NSAIDsは湿布薬でも胃潰瘍を引き起こすのか?
一般に、臨床において非ステロイド性抗炎症外用パッチ(テープ剤、パップ剤など;以下、NSAIDsパッチ)が処方される場合、胃十二指腸潰瘍などの有害事象は考慮されません。しかし、局所投与であれば1〜2枚で済むはずのNSAIDsパッチを、患者は1日に使用する枚数を増やしてしまうことが多いことは実臨床でしばしばみられます。
多くのNSAIDsパッチ(大型パッチ4枚以上)を毎日使用すると、NSAIDsの血中濃度が有意に維持され、標準用量のNSAIDs経口投与と同様の有害事象を引き起こす可能性がありますが、有害事象あるいは副作用としての「胃潰瘍」の報告は限られています。
そこで今回は、ケトプロフェン(商品名:モーラス)テープ40mg製剤を毎日4~6枚使用し胃潰瘍を発症した症例報告の内容をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
症例
63才女性。10日前からの黒色便を主訴に来院、上部消化管内視鏡検査にて前庭部後壁に多発潰瘍を認めた・また胃角部小弯のRAC*と胃底腺ポリープを認め、後日測定した抗H.p.(ヘリコバクター・ピロリ)抗体価も3U/mL未満であり、H.p.未感染と判断。
*RAC(regular arrangement of collecting venules):内視鏡下、胃体部に集合細静脈が規則的に配列する像が観察されること。
検査実施医療機関ではNSAIDsの処方歴はなくH.p.も未感染であり、原因不明の潰瘍でした。
経過
酸分泌抑制剤による治療を開始しましたが、その後も上腹部症状と黒色便は持続し、5か月後、19か月後、25か月後でも治癒傾向は認められませんでした。
再度服薬歴を確認したところ、腰痛と下肢痛に対して他院よりケトプロフェン経皮製剤(モーラスⓇテープ)が処方されており、40mg製剤を毎日4~6枚使用していることが判明しました。
中止するように指示したところ、湿布で潰瘍ができるということに理解を得られませんでした。その後3か月かけて指導して湿布を中止してもらったところ、中止後2か月後より上腹部症状と黒色便が消失しました。
治癒確認のための内視鏡検査を提案しましたが同意を得る事に難渋し、53ヶ月後にようやく内視鏡検査による治癒傾向を確認できました。
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非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)の外用薬は、基本的に局所作用のため胃潰瘍等の副作用を引き起こすことについて関心が低いことが多いです。しかし、外用の貼付剤であっても使用量が増えれば内服薬と同様に胃潰瘍の発症リスクが高まります。
さて、症例報告から、1日4~6枚のケトプロフェンテープ40mg製剤の使用により胃潰瘍が引き起こされることが明らかとなりました。患者背景や使用する外用薬により胃潰瘍の発症リスクは異なるものの、基本的には1日2枚程度の使用にとどめた方がよいのかもしれません。
比較的新しいNSAIDs外用薬であるエスフルルビプロフェン(商品名:ロコア)テープや、ジクロフェナクナトリウム(商品名:ジクトル)テープは1日2枚までの使用制限がありますが、他の貼付薬については、明確な使用制限枚数は示されていません(OTC医薬品を除く)。この場合は、各製剤のインタビューフォームを参照すると、大体の使用目安量を算出することができます。
湿布薬は何枚で経口薬に匹敵するのか?
今回の症例で使用されていたモーラステープのインタビューフォーム(IF. 2024年10月改定 第20版)を参照すると、モーラステープ(ケトプロフェン20mg製剤)のAUCは、1枚貼付時のAUCが2,448±199ng・hr/mL、8枚貼付時のAUCは18,210±963ng・hr/mLです。8枚貼付のAUCが1枚貼付の何倍かを計算すると、18,210/2,448≒7.44、したがって「8枚貼付のAUCは1枚貼付の7.44倍」といえます。
同IFに記載のケトプロフェン速放性カプセル100mg(承認用量150mg/日)のAUCは 21,910±1570ng・hr/mLです。8枚貼付時のAUC(18,210ng・hr/mL)と比較すると、18,210/21,910≒0.83、したがって「8枚貼付のAUCは内服に匹敵(経皮的全身投与)する」といえます。約83%のAUCとなるため、十分に内服薬に近いと考えられます。
次に、モーラステープ20mg製剤の枚数とAUCとの相関と、IFから得られた実測値との乖離について考察していきます。モーラステープ20mg製剤1枚あたりのAUCは2,448ng・hr/mL、8枚では18,210ng・hr/mLであるため、これを枚数ごとに計算してみます。
- 1枚: 2,448ng・hr/mL
- 2枚: 2,448×2=4,896ng・hr/mL
- 4枚: 2,448×4=9,792ng・hr/mL
- 8枚: 2,448×8=19,584ng・hr/mL(IF記載の実測値18,210ng・hr/mL)
完全に比例はしていませんが、ほぼ直線的な増加傾向が見られるため「AUCは貼付枚数にほぼ比例する」と考えられます。
ただし、今回の症例で使用されていたのはモーラステープ40mg製剤です。そこで次に40mg製剤のAUCを推定していきます。
- 20mg製剤1枚のAUC:2,448ng・hr/mL
- 40mg製剤1枚の理論上のAUC:2,448×2=4,896ng・hr/mL(2倍と仮定)
症例では1日に4~6枚使用していましたので、これを基に各AUCを計算すると、
- 4枚使用時のAUC:4,896×4=19,584ng・hr/mL
- 6枚使用時のAUC:4,896×6=29,376ng・hr/mL
これらの値は内服薬100mgのAUC(21,910 ng・hr/mL) を超えており、6枚では約1.34倍になります。したがって「40mg製剤4~6枚の常用は、胃潰瘍の原因となりえる量」であることは、今回の症例報告を数値的にも裏付けられたことになります。
他の湿布薬でも過剰使用により胃潰瘍リスクは高まるのか?
ボルタレンテープ
例えば、ボルタレンテープのインタビューフォーム(IF. 2021年2月 改訂第9版)を参照すると、経皮製剤(30mg製剤・4枚貼布)のAUCは1,419±512ng・hr/mLです。一方、経口製剤(25mg錠)のAUC は998±84ng・hr/mLです。
1,419/998≒1.42
つまり、ボルタレンテープ 30mg×4枚のAUCは、経口25mgの約1.42倍に相当する計算になります。この条件下では、経皮投与のほうが内服よりAUCが高いことから、胃潰瘍の発症リスクが高まることになります。
ロキソニンテープ
一方、ロキソニンテープのインタビューフォーム(IF. 2024年10月改訂 第13版)を参照すると、ロキソニンテープ100mg製剤を1日2枚×5日間貼布した場合の活性代謝物であるトランス体の5日目AUCは470ng・hr/mLです。一方、経口製剤(60mg)の単回投与後のAUCは2,020±50ng・hr/mLです。
470/2,020≒0.23
つまり、ロキソニンテープ(100mg×2枚/日×5日)のAUCは、経口60mgの約23%であると考えられます。5日目の蓄積された状態で1回の経口投与に比べてまだ低いですが、使用枚数が多くなるにつれて、例えば8~9枚程度になると経口60mg・1錠に匹敵します。とはいえ、モーラステープやボルタレンテープほどのAUCには達しません。理論上は過剰使用による胃潰瘍リスクは比較的低いと考えられます(ロキソニン錠は連日投与の場合1日180mgまで使用可能)。
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いずれも理論上の話であり、併用薬や併存疾患などの患者背景により異なります。したがって、想定外の副作用を避けるためにも、湿布薬の過剰使用は避けた方がよいでしょう。
インタビューフォーム(IF)のデータやOTC医薬品の注意書きを踏まえると、いずれの製品も基本的な使用目安は1日1~2枚となります。ご参考までに。
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✅まとめ✅ 症例報告から、1日4~6枚のケトプロフェンテープ40mg製剤の使用により胃潰瘍が引き起こされることが明らかとなった。患者背景や使用する外用薬により胃潰瘍の発症リスクは異なるものの、基本的には1日2枚程度の使用にとどめた方がよいのかもしれない。
根拠となった試験の抄録
要旨:一般に、臨床において非ステロイド性抗炎症外用パッチ(以下、NSAIDsパッチ)が処方される場合、胃十二指腸潰瘍などの有害事象は考慮されない。しかし、局所投与であれば1〜2枚で済むはずのNSAIDsパッチを、患者は1日に使用する枚数を増やしてしまうことが多い。多くのNSAIDsパッチ(大型パッチ4枚以上)を毎日使用すると、NSAIDsの血中濃度が有意に維持され、標準用量のNSAIDs経口投与と同様の有害事象を引き起こす可能性がある。我々は、NSAIDsパッチの連日多量使用により胃潰瘍が遷延した症例を紹介する。この症例では、Helicobacter pylori感染は陰性であり、NSAIDsの経口投与はなく、NSAIDsパッチの中止により2年間存在した胃潰瘍が急速に治癒した。
引用文献
NSAIDs 経皮製剤(湿布)が原因と考えられた胃潰瘍の1例
木本正英 等
日本プライマリ・ケア連合学会誌 2019,vol.42,no.3, p.158-161
ー 続きを読む https://www.jstage.jst.go.jp/article/generalist/42/3/42_158/_pdf
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