方賛成群では、薬物療法に関わる結果品質として、院外処方に対し「重複投薬・相互作用・併用禁忌のチェックの充実」、「不必要な薬の処方が抑制できる」、「薬学的管理サービスが充実」、「調剤技術サービスが充実」、「薬剤師の説明が充実」、院内処方に対し「調剤ミスの発生」「不必要な薬の処方が抑制できない」が分類されました。
過程品質として、院外処方に対し「薬剤師への相談のしやすさ」、「個人的ニーズへの対応(報酬は伴わない)が可能」、「ホスピタリティの提供」、「薬局の選択が可能」、「時間の損失回避」、「手間(移動の手間・二度手間)の発生」、院内処方に対し「時間の損失」、「手間(移動の手間・二度手間)の回避」が分類されました。
道具品質では院外処方に対し「都合に合わせた薬の受け取りが可能」、院内処方に対し「長時間滞在による負担・感染リスクあり」、費用では院外処方に対し「患者によるジェネリック医薬品の選択が可能」、「ポイントの付与」、院内処方に対し「支払額が安い」が分類されました。
殆どのラベルが院外処方に対する肯定的な評価内容でしたが、「手間(移動の手間・二度手間)」「支払額」では院外処方に対する否定的な評価内容でした。
院外処方反対群
院外処方反対群では、結果品質に該当するラベルは見出されませんでした。過程品質として院外処方に対し「時間の損失」、「手間(移動の手間・二度手間)の発生」、院内処方に対し「薬剤師と医師の連携の充実」、「時間の損失回避」が分類されました。
また、道具品質のラベルとして院外処方に対し「医薬品の在庫不備」、「移動による身体的負担の発生」、「物販が不愉快」、費用のラベルとして院外処方に対し「支払い額が高い」、「分かりにくい調剤報酬制度」、院内処方に対し「支払い額が安い」が分類されました。
院外処方賛成群と反対群の両方に共通したラベルの略称は、過程品質の「時間」、「手間(移動の手間・二度手間)」、費用の「支払い額」でした。
コメント
薬剤師の職能が国民に理解されるためには、その背景因子に目を向けることが必要であると考えられます。
さて、アンケート調査に基づく横断研究の結果、院外処方せんに対する国民の賛否は、薬局の薬物療法サービスに対する意見よりも、薬局で処方せんを応需する際に発生する負担や不便さ(待ち時間、移動に伴う時間や労力、移動に伴う不便さ、繰り返し受診する不便さなど)が主な判断基準となっているようです。
つまり、医療提供としての側面よりも、小売業としてのサービス提供のあり方に重きが置かれていると考えられます。これは日本独自の観点かもしれません。
したがって、薬剤師の職能や仕事内容そのものを否定されているわけではないといえます。引き続き、薬局で処方せんを応需する際に発生する負担や不便さ(待ち時間、移動に伴う時間や労力、移動に伴う不便さ、繰り返し受診する不便さなど)に見合うだけの価値を示していけばよいことになります。また、不便さを解消する取り組みを合わせて行っていくことで、より付加価値を感じてもらえるかもしれません。
昨今の医薬品供給問題に対する薬剤師の取り組みなども含めて、薬剤師の仕事内容を知ってもらえるよう情報発信し続けることで、国民の理解を得られるかもしれません。
続報に期待。

✅まとめ✅ アンケート調査に基づく横断研究の結果、院外処方せんに対する国民の賛否は、薬局の薬物療法サービスに対する意見よりも、薬局で処方せんを応需する際に発生する負担や不便さ(待ち時間、移動に伴う時間や労力、移動に伴う不便さ、繰り返し受診する不便さなど)が主な判断基準となっているようであった。
根拠となった試験の抄録
目的:本研究の目的は、調剤機能と処方機能の分離に関する国民の賛否や評価意見に影響を与える要因を明らかにすることである。
方法:2,006名を対象にWebアンケートを実施した(2016年9月)。重ロジスティック回帰分析と、賛否の理由を自由に記録した定量分析を行った。
結果:薬局受診経験者(n=1,778)の賛成率は29.2%、定期受診・常時薬局受診者(n=430)の賛成率は41.9%であった。薬局受診経験者(n=1,778)のデータを多重ロジスティック回帰分析したところ、副作用経験者(オッズ比 OR 1.34)、薬局の利用頻度(OR 1.47)、薬局で処方箋を記入することによる負担(OR 0.19、1/OR=5.18)と比較して、承認に有意な正の関連が認められた。また、承認群の質的データを分析したところ、「結果の質」に関するラベルが多く検出されたが、不承認群では「結果の質」に関するラベルは検出されなかった。
結論:院外処方せんに対する国民の賛否は、薬局の薬物療法サービスに対する意見よりも、薬局で処方せんを応需する際に発生する負担や不便さ(待ち時間、移動に伴う時間や労力、移動に伴う不便さ、繰り返し受診する不便さなど)が主な判断基準となっている。薬局利用時の負担に比べ、メリットのレベルを上げるための対策が必要である。
キーワード:医薬分業、外来薬局、混合法
引用文献
国民の院外処方賛否に関する評価の視点─混合研究法を用いて─
男全 恵里花 等.
社会薬学. 2017年36巻2号 p.78-87
— 読み進める www.jstage.jst.go.jp/article/jjsp/36/2/36_78/_article/-char/ja/
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