非心臓大手術前のレニン-アンジオテンシン系阻害薬の継続 vs. 中止(RCT; Stop-or-Not試験; JAMA. 2024)

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RAS系薬は手術前に中止したほうが良いのか?

手術前にレニン-アンジオテンシン系阻害薬(RASI)(アンジオテンシン変換酵素阻害薬またはアンジオテンシン受容体拮抗薬)を服用している患者を管理する最良の戦略は不明です。エビデンスの欠如が相反するガイドラインを生んでいます。

そこで今回は、非心臓大手術前のRASIの継続戦略と中止戦略のどちらが術後28日目の合併症を減少させるかを評価することを目的に実施されたランダム化比較試験(Stop-or-Not試験)の結果をご紹介します。

本試験は、フランスの病院40施設で2018年1月~2023年4月の間に主要非心臓手術を受ける予定の、少なくとも3ヵ月間RASIによる治療を受けていた患者を対象としたランダム化比較試験です。

対象患者は、手術当日までRASIの使用を継続する群(n=1,107)と、手術48時間前にRASIの使用を中止する群(すなわち、手術3日前に最終投与を行う)(n=1,115)にランダムに割り付けられました。

本試験の主要転帰は全死亡と術後28日以内の主要術後合併症の複合でした。主な副次的転帰は、手術中の低血圧、急性腎障害、術後臓器不全、術後28日間の入院期間と集中治療室滞在期間でした。

試験結果から明らかになったことは?

2,222例の患者(平均年齢67歳[SD 10歳];男性65%)のうち、ベースライン時に46%がアンジオテンシン変換酵素阻害薬による治療を受けており、54%がアンジオテンシン受容体拮抗薬による治療を受けていました。

RASI中止群RASI継続群リスク比
(95%CI)
主要転帰
全死亡と術後28日以内の主要術後合併症の複合
22%
(1,115例中245例)
22%
(1,107例中247例)
リスク比 1.02
0.87~1.19
P=0.85
手術中の低血圧エピソード41%54%リスク比 1.31
1.19~1.44

全死亡および術後主要合併症の発生率は、RASI中止群で22%(1,115例中245例)、RASI継続群で22%(1,107例中247例)でした(リスク比 1.02、95%CI 0.87~1.19;P=0.85)。

手術中の低血圧のエピソードは、RASI中止群では41%、RASI継続群では54%にみられました(リスク比 1.31、95%CI 1.19~1.44)。

その他の試験成績に差はみられませんでした。

コメント

これまでの臨床試験の結果では、手術前にACE阻害薬やARBを継続している患者で、手術中の低血圧のリスクが増加することが示されています。この低血圧は一時的なものであることが多いとされていますが、特に心臓や大規模な手術の場合、低血圧による臓器への血流減少が合併症を引き起こす可能性があるとされています。

一方、RASIを中止することで、特に心血管系リスクが高い患者では、血圧や心血管系の状態が不安定になる可能性もあります。これにより、手術後の高血圧や心血管イベントのリスクが増加することが懸念されています。ただし、短期間の中止であれば、このリスクは比較的低いと考えられています。

診療ガイドラインの中には、手術前のレニン-アンジオテンシン系阻害薬(RASI)(アンジオテンシン変換酵素阻害薬またはアンジオテンシン受容体拮抗薬)の中止を推奨(提案も含)しているものがあります。これは、上記の臨床試験結果を踏まえ、術中の血圧コントロールを容易にするためです。一方、高血圧を有する患者においては、RASI中止により血圧コントロールが乱れる可能性もあり、血圧の乱高下により心血管系へのダメージ増加が懸念されることから、継続を推奨(提案を含)している診療ガイドラインもあります。このため、さらなる検証が求められています。

さて、ランダム化比較試験の結果、非心臓大手術を受けた患者において、手術前のレニン・アンジオテンシン系薬の継続戦略は中止戦略よりも術後合併症の発生率が高いこととは関連していませんでした。

ただし、対象患者は非心臓の大手術を受けた患者です。具体的な部位としては、腹部、胸部、血管、泌尿器科、整形外科、骨盤、脳神経外科、肝臓、その他(耳鼻咽喉科、再建外科、定義なし)です。これらの大手術においては、術中の血圧コントロールのためにRASIの中止を選択肢の一つとして考慮してもよいかもしれません。

続報に期待。

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✅まとめ✅ ランダム化比較試験の結果、非心臓大手術を受けた患者において、手術前のレニン・アンジオテンシン系薬の継続戦略は中止戦略よりも術後合併症の発生率が高いこととは関連していなかった。

根拠となった試験の抄録

試験の重要性:手術前にレニン-アンジオテンシン系阻害薬(RASI)(アンジオテンシン変換酵素阻害薬またはアンジオテンシン受容体拮抗薬)を服用している患者を管理する最良の戦略は不明である。エビデンスの欠如が相反するガイドラインを生んでいる。

目的:非心臓大手術前のRASIの継続戦略と中止戦略のどちらが術後28日目の合併症を減少させるかを評価すること。

試験デザイン、設定、参加者:フランスの病院40施設で2018年1月~2023年4月の間に主要非心臓手術を受ける予定の、少なくとも3ヵ月間RASIによる治療を受けていた患者を対象としたランダム化比較試験

介入:患者を、手術当日までRASIの使用を継続する群(n=1,107)と、手術48時間前にRASIの使用を中止する群(すなわち、手術3日前に最終投与を行う)(n=1,115)にランダムに割り付けた。

主要アウトカムと評価基準:主要転帰は全死亡と術後28日以内の主要術後合併症の複合であった。主な副次的転帰は、手術中の低血圧、急性腎障害、術後臓器不全、術後28日間の入院期間と集中治療室滞在期間であった。

結果:2,222例の患者(平均年齢67歳[SD 10歳];男性65%)のうち、ベースライン時に46%がアンジオテンシン変換酵素阻害薬による治療を受けており、54%がアンジオテンシン受容体拮抗薬による治療を受けていた。全死亡および術後主要合併症の発生率は、RASI中止群で22%(1,115例中245例)、RASI継続群で22%(1,107例中247例)であった(リスク比 1.02、95%CI 0.87~1.19;P=0.85)。手術中の低血圧のエピソードは、RASI中止群では41%、RASI継続群では54%にみられた(リスク比 1.31、95%CI 1.19~1.44)。その他の試験成績に差はみられなかった。

結論と関連性:非心臓大手術を受けた患者において、手術前のRASI継続戦略は中止戦略よりも術後合併症の発生率が高いこととは関連していなかった。

試験登録:ClinicalTrials.gov Identifier. NCT03374449

引用文献

Continuation vs Discontinuation of Renin-Angiotensin System Inhibitors Before Major Noncardiac Surgery: The Stop-or-Not Randomized Clinical Trial
Matthieu Legrand et al. PMID: 39212270 PMCID: PMC11365013 (available on 2025-03-02) DOI: 10.1001/jama.2024.17123
JAMA. 2024 Aug 30:e2417123. doi: 10.1001/jama.2024.17123. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39212270/

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