がん患者による患者報告アウトカム・症状モニタリングは生存率を上昇させる?
進行がんの治療を受けている患者には症状がよくみられますが、臨床医が発見できないことが約半分もあることが知られています。
患者報告アウトカム(PRO)をルーチンのがん診療に組み込んで症状モニタリングを行うことに関心が高まっている一方で、臨床的有用性を示すエビデンスは限られています。
そこで今回は、ランダム化臨床試験の追跡調査に基づいて、患者報告式の電子症状モニタリングと通常ケアとの関連性を評価した試験結果をご紹介します。
本研究は、2007年9月~2011年1月にニューヨークのメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターで転移性固形がんに対する定型化学療法を開始した連続患者をランダム化比較試験に招待しました。試験参加者は、通常治療群またはPRO群にランダムに割り付けられ、PRO群では、米国国立がん研究所(National Cancer Institute)の有害事象に関する共通用語基準(Common Terminology Criteria for Adverse Events)に記載されている12の一般的な症状について、ウェブベースのPRO質問票プラットフォームを介して、患者が来院時および来院間に自己報告を行いました。試験への参加は、がん治療の中止、試験からの自発的離脱、ホスピスケアへの移行、または死亡まで継続されました。
プロトコールで規定された主要アウトカムは、登録時と比較した6ヵ月後の健康関連QOLの変化であり、サンプルサイズ決定の基礎となりました。副次的アウトカムである1年質調整生存期間(平均:PRO群8.7ヵ月 vs 通常ケア群8.0ヵ月;P= 0.004)、化学療法期間、救急部利用において有意な有益性が認められ、この結果は以前に報告されています(文献)。死亡率はNational Death Indexから確認されました。
全生存率はKaplan-Meier法により推定され、年齢、性別、人種、教育レベル、コンピュータの使用歴、および原発がんの種類を調整したログランク検定およびCox比例ハザード回帰に基づき群間で比較されました。
試験結果から明らかになったことは?
ランダム為化された766例のうち、年齢中央値は61歳(範囲 26~91)、86%が白人、58%が女性、22%が高校教育未満、30%がコンピュータ未経験でした。
全生存期間は、参加者766人中517人(67%)が死亡した後の2016年6月に評価され、その時点での追跡期間中央値は7年(四分位範囲 6.5~7.8)でした。
PRO群 | 通常ケア群 | ハザード比 (95%CI) | |
全生存期間 | 中央値 31.2ヵ月 (95%信頼区間 24.5~39.6) | 中央値 26.0ヵ月 (95%信頼区間 22.1~30.9) | ハザード比 0.83 (0.70~0.99) P=0.04 |
全生存期間中央値は、PRO群で31.2ヵ月(95%信頼区間 24.5~39.6)、通常ケア群で26.0ヵ月(95%信頼区間 22.1~30.9)でした(差 5ヵ月;P=0.03)。
多変量モデルでは、ハザード比 0.83(95%CI 0.70~0.99;P= 0.04)と統計学的に有意な結果が得られました。
コメント
患者報告アウトカム(PRO)は主観的な評価であり、しばしばバイアスが入り込みます。一方、がん患者においては、抗がん剤の副作用の早期発見、早期対応を行う必要があることから、この主観的評価の有用性が着目されています。しかし、実臨床における評価は充分に行われていません。
さて、ランダム化比較試験の副次評価の結果、転移性がん患者のルーチンケアにPROを統合することは、通常のケアと比較して生存期間の延長と関連することが示唆されました。潜在的な作用機序の1つは、患者の症状に対する早期対応であり、下流の有害な結果を防ぐことです。
あくまでも副次評価項目の結果ではありますが、期待の持てる結果です。再現性の確認も含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ ランダム化比較試験の副次評価の結果、転移性がん患者のルーチンケアにPROを統合することは、通常のケアと比較して生存期間の延長と関連していた。潜在的な作用機序の1つは、患者の症状に対する早期対応であり、下流の有害な結果を防ぐことである。
根拠となった試験の抄録
背景:進行がんの治療を受けている患者には症状がよくみられるが1、臨床医が発見できないことが半分もある2。患者報告アウトカム(PRO)をルーチンのがん診療に組み込んで症状モニタリングを行うことに関心が高まっているが、臨床的有用性を示すエビデンスは限られている3。われわれは、ランダム化臨床試験の追跡調査に基づいて、患者報告式の電子症状モニタリングと通常ケアとの関連性を評価した4。
方法:本研究は、Memorial Sloan Kettering施設審査委員会の承認を受け、参加者から書面によるインフォームドコンセントを得た。2007年9月~2011年1月にニューヨークのメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターで転移性固形がんに対する定型化学療法を開始した連続患者をランダム化比較試験に招待した。参加者は、通常治療群またはPRO群にランダムに割り付けられ、PRO群では、米国国立がん研究所(National Cancer Institute)の有害事象に関する共通用語基準(Common Terminology Criteria for Adverse Events)に記載されている12の一般的な症状について、ウェブベースのPRO質問票プラットフォームを介して、患者が来院時および来院間に自己報告を行った。参加は、がん治療の中止、試験からの自発的離脱、ホスピスケアへの移行、または死亡まで継続された。
PROグループの参加者が重篤な症状または悪化した症状を報告すると、その患者のケアを担当する臨床看護師に電子メールによる警告が発せられた。各参加者の症状負担履歴をプロファイリングした報告書は、担当の腫瘍専門医のための診療時に作成された。通常ケア群では、腫瘍科診療における症状モニタリングの標準的な手順が実施された:症状は臨床診察中に議論され、患者は診察の合間に気になる症状について電話連絡することができた。
プロトコールで規定された主要アウトカムは、登録時と比較した6ヵ月後の健康関連QOLの変化であり、サンプルサイズ決定の基礎となった。副次的アウトカムである1年質調整生存期間(平均:PRO群8.7ヵ月 vs 通常ケア群8.0ヵ月;P= 0.004)、化学療法期間、救急部利用において有意な有益性が認められ、以前に報告されている4。死亡率はNational Death Indexから確認した。全生存率はKaplan-Meier法を用いて推定し、年齢、性別、人種、教育レベル、コンピュータの使用歴、および原発がんの種類を調整したログランク検定およびCox比例ハザード回帰を用いて群間で比較した。すべての解析はSAS(SAS Institute)のバージョン9.4を用いて行われ、検定は両側で行い、P値は0.05未満を有意とした。
結果:ランダム為化された766例のうち、年齢中央値は61歳(範囲 26~91)、86%が白人、58%が女性、22%が高校教育未満、30%がコンピュータ未経験であった(報告4)。全生存期間は、参加者766人中517人(67%)が死亡した後の2016年6月に評価され、その時点での追跡期間中央値は7年(四分位範囲 6.5~7.8)であった。全生存期間中央値は、PRO群で31.2ヵ月(95%信頼区間 24.5~39.6)、通常ケア群で26.0ヵ月(95%信頼区間 22.1~30.9)であった(差 5ヵ月;P=0.03)。多変量モデルでは、ハザード比 0.83(95%CI 0.70~0.99;P= 0.04)と統計学的に有意な結果が得られた。
考察:転移性がん患者のルーチンケアにPROを統合することは、通常のケアと比較して生存期間の延長と関連していた。潜在的な作用機序の1つは、患者の症状に対する早期対応であり、下流の有害な結果を防ぐことである。看護師は、症状管理カウンセリングの提供、支持的薬物療法、化学療法用量の変更、および紹介を含む個別の臨床的介入により、症状警告に77%の割合で反応した4。もう1つの潜在的な機序は、介入群の患者が通常のケアよりも化学療法の継続に長く耐えることができたことである(平均、PRO群8.2ヵ月 vs 通常ケア群6.3ヵ月;差、1.9ヵ月[95%CI、0.7-3.0];P= 0.002)4。
この研究の限界は、単一の3次ケアがんセンターで実施されたこと、参加者の14%が非白人であったこと、22%が高校以下の教育レベルであったことである。全生存期間解析は事前に規定されていなかったが、この評価を実施することはデータ解析の前に決定されていた。
患者報告式の電子症状モニタリングは、質の高いがん治療の一環として導入が検討されるかもしれない。
引用文献
Overall Survival Results of a Trial Assessing Patient-Reported Outcomes for Symptom Monitoring During Routine Cancer Treatment
Ethan Basch et al. PMID: 28586821 PMCID: PMC5817466 DOI: 10.1001/jama.2017.7156
JAMA. 2017 Jul 11;318(2):197-198. doi: 10.1001/jama.2017.7156.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28586821/
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